496話 聖女就任の儀
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厳粛な空気の漂う中、聖女就任の儀は始まった。
聖女就任の儀は扱いとしては私の時の授与式と同じだから、正式に出席できるのは貴族の当主だけ。だから若い私がいるのは完全にアウェイだったりする。
ただ個別の爵位はなくても預言師はそれだけで最高位の名誉職! なので、実質王族に次ぐ……いや場合によってはそれ以上に発言権を持つんだよね。
だから私は例外として、シンビジウム公爵家からは私とお父様が出席している。仕事があるから後からおいでと、先に家を出て行ったから今日はあまり話せていないけど。
それもエスコートをうちの弟が買って出たからだね。
目論見含めそのあたり上手いことやって、本日の主役のフィーちゃんに会うところまでやってのける……弟の行動力には脱帽しかない。
ただしその弟とて!
身分には逆らえませんので!
この場にはおらず待機中。
だからセツの分まで、私がしっかり見届けないとね!
入場の音楽とともに扉が開かれると、玉座へ続く絨毯を囲むように列を成す貴族たちはいっせいに頭を下げる——もちろん私も。
学プリファンとしては全部余すことなく刮目したいとこですけど。赤い絨毯の上をフィーちゃんが通っていく足元だけちらりと見えて、心の中で応援しといた。ファイト―!
音楽の響きが消えた時点でやっと顔を上げ、フィーちゃんの方を向くことが許される。謁見の間の階下にいるフィーちゃんの後姿は、背筋が伸びていてきれいだ。
この小さくも大きな背中がたくさんの困難を乗り越えて成長していくさまを想うと……。
もう、なんか泣きそうなんですけど!
だってフィーちゃんの頑張りが認められたひとつの結晶なんですよ⁉︎ 協会で大変な思いしながら、学園でも慣れない環境で健気に頑張ってきて……!
あんなに優しくて可愛い、頑張り屋な私の永遠の主人公が立派に……!
親心? 姉心? 友達心? プレイヤー心? とにかく、よくわからない走馬灯のような記憶を勝手に巡らせて、鼻の奥がつーんとしてくる。
いや私が泣いてたら変だけどね⁉
ダメダメ儀式止められないんだから!
私の立場的にも我慢っ‼︎
そんなわけで泣きそうなのを誤魔化して上を見あげて耐えると、階上にずらりと並び座す王族の神々しさにも圧倒される。
はわぁ……! ティアラと王冠!
アルもリリちゃんも美しすぎ……!
なにこれ絵画かな⁉︎ 神スチルすぎる‼︎
いやさっき全体で一礼はしてるんだけど、ちゃんと心の覚悟できてなかったから見てなくて……。おまけに学プリでも見てるけど、全身絵はなくて……!
目に入る2人はキリッとした表情が、整った顔立ちを一等涼やかに華をそえる。距離もあって、血の通わないお人形のようにさえ思えてくる。
さっきリリちゃんには会えなかったけど、それも当然というか……。あのドレスは準備に時間かかる……! 白百合の刺繍が光る白と黒の繊細なドレスは、アルの洋装と少し似ている。
たまにお会いする国王様と王妃様も、お顔はほほえんでいるけれど今日は一層、纏う全てがから放たれるオーラがすごい。意気込みが目に見えてわかる。
それもそのはず。
だって聖女は唯一、神からの承認がこの場で行われるのだから。
光と雷の神は中立で公平。
だから自ら神託をほとんどしない。
争いを起こさないことを優先させるから。
基本良くも悪くも、見守り型の神様なんだよね。女神様は思いっきり干渉するタイプだから、まぁ仲悪いのも納得ではある。
けれどもっとも平和を願う人間として選ばれた者へは、加護や承認を与える——これが聖女。
つまり聖女は、公平神の代行主となる存在。……程度の差はあれど、私も似たようなものだって思われてるけどね? 神の意志の代弁者になる儀式がこれってことなのだ。
だけど私と違うのは。
『神様が選ぶ』のではなく、『人間が推薦してお願いする』、という形をとっている点。
私は思いっきり女神様に選ばれた側。
でもフィーちゃんはここでお願いするのだ。
人々の代表として……みたいな感じ?
そうはいってもそもそもの条件に桁外れの魔力量がある時点で、神様のお気に入りなのは間違いない。なのでほとんど神様自身が選ぶようなもんでしょ……と私は思うけどね。
そして、もうひとつ違うのは——。
窓の外の天気が崩れ始める。
晴天だった空が灰色に変わり。
雷鳴が轟きはじめる。
これが、準備ができた先触れだ。
キタキタキター! ここの祝詞が召喚呪文みたいで見せ場なんだよね! はぁー! この場面でモブになれるのは結構嬉しいかもしれない‼︎
王族が立ち上がったのを合図として、我々貴族はひざまずくーーそしてフィーちゃんの祝詞とそれに続けて行う私たちの輪唱がはじまる。
「天にまします偉大なる光と雷の神、アミトゥラーシャ・イワトゥス・ハシティール。その御心が成就するように、その栄光が地を照らすように、汚れなきその眼で見定め、正しく救いたまえ」
フィーちゃんの言葉に続いて、私たちも輪唱する。儀式って感じしてきてテンション上がる〜!
「その御名が地に渡り、邪悪を祓う祝福を恵みたまえ。慈悲を与えたまえ」
フィーちゃんの周りから光の魔力である黄金の輝きが溢れ出すのを感じる。同時に、精霊たちが姿を現しあたりをくるくると飛び旋回する——何かを描くように。
「——我が名はフィリアナ・ラナンキュラス、救世を望む者なり!」
フィーちゃんが最後の一言を言い切った途端。
一際大きな雷の轟きと共に、精霊たちの輪の中心から光の柱が立ちあがる。そこに何かが降臨する気配……がするけど、神の御前なので私たちはそのままの体勢を維持!
「此方に呼びかけ、恵沢を乞う者は其方か」
響くその声は、あちら側で聞いた声。
間違いない、見なくてもわかる。
光と雷の神のお出ましだ。




