ー閑話ー 全ては闇の中4
すみません!予約投稿間違えたので今投稿しました!!!(土下座)
どうでもいい事は適当に流すが――逆に小さな事だとしても、引っかかることには何であろうと噛み付くような。少し危ういところもあった。
ただし、セスは運の良い人間だった。
だからこそ、その言葉の毒は。
相手の寛大で尊大で傲慢な態度で流された。
「あ、そうそう。でね? 今回はボクのお気に入りがどうしてもって言って信じないから、助言しにきたんだよね〜」
「助言?」
まるで最初からなかったように仕切り直されたそれは、話の本題で。子供のテンションも落ち着いていたので、セスも腕を組んで聞く気になった。
「うんそう。いやーまぁいっても先延ばしになるだけで、運命は変わんないんだけどね〜」
「ボクが今操れるのは時間だけだし」と聞こえたけれど、聞かなかったことにした彼はそのまま大人しくしていた。藪蛇は突かないに限る。
「でも一時的に先延ばしにはできるからさ、ボクとしては無意味だけど。キミたち人間には、そうじゃないんじゃない?」
話す気があるのかどうか微妙な、一方的な言葉たち。けれど「助言」というのだから、言い方はアレでも悪くはないのだろうと自分を納得させる。
ただ顔までは我慢できず、なんだこいつという冷めた目を向けているが――上機嫌で相手の態度など気にする必要がない子供は、気にも留めない。
「まぁ足掻きなよ、人間。運命を作るのは誰か、考えたらいい」
それはセスに向けられながらも、自分に向けられたのではない気がした。
その目は目の前を映していながら。
同時に全てを見ているような。
そして、全てを見ていないような。
けれどひとつわかるのは、その子供がとても楽しそうに大人びた、見るものが不安になる歪んだ笑みを浮かべているという事だった。
「ボクは興味ないけど……面白いものが見れたらそれでいい。フィナーレを迎えるにはもう少し時間があるんだから」
「……めんどくさくて難しいヤツだな」
セスはそれを心底嫌味として零したが、子供はそれを見てけらけらと笑ってみせる。
「面白いね。ボクが難しい、かぁ。ふふふっいやいや、キミたちほどじゃないよ。ボクらはいつでも単純明快、欲望に素直なだけだよ〜?」
子供のように可愛らしくも小賢しいおちょくるような姿勢で。腕を後ろに回して覗き込んでくる。短気な者なら怒るに違いない。
けれど同時に無邪気な瞳は、中身を見透かせないながらもそれが真実であることも映し出していた。
「思い悩む必要がないから悩まない。考える必要がないから考えない。ただ退屈だから、それを崩してくれるものは歓迎さ」
くるくると回りながら、歌うように楽しげに口にしたかと思えば。目の前でピタッと止まる。
「行き過ぎた思いは不純物だ。だけど、面白い。全てが思い通りにいくということは、つまらないものだからね」
面白いかどうか。
それが行動理念で、それが全て。
満足そうにゆっくり瞬きする様は、子供らしくなくとも。その中身は自分勝手で残酷で、それでいて純真な子供のようだとも思わせた。
セスはただ、姉を思い浮かべていた。
自分の知らない苦労の片鱗を見た気がした。
「早く行きなよ、お兄ちゃん? ボクは面白いものには寛容なんだ。わからないものは面白い」
目は前髪に隠れて見えなかった。
ただ三日月のように赤い、口が裂けていた。
「さぁ、ボクらのゲームを続けよう。限りなく決まってはいても――エンディングはまだ、わからないんだから」
耳にまとわりつくような、肌を逆撫でするようなその声は不協和音のような不快さをセスにもたらした。
「だから頑張ってよ、君も君のお姉さんも」と。それだけ言い残すと、ふっと笑って空気に滲むように。空間が歪むように消えていった。
同時に、異様なほどの静寂の世界から圧力がなくなったのを肌で感じた。
「……ちっ。バカ姉が鏡面世界使ったりしたせいで、すっかり目つけられてんじゃん。はーやだやだ。厄介な姉を持つと弟が苦労するんですけ……どっ!」
足元の小石を蹴って、子供がいたあたりに投げても。それはただ奥の幹にあたって下におちるだけだった。
ただし、その勢いで木の幹が折れた。
「あ。やべ。力入れすぎたわ」
一応、確認のつもりだったのだが。ミシミシミシ……ドシーン! と、結構な音で倒れたので、何事かといった様子で2人が駆けて帰ってきた。
「セス君、セス君⁉︎」
「うわ、来ないと思ったら何やってんの急に? キツネでもいた? それで逃したとか? だったらすごいダサいけども」
「あー……」
目を丸くして幹とセスへ向けた顔を行ったり来たりさせるフィリアナ。そしてセスしかいないところを見るなり、いつもの調子になるレイナー。
どうすっかなぁと、一瞬考えたものの。
「まぁ多分、キツネみたいなもんだったわ。うん。なんか化かされたっぽいし」
「??? キツネさん……ですか?」
「うん。なんか異様な感じだったから蹴っちゃった小石。いなくなったみたいだからよかったけど」
「なーんかよくわかんないけど。逃さないでよ、そんな珍しそうなもの! 今探す暇ないのに気になるんだけど‼︎」
「レイ……。お前なんでも持って帰るのやめろ……」
神聖で妖しいキツネ。そのキツネにつままれただけなら、説明的には間違いではない。
フィリアナにもそれほど詳しくは見抜けなかったらしく、辺りを見回すだけで終わった。レイナーの方は血眼だったが。
けれど、いつまでもこれに付き合うわけにいかない。従うのは癪だが……。
「……クリスティアに呼ばれた気がするから、戻ろう」
嘘だった。でも、これは突き通さないとならない。
「えっリスティちゃんに?」
「なんかあったらしい。ヤバそうだから、戻るぞ」
「なるほどよくわかんないけど、とりあえずみんなで急いで戻りましょうか!」
「えっはい、あ、ゲンティアナ様早い‼︎」
当然その違和感を、見逃すフィリアナではなかったものの。特に疑問も抱かないレイナーは、勇み気味に駆け出す。
「セス君……」
「ごめん、説明あとでするけどこれ自体は嘘じゃないから。今は行こう」
嘘じゃない。それがわかるから、フィリアナは目を見て頷いてセスと共にレイナーの後を追った。
急ぎながら、ぼんやりセスは思った。
そもそも何かあった時。
クリスティアに呼ばれた試しがない。
それはパニック故かもしれないけれど。
多分1人でやろうとするせいだと、セツは知っている。通信手段があったって、それを使う選択肢が出てこないのは普段使わないからだ。
「……めんどくせーやつ。しゃーない急ぐか。海割って走った方が早いかなー」
そう呟いて、走りながら呪文を唱え始めた。