ー閑話ー 素朴なチートデイ2
「てか、くー姉は食わないの?」
「え、あぁ……何食べようかって考えちぇって」
「肉まんとか」
「コンビニブームなの? ……私コンビニの肉まん食べたことないや」
「あー。校則ちゃんと守ってそうだもんねくー姉。寄り道とかしなさそー。楽しいの? それ」
楽しいとかじゃないだろう。
決まりを守るのは、怒られないためで。
正しいから、そうするだけで。
第一、私がそんなことをしたら周りからどれだけ怒られたことか……。
なぜか許される雰囲気のセツより怒られただろう自信がある。正しさは正解で正義で間違えを許さない——でも正しくしていただけの私は、面白くない人間だったかもしれないけど。
「セツは楽しそうでいいね。学生らしいエピソードだとは思うよ」
つい口から出てしまった言葉に、しまったと思った。ここに連れてきてしまったのは私のせいなのに、八つ当たりまでしてしまった。
けど全然気にするそぶりもなく、どういうわけか自慢げに笑う。
「まぁ若かったんで。いやーオレも超大人になっちゃったな~」
「……あんまりそうは思えないけど?」
「や、だって今や止める側だよ? もー超大人」
「止める側?」
「レイとか姉の好奇心の手綱をにぎること」
「いや並列しないでほしい……そもそもそんなに止めてる?」
「あんましないけど」
「しないんかい」
言ったそばから全然大人じゃなかった。
しかも「あ、次コンビニのおでんとおにぎりね大将」というから、「誰が大将じゃい」と言いつつ多分好きだろうおでんの具とさけのおにぎりをだしてあげた。つややかなたまごと、しみしみの大根はマスト。
「お~やっぱおにぎりの海苔はパリパリの方がうまいよね……ま、楽しそうなのはいいことじゃん。くー姉も今の方が楽しそうだよね、自由で」
そうなのか。
そう見えてるのか。
でもそれでいいのかわからない。
前と比べたら自由だけど、大事なものを増やしすぎてしまった気がする。
だけどこの漠然とした不安をどうしたらいいか分からない……とりあえず気にしても仕方ないから、食事で流し込むことにする。
「……ラクなのは確かかもね。ところであんたは全国のおにぎりの海苔しっとり派を敵に回したわ。戦争よ」
「そういいながら今だしたの、お茶漬けじゃね?」
「私は中立だから! ……なんか普段いいの食べてるけどさ、もう根が庶民だから」
鮮やかな緑が目を引く。そこに鎮座する真っ赤で甘酸っぱく香る梅干しをついでに出したお箸で割りながら、湯気とともにふわりと立ち上る海苔と出汁とあられの香りがやさしく鼻腔をくすぐる。
「しかもお茶漬けの素でつくったやつじゃん」
「梅干しだけ後乗せだもん! 結局粗食がお腹にやさしいし気取らず気楽に食べれておいしいっていうか……」
「粗食て。年寄かよ」
「お味噌汁でもいい」
「ばーちゃん?」
「和の心を忘れてないと言って」
「いやそのくらいは力つかわないでも再現できそうじゃん……もっとほかの食えば?」
頭おかしいのかって顔に書いてあるけど、私も君に同じ感想抱いたので姉弟だね!
「最初は食べてたけどね……お寿司とかたこやきとか」
「そうそうそういう——」
「ラーメンとかカレーライスとか肉じゃがとかナポリタンとかオムライスとかドリアとか冷やし中華とか」
「ラインナップが海外輸入魔改造日本食」
「中華と和食ない以外はこの世界に文句ないんだけどね……食の発展でお金稼ぎたいなら手伝うけど」
どうも私にはそういう方向の野心はないらしい。まぁ我慢してもいいし、望めば出せてしまうから……食への焦燥感がないということなんだなと思う。
そう考えると、闇魔法は若干楽しみが奪われている気がしないでもない。本来足りない何かに頑張れるというのは、大変だけど面白くもある事なんじゃないかという気がした。
研究に明け暮れるレイ君とか、剣術の研鑽を重ねるブランとか。狂ってるように見えるときもあるけど、キラキラしてるもんなぁ。
「まぁ……家継いだら考えるわ。あ、オレ生姜焼き食いたいんだけど」
あまり難しいこと考えてなさそうな弟くんは、まだ食べるらしい。しかたないから出してあげると、生姜とお醤油とお肉の焼ける食欲をそそる香りが襲ってきた。
「あ、おいしそう……これこそ作りやすそうだけどね」
「ん、これとかブラン兄ちゃん好きそうだし……どう思う?」
予想外の質問にまばたきをすると、はずかしかったのかそっぽ向いて。そのまま急に口いっぱいにお肉を押し込んでもぐもぐ食べ始めた。あんまり誤魔化せてないけど。
あぁでも、なんかかわいいなと思ってしまってふき出した。大好きだから自分がおいしいと思うものを食べさせてあげたい、喜んでほしい。そう思うのはふつうのことだから。
「なに……」
「あはは、ごめんごめん。そうだね、とりあえずお米と大豆探しからかなぁ……これがでほぼ和食の調味料作れるしね」
「えっそうなん? いや醤油はわかるけど……」
「みりんとか料理酒とか米酢とかお米だよ?」
知らなかったらしい料理は食べる専門だった弟は、「米、チートじゃん!」と騒ぎ出す。そうかも。
「まぁでも……すぐ共有できる美味しいものってスイーツかな。プリンアラモードとかコーヒーゼリーとか簡単そう」
「あいつらも魔改造産だったん……⁉︎」
このあたりならアルもリリちゃんも食べてくれそうだなぁとか思ってたら、弟が「オレはもう和食がわからない……」と頭を抱えていた。
次回から日常回ではない本編に戻ります。