519話 みんな心配性
「ところでどうやってあそこまで来れたの? 私も場所把握してなかったのに……」
そう、実は気になっていた。
だって私は2、3日とかかかる気でいた。
でも早かったから驚いたんだよね。
この質問に表情ひとつ変えず、いつもの淡々とした調子でシーナは答えてくれる。
「元々、城に秘密の通路や隠し部屋があることは把握したいのです」
「え……なんでそんなこと知ってるの?」
「もともとシブニー教の幹部の計画には、長い時間をかけて国家を乗っ取る計画があったためですね」
「……は?」
「ですから、要地である城の図面や地図などの情報はある程度持っています。あとはお嬢様のイヤリングの魔力を辿りました」
よくわかった。
よくわかったのだけど。
間違ってるかもしれないから確認したい。
「……え、待って? これ私が昔放っておいてたらフィンセント終わってたってこと……?」
耳を疑うし冷や汗が出てきました。
えっえっそんなわけないよね……?
だって『学プリ』はどうなるのよ⁉︎
あれはハッピーエンドだったよ⁉︎
困惑で固まる私に、シーナが雑談のようにさらっと告げる。
「そうなる可能性もあったでしょう。もちろん、表向き大々的に変わることはありませんが——王族は女神様の血が濃いですから貴重ですし」
その言い方は不穏なんですけど⁉︎
まぁたしかにシブニー教だもんね⁉︎
一応女神様を祀る宗教だったもんね⁉︎
「でも逆に裏があるってことでは⁉︎」
「たくさんの貴族と癒着していましたので。いずれは」
「いずれは国乗っ取る気だったってことぉ⁉︎」
「来る日が来れば、王位継承権のある言いなりになる者以外を闇に葬り、実権を握る計画はあったと言えます」
「⁉︎ やばい私グッジョブすぎっ⁉︎」
たしかに物語の終わりは人生の終わりではないもんね!!??
え、それって考えるとさぁ!
もし私がシブニー教抹消してなくて!
アルとフィーちゃんが結婚してたら!
場合によってはお世継ぎ生まれた時点でクーデターとか起きて2人とも危なかったかもってことですよね!!??
いやそんなただでやられる人たちではないけど! でもこの手口の鮮やかさたるや……実感してるのは私の方なんだよなぁ⁉︎
「よかった! 私のものになってくれてよかった‼︎ こんな危ないもの野放しにできるわけないからみんなには死ぬまで私に仕えてもらいますからね⁉︎」
「⁉︎ そんな光栄なことが……⁉︎」
「今の、もう一度お願いします! 後世に語り継ぎたいので‼︎」
「あぁなんという事でしょう、このような喜びがあるとは……! 神に感謝します……‼︎」
なんかめちゃくちゃ喜ばれてるんですけど⁉
︎
感動で泣かれそうになるし、記録取られそうになるし、祈りを捧げられるし……なんでそうなったんでしょうね!
斜め上の反応が返ってきて戸惑いつつ、こんなに喜ぶのは今が自由だからなんだろうな……と思った。昔のシーナを思い出す。
本当は私がすごいんじゃない。
シーナが勇気を出したから今があるのだ。
私は頼まれたから助けただけだし。
それでもきっと彼らには、地獄で傷を負った心の支えになる信仰のようなものが必要な人も多いはずで。私はたまたまそれに選ばれたのだろう。
でもそれなら、言ってあげなくちゃいけない。
「……では上に立つ者として伝えておくけれど。あなたたち、闇魔法の使える者のあるかもしれないところに来てはいけないわ」
「それは……今回のような事がまたあれば、主を見捨てろということでしょうか?」
私の言葉にビスが尋ねてくる。探るような穏やかな口調だけれど、その顔は眉がひそめられてちょっと不満そうだ。
だけど言い切ってしまう。
「まぁ……そうね。だってあなたたちが生きてるのって、相手に手加減されたからだもの」
彼らが来た時。
裏ノア君は魔法を使っていない。
ただの体術でいなしたにすぎない。
「さっきの相手が何を使うかまでは調べられなかったのでしょうけど。だけど、入り口に魔獣がいる時点で引き返すべきでしょう?」
「しかし……コトリカスは我々でも対処は可能です」
たしかにそうなのかもしれない。
彼らが魔法を使っていたのは知ってる。
そうじゃなきゃあんな急な動きはできない。
唱えてた様子はないから無詠唱できる、ということは相当優秀だけど……でもそこじゃないんだよね。
「ダメでしょう。この先に私を誘拐できた上で、コトリカスも使役できる相手がいるってことなんだから——しかもあなたたちの武器は隠密でしょう?」
元々正面きっての勝負向きじゃない。
少なくとも、裏ノア君には向かない。
彼がもしやる気をだしていたら——。
「死んじゃったら、頑張ったことも何もかも全部が無になるの。そんなの悲しいでしょう?」
「残念ながらお嬢様、我々はお嬢様のためなら命をかけられますので」
「もぉー! じゃあ命令よ、死ぬの禁止! 理由は私が悲しいから‼︎」
「「「主様……!」」」
とんでもなくバカみたいな理由になってしまった。けれど各々の反応は、キラキラした目でこちらを見てくるって感じだから大丈夫そうだ。
シーナだけはため息をついてるけど。
もう、無礼すぎるでしょ侍女なのに。
なんのため息なのそれは!
けれど突然きりっと変わって、「殿下御一行がいらっしゃいます。あなたたちは元の持ち場に戻りなさい」と言った。
「え、なんでわかるの?」
「ウィスパーボイスで報告がありました」
「えっ私にじゃなく⁉︎」
私が風魔法使わなさすぎるせいで⁉︎
とか言ってる間に三人衆は窓に消えてくし!
クロは見送りなのか膝から降りちゃうし!
彼らはお辞儀と簡単な挨拶をしていった。ほどなくして入れ替わるように、ノックもなくガチャンッとドアが開く音が開く音がした。
「ティア‼︎」
「あ、アル! ごめんね〜パーティー続けてくれてありがとね!」
私が笑顔で普通に対応したせいか、アルはそのまま呆然として入ってこない。あれ? なんか間違ったかな……と思ってるうちに。
「リスティちゃん‼︎ 大丈夫ですかっ⁉︎」
「お姉様〜!!!!」
「かふっ⁉︎」
油断しきってたところに飛びつかれて、乙女にあるまじき声が出てしまった。不覚ですよみんないるのに……!
2人は抱きついたと思ったら起き上がって、すごい私の身体を確認してくる。
「リスティちゃんケガは⁉︎」
「あー、えっと大丈夫……」
「お姉様⁉︎ この手錠はっ⁉︎」
「えっ手錠⁉︎ なにこれ⁉︎」
「あぁそうだった、これ外せなくてさ〜。フィーちゃん悪いんだけど、これに魔力送って外して欲しくて……」
「外れた!!!!」
「は、はや……」
ゴンッと音を立てて床に手錠が落ちたから拾おうかなと思ったら、2人にホールドされて動けなくなった。……あぁ、心配させちゃったか。
「ごめんごめん」と言いながら、ラクになった両手で2人の背中をぽんぽんしていると。
「おいバカ姉。今回の言い分はなんなわけ? てか殺されたいの?」
怒り心頭の弟がななめ前にいた。
……ぽんぽんする手が足りないな。
とりあえず「すみません」と言っておく。
「この度は大変申し訳なく思っておりまして……」
「謝罪の言葉が聞きたいわけじゃないんだよ。改善しろ、考えて動け、勝手に動くな」
「あー……いやですね、一応考えた結果でして……」
「あ゛?」
「はーい! 私がいけないでーすっ! 次回からちゃんとします!!!!」
弟の圧に負けて、敗北宣言しました……いやでも、スライムいたら危ないんだよ? まぁ黙りますけれどもね?




