479話 不可能の真実
「ええと……すみません姫様。一旦お話しいただいている内容をまとめて確認させていただいてもよいでしょうか?」
混乱している場をまとめようと、ブランがひかえめに手を挙げて言った。リリちゃんは少し不服そうながらも「かまいませんのよ」と許可を出す。
「まず……僕たちがここにたどり着いたとき、姫様はすでに倒れていらっしゃいました。そこでフィリアナ嬢が光魔法をかけて姫様を助けてくださいました……ここまでは間違いないですね?」
リリちゃんに確認しつつ、フィーちゃんの方にも視線で確認をする。フィーちゃんはこくこくうなずいている。
「そこで回復された姫様は、クリスティのと元へ一目散に向かわれて、ノア君を怪しんでいるように受け取れる発言をされていましたが……」
「はっきり言ってしまえば、そうですのよ。だっておかしいでしょう?」
「そのおかしいとおっしゃる理由が、ええと……クリスティが近くにいない、姫様を見てもいなかったことだとのことで」
「そうですの! ありえないでしょう⁉」
「その上、姫様の倒れられた原因も、我々がクリスティを気にかけなかったことも、闇魔法のためだという見解でいらっしゃったと思いますが……」
「そうよ! 何がおかしいの?」
自信満々なリリちゃんに、ブランは言いよどむ。あぁ、そっか。それでいくと……。
「姫様のおっしゃっていることが本当に起こった事だとしますと……一番怪しいのはクリスティでは?」
「え⁉ なんでそうなりますの!!??」
リリちゃんだけが驚いている。
けどまぁ……結果だけ見たら、そうなってしまう。
だって、みんなは知らないから。
「ブランドン! 見損ないましたわ! あなたがそんなこと言うなんて‼」
「いやぁ……まぁこの場合はブランは悪くないというか……」
「お姉様⁉」
「いやいや、もちろん私はやってない。やってないけどね……?」
「知ってますのよそんなことは‼」
変にかばってしまったせいで、私がやりましたと言わんばかりになってしまう。でも正直……客観的な見え方を考えると、おかしいのはみんなじゃなくて、リリちゃんになるし、怪しいのは私だ。
……うん。もしかして、私ピンチ?
これバッドエンドフラグ回収してない?
救いはリリちゃん自身が私を1ミリも疑ってないことだけど……。やっぱり納得いっていないリリちゃんは、ノア君をキッとにらむ。ノア君自体は気にしてないみたいだけど、その兄の方はやれやれと首を振る。
「姫様のおっしゃることを否定はしません。ですが……姫様、その場合姫様の言うことを全部あっていると仮定すると、ノアが闇の魔力を保有しなければなりません——ありえないでしょう?」
そう、ありえない。
光と闇は正反対の性質だから。
2つ持つなんて、あってはならない。
嘘をつけないが、究極の嘘つきにはなれない——普通なら。
だけどノア君はどっちも持っている。
それは真実を知る私も、説明はできない。
説明はできないのに話したらどうなるか?
たぶん、どっちかが首をはねられるかな!
それはどっちも嫌だ。今こうしているのア君は自分のやったこと、わかってないみたいだし。私もノア君に死んでほしくないのだ……日常を作るすべてが欠けてほしくない。……それがもしいけないことだとしても、私は臆病だから。
だからたとえ私に火の粉が降りかかろうと、今のところ振りはらえないでいる。今なら、私だけなら、リリちゃんに泣きつけばワンチャンあるから……。
それに、みんなも本気で疑ってはいない。
そう! 今あるのは状況証拠と証言だけ。
……やっぱり普通に詰んでない?
だけど言えないなら、お口をチャックして堪えるしかない。みんなの良心を利用して状況を打開しようとしている、これが汚い大人の戦法ってことですかね……戦法のわりに無残で無策すぎるけど。
「……でも」
「ありえないです。前例もなければ、相容れもしないものです」
言いかけたリリちゃんを遮るようにヴィンスはいう。
相容れない……ね。その通りだ。
私はなれないもんな……主人公に。
そして彼女も、ここまで墜ちてこない。
「…………ヴィンセント」
「なんですか? まだ——」
「私、あなたのこと——だいっっきらいですわ」
「⁉」
突然地を這うような低い声と恐ろしい絶対零度のにらみで、恨みの念のこもった一言を頂戴した彼は、目を見開いて止まっていた。あ、あらら……。
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