503話 見た目詐欺師
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パレードが終われば、王族と貴族たちによる祝賀パーティーが開かれる。
その参加者は幅が広く、ほとんどの貴族が参加をなかば義務づけられている。なんと、きちんと社交界デビューをしていない私たちも参加できるんですね!
というわけで戻ってきましたお城に!
「シーナ! 急いで用意よろしく‼」
聖女就任の儀に参加した関係者用に割りあてられた部屋のドアを開けながら、声をかける。
貴族たるもの、ドレスは1着にあらず!
毎回着替えるんですよ! 夜用に‼
これが結構時間かかるんだな!
なぜならドレスとはトータルコーディネートですので。メイク、靴、髪型……全部あわせないといけない。乙女の準備は時間がかかるの!
なのにパレードを結構離れたとこまで見に行っちゃったせいで、急がないといけなくなってますけどね!
「お嬢様……馬車も使わずいままでどちらへ?」
「まぁまぁまぁまぁ! 今ドレス着てるだけましだと思っていただいて!」
「どういうことか伺いたいのはやまやまですが、今は時間がありませんね。ひとまず湯あみはなさってください」
「おっけ! ちょっと浴びてくるね!」
「お待ちください、うしろのリボンをほどきますから……」
「大丈夫! 魔法でいける!」
今は時間がないからと言いわけしてドレスを脱ぎ捨てて駆け込むやいなや、一般のお嬢様には真似できない烏の行水を披露する。
普通のお嬢様はお手伝いさんに洗ってもらうそうです。ムリすぎる!
「よしっ! おまたせ‼」
バスローブ姿で現れれば、やれやれと頭を振られた。
「お嬢様は品格というものを、もう一度学びなおすべきではないでしょうか」
「いやさすがにシーナじゃなかったらしないよ! いつもありがとっ!」
「……そう言えば許されると思っておいでですね」
「いいでしょ! こういう時以外振りまわされてるの私の方だもん!」
にこっと押し通すと、あきらめたように「チョコレートで手を打ちましょう」と言われた。ちゃっかり要望通すあたりがさすがシーナさんである。
あとの私はされるがままです!
まぁ闇魔法ならなんでもできるけど。
でも、私の想像の範囲内だからね。
私の想像を超える着飾りは、シーナに任せないとムリだ。
シーナは口はあれでも器用で優秀な腕のいい侍女だ。理解もはやいから私の希望もくみ取って、そのうえでよりよいものに仕上げてくれる。
「わ~今日も詐欺だね!」
「美しく仕上がったとおっしゃってください」
「ふふっありがと! ……しかしまぁこのドレスは……」
できあがった姿を確認する。
うーん、わかってたよ。
わかってたけど、このドレス……。
「だいぶ華やか……だね?」
というか、正直派手だ。全体はピンク寄りの赤紫。アクセントに黒っぽい紫と白を使い美しいドレスだけれど、結構肩と胸元ががっつり開いている。
いやまぁ、夜だから華やかといえばそうなんだけど——問題は。
「これ“クリスティア”のなんだよね……」
「? そうでございますよ? 殿下がお嬢様のためにご用意なさったものですから」
不思議そうにするシーナに、へらへら笑ってごまかす。
そうなのだ。
見た目がめっちゃ悪役令嬢。
というか、そのまんま。頼んでないのに。
これが『運命の強制力』か……!
いや~似合うよ⁉ 似合うんだけどさぁ⁉
良くいえば美しく、悪くいえば強そう。
そんな感じですわね! 解散‼
ゲーム画面で見たな……と思いながら、そういえばこれは『学プリ』のイベントと一緒なら、クリスティアも出てくるんだったな……と思いだす。
このパーティーはほんと『学プリ』プレイヤーとしてはお楽しみポイントでね!
好感度によって攻略対象がフィーちゃんを取り合うVSイベントや、中庭に抜け出す2人だけの舞踏会スチル、言い寄ってくるモブから守ってくれる王道イベなど——。
そりゃあもう、ウハウハなんです!
……なんですけど。そこには悪役令嬢イベントもあり。そう、お察し案件である!
私の推しだったレイナールート。
あそこでは一瞬だったけど。
アルバート王子ルートでは——。
何を隠そうクリスティアさんは王子の婚約者なので、嫉妬のあまり閉じこめイベントが発生するんですよね!
もちろん今の私はフィーちゃんをいじめたりなんかしてない。でも前のフィーちゃんをいじめるイベントも、私が絡まなくても起きちゃたし。
何かは起こる……気がする。
「うーん。今日の主役だから、アルが基本的にはついてると思うけど……」
髪飾りやアクセサリーの微調整をシーナにしてもらいながら、思わず口からこぼれ出る。
「ラナンキュラス様のことですか?」
「そう。なにもないといいけど……」
「何もないということはないでしょう、お嬢様を含めまして」
「だよねぇ……って今私もって言った?」
まばたきしてシーナを見ると、「自覚がないというのも困りものですね」と言われた。なにおう⁉
「お嬢様はなんだかんだ子どもという枠と、殿下のご配慮によって守られてきたのですよ」
「え、うん」
「来るものすべてが好意的とは限りません。お嬢様の足を引っ張りたい人間も中にはいるのですよ——もちろん、奥様や旦那様も尽力はされると思いますが」
「え。いや1人で大丈夫だけど……」
で、でもそこまでならクロを連れていきたい。ただクロはいま出張中だな……と思いいたる。
そもそもここが家じゃないので、どちらにせよムリだったかな。シーナに持ってきてっていえないもん。いつものクロは猫か飾り気のないブレスレットの姿だから。
「なにかあれば、どなたかをすぐお呼びください。私は直接中には入れませんから」
そういってシーナがつけてくれたイヤリングは、深い緑色の石が輝いている。ノア君の瞳みたいだなと思ったけど、どうも魔力量の高い風の魔石のようだ。
魔石は高級品だけど、敵意があると思われてはいけないからパーティーにはあまりつけてはいけないんだけど。
宝石の中に混ざって一瞬わからない。
魔石は服を選ぶけれど調和がとれていた。
この大きさなら大した魔法も使えないし!
できる範囲で気づかってくれたのがわかるから、うれしくなって元気よく答えた。
「うん! 私がんばるね!」
「いえ、大人しくしていただきたいです」
「善処するね!」
「すでに聞いていらっしゃいませんね……」
ここでのシーナの忠告を実感するのは、もうちょっと後になってからだった。