ー閑話ー 全ては闇の中3
あけましておめでとうございます!お待ち頂いたみなさん、いつもありがとうございます!
不定期になるかもしれないのですが、更新再開します。
「……オマケって、なんのことだよ」
セスは一瞬考えるも。
用心深く見つめまま静かに尋ねた。視線の先の子供は口元に笑みを浮かべたまま、子供らしからぬ解答をした。
「オマケはオマケだよ、お兄ちゃん? 不幸なことにキミはその時そこにいたから、女神の目にたまたま留まっちゃった付属品だよ」
無邪気な声と小首を傾げる表情だけは子供らしく、話す内容の方が嘘だと思えるほどそぐわない。
けれども肌で感じるピリつくような空気はもっと……存在自体を否定したくなる異質さで。どんなに見た目が子供らしくとも、悪趣味だと思える存在だった。
「……はぁ。ダルいの引っ掛けたな」
しばらく黙って探り合っていたものの。
セスは首を振ってから、刃を下ろした。
ため息と共に肩の力も抜く。
「あれれ? やめちゃうの〜?」
「いやよく考えたら空間隔離するレベルのよくわかんないもんに、警戒するだけ無駄だしな」
「……ふーん。変なの」
変だと言いながら、刃を見つめる瞳は恐ろしいほど冷たかった。どこか面白くなさそうに言い放った言葉にも、彼は動じない。
空間に影響を及ぼせる者は限られる。
この世界にある魔力は通常7つ。
火、水、風、土、雷、光、闇。
そしてそのどこにも当てはまらないそれが使えるのは、契約した勇者と――。
「んで? 何しに来たんだよ」
セスは全部、考えないことにした。
胡座をかいて頬杖をついて。
完全に、くつろぎモードになった。
これには相手も目を瞬いた。
「……ボクが誰かとか、もう聞かないの?」
「いやオレ巻き込まれるのイヤなんだよ、めんどいし。アホ姉みたいにお節介でもないし。だからとっとと要件言って解放してほしいね」
「……綺麗なのは顔だけだね、つまんないの」
「お褒め頂き、どーも。」
「キミのお姉さんの方がまだ面白そうだよ」
不満げな子供にだるだると返していたが。
最後の一言には、少し目を細めた。
「あんなにつまんない人間いないと思いますけどね。アンタたちが過大評価しすぎなんじゃねーの」
これには子供は一気に破顔して、けらけらと笑った。
「あははっそんなに怒んないでよ、とって食ったりしないんだから! ……中身は面白いけど、ボクは今もっとお気に入りがあるし」
小さな手で口元とお腹を押さえて、楽しそうに笑ったかと思えば。次の瞬間にはまた怪しい笑みで「クトゥルシアも怒るし」と言った。
「わざわざ他のとこのお気に入りに、手は出さないよ? 『神の涙』の持ち主には許可なく手を出せないんだよね〜丸聞こえだし」
「そっすか」
「そういう意味ではキミの方が見込みあるよ? どう? ボクと契約しとく? 後世に語られる物語の主人公になれるよ?」
「いやオレ今でも強いんで、いらないっすね」
そもそもこの短時間、この軽いノリで提案してくるものではない。親しくもなってない。聞いても面倒ごとがついてくるに決まっている。
誰かの玩具になるのも癪だし。
そういった考えからしれっと流したセスだったが。
「ふーん残念。ま、キミにはお姉さんの加護があるもんねー」
聞き流せない言葉に、顔をしかめた。なんだそれは。
「あれ、自覚ないの? キミやたら強いでしょ? 人間基準だけど。ボクは何回も見てるけど、今回の流れはやっぱり特殊なんだよねー」
あまり深く聞きたくはないものの、一応身内の話は気になるので耳を傾けてしまう。子供は遊ぶように、くるくる回りながら話す。
「まぁ正確にはキミだけの話じゃないけど……そのキミの強さって、キミのお姉さんがキミを強いと思ってるからじゃない?」
「は? いやそんな……」
「クトゥルシアはキミに1ミリも興味ないからね。本来ならセス・シンビジウムはボクも関心を持たないありふれた凡人さ。なら答えは1つ」
ピタッと回るのをやめて。にししとこちらを覗き込むその顔は、様子を伺うようでもあり。嘲笑うようでもある。
「どう? 怖い? それとも不快? キミだけじゃない。キミのお姉さんの常識や考えによって、この世界は少なからず影響を――」
「いやどうでもいいっすね」
「へ?」
溢れるようにでた言葉たちをぶった斬って、セスはけろっとした顔で口にした。
「よくわかんねーけど、強いならラッキーってだけだし。まぁ転生者が強いのなんか、ラノベのセオリーだし当然っていうか」
「……キミの努力は無駄かもしれないのに?」
「いや何に驚いてんのかマジでわかんねぇけど、クリスティアに弱いって思われたら弱くなんの? じゃあ今までとなんも変わんねーじゃん」
話は終わったとばかりに、立ち上がって。片手を腰に当てて見下ろしてニヤリと笑う。
「強そうだと思わせる姿を見せつづけるのは、努力と変わんないんだから実力じゃん」
セスの周りには努力や研究を重ねて、力を磨いていく人たちしかいない。素質だけではここまでにはならなかったと自負している。
だからこそ、揺るぎない意志で実力だといってのけた。
例え少しのきっかけがあったとしても。
クリスティアのことも知っているからこそ。
そんなものは些細なことだと胸を張れる。
「つーかオレ、使えるもんは使う主義だから関係ないし。あと神様の使いっ走りとかごめんだし……」
一度目を瞑り、少し瞼を開けて。
目の前の相手を、睨んだ。
「人の姉を悪役に仕立て上げようとするやつは、不快なんだけど。帰っていい?」
これに子供は数回瞬きをして。そして何故か、その楽しそうに笑顔に変わって拍手した。
「わ〜! キミ結構気に入ったよ‼︎ いいね! 予想外だよ‼︎ 時期が時期ならコレクションも考えたんだけどなぁ‼︎」
「うわやっぱ面倒なやつじゃん……」
「ん〜でもごめんね! 今ボクのお気に入りが、キミを連れてきちゃうと妬いちゃうから! ちょっとだけ残念だなぁ〜‼︎」
「なんかわかんないけど、その人に同情するわ……」
「真紅の髪とハニーイエローの瞳が美しい子でー! 心も綺麗なんだけど素直じゃなくてね〜⁉︎」
「……。」
呆れるほど、話をまるで聞いていない。
テンション高く、セスの話とどこかズレた返事をする子供。いやもう子供ではないことはわかっていても、口にする気はなかった……が。
「空っぽの玩具だけ集める事しかできないなんて、オレよりアンタのほうがよっぽど不幸だな」
あれほど饒舌だった子供のおしゃべりはピタリ止まり、風も音もない空間には沈黙が深くのしかかった。
セスは意外と、根に持つタイプだった。
次回更新は明日を予定しております。