480話 あとは任せて
「リリー、私もあれはないとは思いますが」
「ぐっ」
「それでもあれは、ティアとノアのことを最大限に配慮して……」
「配慮した結果があの言いざまならゴミ以下ですの。その上、私の話は踏みにじりましたのよ」
「いや、それは」
「……はぁ。もういいですの。お姉様が疑われるくらいなら、なかったことにしますのよ。そしてあいつは顔も見たくないですの」
「なかったことにはならないだろ……少なくとも捜査は入る……」
アルとリリちゃんにぐさぐさ刺されながら、それでも正そうとしてしまう……ちょっと一言多いのがヴィンスだ。だから哀れなことに……。
ガガガガガッ!
「駄犬が。吠えていいとは言ってないですのよ」
声の方には目もくれないリリちゃんが、大きな氷柱を彼の目の前……どころか檻のように周りに刺したもんだから、ヴィンスは黙った。
う、う~ん!
見てるこっちがつらい……‼
私も後ろめたいから!
「お姉様、行きましょう」
「わっ! か、帰るの?」
手首をつかまれて、リリちゃんが歩く先に引っ張られる。このままでいいのかな……?
「どうせこの話はどこかからまわりますの。少なくとも、私が倒れたことは事実ですもの」
「それはそう、だね」
「護衛の半分はクビかもしれないですわね。お姉様もこのままだと捕まるかもしれませんけれど、私が離さなければ問題ありませんのよ」
「おおお……? それはどういう……」
「とにかく、私といたほうがいいということですの。今回ばかりはお兄様も役に立ちませんのよ」
リリちゃんには、何が見えてるんだろう。
なんでわかったんだろう。
なんで信じてくれるんだろう。
言いたい、聞きたいことはたくさんあるのに、隠し事のある私は何も言えない。そのままリリちゃんはヴィンスをスルーして、珍しくおとなしいレイ君の方へ向かう。
「レイナー、魔力の残滓が残っていたら確認してちょうだい。他言無用よ」
「え、はい」
「フィリー、念のためみんなに幻覚の解除を。あなた自身もよ」
「わ、わかりました!」
「セス、あなたのお姉さんはしばらく城で預かりますの。なるべく早めに開放しますのよ」
「あー、まぁお好きにどぞ」
姉としては弟のテキトーな返事を叱りたくなったのだけど、それよりレイ君がセツに何か耳打ちしたことが気になった。
けれどそれにセツは首を振っている。なんだろ?
「では私たちは先に帰りますの。お兄様も置いていきますのよ」
「えっ! いいの⁉」
「どうせ誰かがこの場を片付けないとですの。それにお兄様がアレを処理しないと、一生ここのオブジェになりさがりますもの。病み上がりの私には荷が重いですのよ」
きびすを返したリリちゃんは振り向かない。あわてて着いていく。アレ、といわれた氷柱のオブジェ(in ヴィンス)は、結構な大きさなので大変そうだ。
「今日はもう、つかれましたの……はぁ」
「おっと」
「お姉様は……信じてくださるでしょう?」
本当に疲れたのか。
やっぱりちょっと本調子じゃないのか。
リリちゃんがこっちにしなだれかかる。
そしてなんだか少し、心細いようにこっちをのぞき込んできた。
全部を肯定はできない。
それが真実だとしても。
私は綱渡りをしているから。
でも。
「……あのね。リリちゃんが信じてくれたの、うれしかったよ。あ、そうだ。フィーちゃーん‼」
歩きながら振り返って、フィーちゃんに言う。
肯定はできないけど、混沌は作り出せる。
「リリちゃんが言ったことも、本当だってみんなに伝えておいてねー!」
「! お姉様……!」
それだけ言い残して、リリちゃんにニコッと笑いかける。今この場でノア君は疑われない。でもだからこそ、リリちゃんが疑われるべきでもない。
「今日はお泊り会だね! なにしゃべろっか?」
努めて明るくすれば、リリちゃんにも笑顔が戻った。




