505話 いたわる気持ち
更新遅くなりすみません!
正式に祝賀パーティーが始まれば、我先にといった感じで挨拶の列ができるのは王様と王妃さまのところなのだけど……。
「おぉ! ようやっと話せるなクリスティアよ」
「へぁっ⁉ は、はい! お心配り光栄でございます……! 慶事の折り素晴らしき夜に陛下にご挨拶失礼いたします!」
目が合ったとたん、いろんなものそっちのけで来てくださるものだから大変びっくりしています。とっさに挨拶した私を誰か褒めてくださいっていうか私何かしましたか怖い!
「はっはっは、そう堅くなるでない。もう少し楽にしてよいのだぞ」
「いえ、そういうわけには……」
「なんだ、つれないことを申すな。なぁそうは思わんかシンビジウム公爵よ」
「ご挨拶いたします陛下……しかし娘は不慣れなものですから。どうぞご容赦ください」
「おや、怒られてしまった。はっはっは!」
お父様ぁー! 一生ついていきますお父様……!
しかし王様は気さくな方だ。身分のことがなければ、結構話しやすい人なのかもしれないなとは思う。多分。そんな日はないけど。
「しかし親としては陛下にはご高配いただき感謝しかございません」
「なに、未来の義娘を気に掛けることは当然だ。それに今は王子を借りてしまっているでな。決まりとはいえ……な」
そういってあたりを見る。さっと蜘蛛の子を散らすようにそらされる視線は、察するにあまりある。
つまり、私が軽んじられないように来てくれたってことだ。牽制のために。
「……ご深慮賜り痛み入ります」
少し固くなっていた表情を崩して思いを口にすると、王様はうなずきながらも少し眉をさげた。
「うむ……お主がなついてくれる日はいつになるかのぅ」
「ふふ、ご下命くだされば今すぐにでも」
「おぉ、これは一本取られたな? これほどまでに容易であったとは、これは盲点」
「陛下、ほどほどになさってくださいね」
私が軽口をたたいたばっかりに痛い目を見そうだったところ、さっきまでお母様とお話ししていた王妃様が助けてくださる。王様はちょっと不服そう。
「なに、義娘をいたわっていただけだ」
「もう少しわかりやすくなさらないといけませんわ。姫のように避けられてしまいます」
「……気を付けよう」
あ、避けられてるんですか。
これ聞いてよかったのかな?
王様の遠い目が哀愁を漂わせていた。
王妃様とも軽く話して、たくさん人が待っているので退散する。あー緊張した!
でも気やすい雰囲気にしてくださったからいくらか助かったけど……リリちゃんは王様にやさしくしてあげてほしいね。
ちなみにその話題のリリちゃんは、ヴィンスとダンスの真最中。
とても絵になる2人は人目も集めているけれど、たまに喧嘩してるかな……っていうリリちゃんの表情が見える。まぁヴィンスは笑ってるけど。
アルとフィーちゃんもたくさんの人に囲まれて忙しそう。うーん、これはうちの弟くんが入り込む隙もなさそうね……。一応目を配っておかなきゃと思ったら。
「やぁクリスティ、少し気が抜けすぎじゃないかい?」
「うわっ! ……ってなんだぁ、ブランじゃないの!」
後ろから声をかけてきたからびっくりしちゃった! 当のブランはくすくすと笑っている。安心と信頼の心の兄ー!!!!
でも気を抜いてはいないのよ。
考え事してただけでさ。
今の方がゆるんじゃいそう。
ブランもお父様と挨拶回りしているらしく、お父様の方は絶賛父の会開催中なのが見える。ちなみにげんなりしたうちの弟の顔もそこにある。
「みんなと話せなくて寂しい?」
私の視線の先に気づいたのか、優しくたずねてくる。
「うーん、どうだろ……よくわかんないや。みんな忙しいだろうし、まぁ話せたらうれしいけどね。緊張して疲れる方が勝つかも?」
「それは素直じゃないねぇ?」
「えー?」
「嘘つく必要ないでしょこんなところで。少なくとも、僕の前でくらいはね」
そんなこと言われても……。
当然のことは我慢するだけだし。
弱みは付け込まれるだけだし……。
「寂しいというより、今日はもうこの後消化戦だから。終わればいつもどおりよ、たぶん……」
「クリスティは結構、不安な時感情が顔に出てるよ。顔だけじゃないけど」
「顔だけじゃないけどっ⁉」
ちゃんと武装もしてきたのに⁉
私も哀愁漂わせてたってこと⁉
それは困るんですけどっ⁉
顔だけでも直さなきゃ⁉ と思って頬に手を当てると「お化粧崩れちゃうから」とやんわりブランに手首をつかまれて止められる。で、できる男……!
「まぁ僕がクリスティのことよくわかってるから、余計にわかっちゃうだけかもしれないけれどね」
「ご忠告どうもありがとうお兄ちゃん……気を引きしめるわ」
「そんなに殿下がいないと不安?」
「一言もそんなこと言ってないわよお兄ちゃん」
「いいや。言わなくてもわかるよ。前だったら僕が来たら全部忘れる勢いだったのにね」
そういわれてドキッとする。
いや、悪いことしてないんだけど。
なんか、そんな気持ちになった。
話をそらそうと、不安の言い訳を考える。違うはず。アルじゃないはず。そうであってくれなきゃ困る。この気まずさ解消されないし!
「……あ。アルがとかってより、私としてはみんなが大人になっていっちゃうのが不安……といえば不安かな?」
頭をめぐらせた結果出てきた答えを、即何も考えず提供する。もうアルじゃなかったらなんでもいいやブランだし!
「どういうこと?」
「んーみんなが知らない人になっちゃうみたいで怖くない? 大人になったら、ずっと一緒にはいられないし……」
「そう?」
よかった成功しました!
ブランの興味引けたぞー!
安心して饒舌になる。
「私たちは限られた時間を消費して今ここにいるんだなっていうかさ。しってる? 青春って一瞬なの」
「ふふ、なにそれ」
「笑い事じゃないんですよ、お兄さん? 大人になったら……終わりだもん。なりたくないなぁ大人に。夢だけ見てたかったな……」
わがままでよくわからないことを言っている自覚はある。でもブランはそれに付き合ってくれる。それが心地よくて、ついいらないことばかり話す。
「クリスティは子どもでいたいんだ?」
「……わからない。ただ選びたくなかったんだよね。選んだら進んじゃうから。楽しい時間が終わっちゃうでしょ。まぁ私は大人だから選ぶけど」
「新しい楽しみが始まるかもしれないよ」
「どうなんだろうね。私にはわかんないや。ただひとつ言えるのは……」
そこで言葉を切ったので、不思議そうにブランがこっちを見た。
「誰かが親身に心配してくれる人生は幸せってことね」
ニヤッと笑うと、ブランもくしゃっと笑った。
「なぁにそれ。誰かさんの話?」
「そう。誰かさんはブランのおかげで幸せねって話」
「それなら励ました甲斐があったね」
大人なブランは少し悪そうに笑う。瞳の色と同じ紺の装いにピンクのライラックがゆれている。こんなに大人っぽくなってたんだなと、ふと思った。
「じゃあ励ましついでにこれもあげようか。飲み込むと幸せになれるらしいよ」
そういって胸元のライラックをひとつちぎる。え、ちぎっていいのそれ……?
「わ、お花が多い……?」
「花弁ね。5枚あるでしょ。ちなみにそれを人には教えたりしちゃダメだよ。幸せが逃げるから」
「そうなんだ……ん?」
じゃあそれだとブランの幸運が逃げない……?
そう聞く前にブランは手をひらひら振って、セツの方に移動してしまう。そして変わるように私はライラック公爵の熱量あるあいさつに捕まる。
ちいさな花を落とさないように、なくさないように、見つからないように気をつけていたらブランもよそへ行ってしまった。今素直に、ちょっと寂しいなと思った。
ピンクのライラックの花言葉は「思い出」
またライラック自体には「友情」「初恋の香り」「青春の思い出」などの花言葉があります。
ちなみに5枚の花弁のライラックはラッキーライラックといって、四葉のクローバーのようなものです。




