498話 好奇心は子犬を招く
すみません胃腸炎でした!
みなさまも体調お気を付けください。
聖女就任の儀が終わっても、フィーちゃんの忙しさは終わらない。
この後就任祝いのパレードをした上で!
祝賀パーティーまである!
イベントてんこ盛りだ。よっ主人公‼
まぁ預言師就任の時と違うのは、私の時は子どもだったからでもあるけどね。
まぁあの程度でも大変だったので、現実ってゲームのように楽しいだけじゃないよなとか思ったり。私がぽちぽちしてれば見られたイベントたちは、実際体験するととんでもなく手間と労力がかかっている。
そんなわけで貴族たちはパレード鑑賞のために移動をしたり、パーティーのために準備しに移動したりと忙しい。お父様はこんな日なのに仕事に駆り出されていた。おいたわしや……。
「こんな日ぐらい休めばいいのに」
「お父様のおかげで我が家は成り立ってるんだから感謝しなよ……」
「貴族ってもっと働かないものだと思ってたんだけどな。オレたちの親って、忙しい運命なんかなー」
「……そんな運命あったらかわいそうでしょ」
晴天の中庭から入る日差しがまぶしい廊下を移動しながら、弟の雑談を受け流す。無事合流した私たちはパレードが見たいので、一度外に出ようとしている。
ただし普通の貴族と違うのは。
平民に紛れてしまおうと企ててる点。
その方が近くで見られるからね!
なお怒られることは必至なので、お父様がいなくなって私は心底安心しています。うん、最悪な娘すぎるな!
誘ってきたのはセツだけど。
実行犯が私になる予定なので……。
まぁバレなければいいの!
ちなみにパレードはゲーム内だとわりとすぐ終わるイベント。
だってパーティーが本番だから!
好感度で展開が変わるのも見どころ!
牽制イベントとかもあるんだよ!
でもパレードはエスコートするアルバート王子との固定イベントなのだ。そんな誰でもホイホイ就任パレードの馬車に乗れないからね。ついでにアルバートルートだけは差分スチルがあったりはする。
でもパレードの大事なところは攻略じゃなくて。
『観衆に大歓迎される主人公』だ。
ここがプレイヤー的に感激ポイントなの!
『学プリ』のフィーちゃんは、シンデレラみたいな存在というか。大変な生い立ち、学園内のいじめ(原因はクリスティアだけど)、それを乗り越えてついにスポットライトが当たるシーンだから。
このイベント自体好感度とステータスが高くないと出ないから、ミニゲームで学業と魔力を現状の最高にして。生徒会イベントや日常会話も好感度最大を選び続け……みたいな。
とにかくフィーちゃんが頑張った成果が、周囲から目に見えて祝福されるいいシーンなんだよね!
個々の差分フィーちゃんかわいいの!
あとアルもね。優しい顔してて。
2人ともいい笑顔で最高だったんだけど。
……なんか謎に不安感があるんだけど言葉にできない。ん~見たくはないモヤモヤがあるけどお祝いはしたいし、ファン的には見たいんですよー! 複雑‼
「あ。あそこ死角っぽくて行けそうじゃん?」
ただ考え事しながら歩くマシーンと化していた私の耳に、弟の声が入ってくる。
セツが指さす先を見ると行き止まりに立派だけど古そうな姿見鏡がある。あんな人が行かなさそうなところにあるの、ちょっと不思議。奥行を広そうに見せるため……?
いやそんなことしなくても広いよな。
お城の廊下ですよ?
けどまるで何かの入り口みたいに大きい。
いや、まぁ鏡面世界を通っていくつもりだったから、そういう意味では入口だけど……。
「ゲームならなんかこういうのの裏に隠し扉があったりして」
「いや私も思ったけど、そんなまさか……」
「あ、だめだ固いわ」
「それはそうでしょ……」
立体的な百合の模様の彫られた枠を力づくで押した人がいるので、一応壊れてないかと隅々まで確認すると。一番上を見上げたら、きらりと何かが光った。
「なにあれ、黒曜石?」
よく見るとそれは埋め込まれた鈍く光を反射する黒い石だった。黒く変色した金属の枠だし、よく見なかったらあまり気にもとめないし目に入らない。……けど。
「ん? これ小さいけど魔法陣彫ってある……?」
周りの飾りは模様だと思ってた。
でもこれ、手のひらくらいだけど。
円の中に模様——魔法陣な気がする。
え、じゃあこれはもしかして……。
「ねえそれ空の魔石じゃないの? 見たことないけど、闇の魔石とかだったりして」
「……セツさん、ブラインドエリアは……」
「もう使ってるけど、調べるならお姉サマがなんかやった方が確実だと思うよ」
はいはい認識阻害しようね!
この一角に闇魔法を使うと、銀の光に共鳴するように石が光った気がする。これは、ほぼ確実に……⁉
「闇の魔石だーーーー⁉」
「うわうるさ」
「なんで落ち着いてるの⁉ ロマンはどうしたっ⁉」
「すげぇけどオレより興奮してる人がいるから」
「さめるなよぉ! 私だけはしゃいでたらおかしな人になっちゃうでしょうが!」
耳をふさいで眉をひそめる弟に文句を言う。さっきまで逆だったじゃん!
ふん、もういいですー! 私だけで開けちゃうもんね! と思ってとりあえず魔石に魔力を注いでみる。輝きが戻ったので魔力は入ったぽいけど特に変化はない。
「魔石の魔力だけじゃダメとか……?」
「条件があるとかじゃん?」
「条件って言っても……」
うーむと唸りつつ目を凝らすと、右手の百合の葉にちいさく文字が彫ってあった。
——白百合の願いに拓かれる。
「白百合の願いってなに……?」
「……普通に考えたら、白百合は王族のことだろ」
「えー! それだ! セツ頭いい‼」
「どーも」
腕を組んでスカしている弟をバシバシたたきながら、もう一度文字を見てみる。……つまり王族以外お断りってこと?
「でも願いがひっかかるんだよなぁ~。試しに私の白百合近づけてみる、とか?」
「なんでだよ。その百合じゃないでしょ絶対」
「いや何事も絶対とかないから。チャレンジ精神って、私大事だと思うんだよね!」
「それ発揮するの絶対今じゃないな……」
だけどこんなに人がいない機会そうないし!
お城来るとアルかリリちゃんセットだし!
第一こっち側来ないし‼
試すだけならタダなんだからね! そう思って髪から白百合を引き抜くと、鏡に近づけてみる。すると——。
「あ、あいた‼」
「マジか……」
鏡が溶けるように消え去り、暗闇が口を開いていた。




