483話 魔法使いならお手のもの?
本編的には読まなくても大丈夫です。
結局あの後アルは帰ってきたのだけれど、私は一応疑いがはれてない上にナイトドレス姿なので出迎えはできなかった。
それどころか、リリちゃんが部屋にいないことで大捜索が始まってしまった。アルの帰城を一応知らせようとしたら発覚したらしい。私の部屋までメイドが尋ねにきた。
リリちゃんは嫌がって「お姉様! 誤魔化してくださいませ!」とか言っていたけれど。一国のお姫様がいないとなれば、みんな寝るどころじゃなくなってしまう。
当然却下して、ドアを開けた。
リリちゃんはお布団に隠れた。
私は仕方がないのでひっぺ返した。
「こぉら! みんな困るでしょ‼︎ ダメよ諦めなさい‼︎」
「ひどいですのお姉様! 私を売るなんて……!」
「そもそも不法侵入してきたのはリリちゃんの方だったけどね!」
「にゅぅ……」とうなりながら出てきた子猫をメイドさんに引き渡すと、リリちゃんはさっきのぐずりが嘘のように気品ある後ろ姿で去っていった。
私はそれを廊下に出て見送っていたのだけれど、リリちゃんの乳母を名乗る女性から謝られた。
「大変失礼いたしましたシンビジウム公爵令嬢……もうどうお詫び申し上げたら良いか……」
「あぁいえ。こちらこそ、すぐにお知らせせずに申し訳ないことをしました」
夜に、そもそも上位貴族の元に訪ねてきたら、めちゃくちゃに怒られてもしかたない。……どころか、下手したら職がなくなる。だから恐縮しちゃってるんだろうなぁと思った。
額に汗が浮かんでいるから、城中をそれは必死に探した上でここにきたのだと思う。もーリリちゃんったら。
だからひらひらと手をふって、あははーと笑っていると不思議そうな顔をされた。おや?
「お叱りにならないのですか……」
「え! だって悪いのは私とリリちゃ……王女様ですから。皆さんが何かなさいましたか? 私はそのように思いませんでしたが」
「それは……しかし……」
うーん、相当リリちゃんに手を焼いているらしい。まぁ、予想はつくけれども。ちょっと怯えてる? 私の悪役令嬢ビジュもいけないかもしれない。
けど、んー、責任を感じてる、が正解かなぁ。リリちゃんもこの人に甘えてるから何も言わなかったのもある気がするけど……。
「とにかく、私は気にしていないですので。どうぞお気になさらないでくださいね。王女様の破天荒さには慣れておりますし」
「破天荒、ですか……」
「あー……悪口に聞こえますか? 言い換えましょう。縛られるのが苦手なのだと思います。けれど、誰かを困らせたいわけではないですから」
「そうなんでしょうか……」
おぉー?
リリちゃん、乳母さんと仲良くないのか?
返事がさっきから怪しい。
「自主性が強いので、上から何かを言われるのが苦手……という感じですかね。でも、逆に言うと上に立つには向いていると思いますけれどもー……」
うーん、何が話したいんだろう?
私とも初対面で、用件も終わってる。
それに私は気にしないでと言ったし。
最初は怒られないか気にしてたのに、ここで引き止めるのは気にしてないのが気になる。何がしたいかわからないから適当に話してるけど。
私のコミュ力ではここが限界なんだけど!
めっっちゃ気まずいよー!
誰か助けて! お布団にもぐりたい!
「……私どもでは、あのような起こし方をしたら1日は無視されてしまいます。私はまだマシな方で、他のメイドなどはもっと酷いのです」
「……王女様はまだ愛らしいお年頃ですからね」
「それなのに、起こした上で癇癪を起こさず言うことを聞かせられるなんて……どのような魔法を使われたのですか?」
……。
…………。
…………………なるほど〜!!!!
私、操ってないか疑われてたってこと⁉︎
「ええと! 特に魔法はかけてなくてですね⁉︎ というかよく考えてほしいんですが、そもそもそれなら皆さんも無視してもう寝ており……」
「いえ!!!! 滅相もございません!!!! そんなことは少しも考えておらず!!!!」
あせった私に、あせった答えがやまびこのように返ってくる。なんだこれは。え、でも別に疑われてないってこと……?
「ただ……ただ驚いたのです。ありえないものを見たと……そう思ってしまいまして」
乳母さんはそう言って……泣き出してしまった。
リリちゃーーーーん!!!!
人を困らせすぎだよーーーー!!!!
かわいそうだよ乳母さん!!!!
「ええと! ハンカチ! は、今ネグリジェだからないなぁ! んー! ちょっとお待ちいただけたら持ってきますけれども⁉︎」
「シンビジウム様にそのようなことをさせるなどとんでもございません……ただ私は……嬉しくて」
「嬉しくて泣いていらっしゃる!??」
思ってたのと逆なんですか!???
もはや私にはわからないんだけれど!
乳母さんだからお母さん気分なのか⁉︎
自分のスカートからハンカチを出して拭う姿を、私はただ呆然と見守るしかなかった。
「ありがとうございます……あの方の理解者がいることがとても嬉しいのです。あの方のあのような姿を見ることができて……」
「えぇと……まぁ私もなかなかなんというか……王女様に失礼をしているかもしれませんが」
「対等に接することが、誰でも許される身分の方ではありません。けれど、繊細な方なのです。ですがシンビジウム様のことは受け入れてらっしゃる」
つまり仲良しで感動しちゃったってこと……なのかなぁ。 今更? という感じもするけれど。
リリちゃんもアルも人払いすることが多い。だからアルはともかく、リリちゃんのあの感じを知らない(懐いてるのは知ってると思うけど)から、なのかなぁ。
そもそものリリちゃんはクールだし。
『氷華』『凍れる白百合』の二つ名だもん。
まさかそれがあの態度とは意外だと。
「先ほどのお姿、まるで仲睦まじい姉妹のようで感動いたしました」
「は、はぁ……」
「それにこのように丁寧にお話しして下さって……それなのに我々はシンビジウム公爵令嬢をこのようなところへ閉じ込めてしまい……」
「まぁ、怪しいですからね私……」
「姫様は一番に貴女様の元へ向かわれたのですもの。そのような方を疑うなどと……不敬で何をされても文句は言えませんのに」
いやそんな権限は私にはないけどね?
まぁそのくらい、リリちゃんの仲良しを認識したのに失礼を働いたと思って心苦しくなっちゃったらしい。なんというか、心根が優しいのだろうなぁ乳母さん。
しくしく泣いていた涙を拭った乳母さんは、ハンカチを持って力強く宣言した。
「シンビジウム公爵令嬢! 明日、私も姫様と共に助言させていただきますので!」
「えぇと……?」
「すぐにこのような対応はやめさせます。このように姫様が懐かれる方が疑われるなど……あっていいことではございませんわ!」
「いやー、でも証拠……」
「殿下よりシンビジウム様は共にお過ごしいただいていたことの証言はいただいております! ご安心を! 明日には片付けますので‼︎」
「そ、それはよかったです……?」
リリちゃんの乳母さんの熱量に負けた私は、そのまま部屋に帰ってもなかなか寝れず。
その代わり、乳母さんの言葉通り午前中のうちにはプチ幽閉から開放された……ちょっとガバガバすぎないかなこの国の司法。
あけましておめでとうございます!
本年もフラないをよろしくお願いいたします。




