47話 お姉さんからアドバイス
そんなことできるのか、とオレンジの瞳が揺れる。
「1つは無視すること。見ても、見ぬふりすることだよ」
「そんな! そんなこと……できない……だって困ってるのに……」
無情に告げられた言葉に、その可愛い顔が歪んだ。
まぁそうよねー。
それができたら、苦労してないしね。
今のフィーちゃんが苦しいのは、フィーちゃんが無視できないからだ。その優しさが、彼女自身を締め付けている。
彼女はそれも覚悟でやってるんだろうけど。
けど、ごめんね?
私苦しそうなのって見るの好きじゃないんだ。
だからこれは、私のエゴ。
「隠すことは、悪いことじゃないんだよ? 自分を守ることにもなるし。私だって、人前でこんなことほとんどしないよ」
サラッと言ったけど、今初めてしたよ!
まぁでも、予知もアルバート王子の前以外ではするなって、セスのお父さんに言われてるしね。それを含むなら嘘じゃないよ。
「でも……」
そう言い俯いてしまう。
だよね。私みたいにズルくないフィーちゃんに、これは酷な選択だよね。知ってた。
「じゃあ2つめだね。2つめは、その魔力を抑える方法を学ぶことだよ」
だからそう、2つ目が大本命だ。
「魔力を抑える……?」
不思議そうに、彼女は目をぱちくりさせる。
「魔力をコントロールする、でもいいよ。今フィーちゃんは、ずーっと人の心の色が見えてるんじゃない?」
「うん……」
尋ねれば、コクリと肯かれた。
この幼女、すごいな!
それずーっと魔力使ってるってことだぞ!
その総量はいかに!
やはり主人公は違いますねぇ……。
私は密かに感心しながらも、動揺は隠して続ける。話の腰は折ってはならぬ。
「それをいつもじゃなくて、必要な時だけにするの。あのね、フィーちゃん以外の人って、別に色が見えたりしないでしょ? でも成り立ってるよね」
「う、うん」
「あれは表情とか行動とか言動とか、そういうのである程度分かるからだよ。フィーちゃんあんまりそういうの考えないでしょ。必要ないし」
瞳をたまに逸らしながら、要点だけはその目を見るようにする。
言い方きついかなー?
私は優しくはないから。
上手く伝えるのって難しいんだよね。
まぁそれでも受け入れてもらわないと、この先が大変だから。
「私はね。そういうのがわからない時とか、怪しいなって思った時だけ、その力を使うんでいいと思うの」
ゆっくり優しく、伝わるように。
言葉を噛みしめて、表情を和らげて語る。
「フィーちゃんがいつも力を使ってるの、人からだとさ。片付けてない部屋を覗かれるようなものかと思うの。それってちょっと恥ずかしいし、嫌じゃない?」
私の言葉に納得がいったのか、すごい勢いでブンブンと頭を縦に振る。その表情は、真剣そのものだ。
とっても素直でわかりやすい。
でもそれ酔わないかな?
頭外れちゃいそうな勢いで、心配だよ。
「だからね、普段は見ないであげるのも優しさかなって思うの。でも、その部屋の中で倒れてたら大変だよね?」
もう伝わっていそうだけど、念押し。
「だからフィーちゃんが必要だと思った時には、使った方がいいかもね。フィーちゃんには、それを助けられる力があるって事だよ。誇りに思っていいと思う」
よっぽど目から鱗が落ちたのか。大きな目がさらに大きくなって、口があんぐりしている。
「多分フィーちゃんの魔力は、私と同じようなタイプだから。自分で思えば抑えられると思うよ? ま、ちょっと考えてみてねーーさてケバブ食べますか!」
空気が切り替わるように、最後はちょっと戯けて言った。
私にできるのはここまで。
あとはフィーちゃん次第だ。
あくまで私の話は提案であって強制ではない。
ただのお姉さんからのアドバイス。
まぁそう言いつつも私はずるいから。
先に断るだろうアドバイスを仕込んだのだ。
人間って一度断った後の次の話は断りにくくなるの。これぞ、心理テクニック! ……悪い人間だわ。
あとできるとしたら。ちゃんと魔術を見てくれそうな貴族を、彼女に斡旋できるかどうかってとこかな……。
帰ったら考えよう。
まずはケバブ食べよう。
という訳で2人でケバブと。結局フィーちゃんがもう1度見たいといったので、フィーちゃんの分もオレンジジュースに変えて。ハイキングを満喫した。
そこで分かったのは、協会の事情。
この世界の孤児院は、教会じゃなくて協同組合みたいなのが運営してる。だから協会。ややこしいよね。
まず第一に、協会から孤児院に回す分の資金が減っているらしい。
何でだろうねぇ?
信者が減った話は別に聞いてないんだけど。
何が原因かは、知る必要がありそう。
第二に、孤児が増えている。
戦争でもあれば分かるんだけど。
あれば子供だって分かるよね。
よくない予兆であるのは確か。
第三に、最近貴族に貰われていく子が多い……その割には、食事が増えない。
フィーちゃんも痩せてるから、気になってたのだ。
フィンセント王国では貴族が孤児院から子供を引き取る場合、その代わりに寄付をすることになっている。
まぁ孤児が多いから。
それで食糧不足ってことは、理由の1つだけど。
貴族の寄付だよ?
貴族なんて世間体が全て、みたいなところあるかし。パフォーマンス的に、結構な額を寄付することが多い。明らかに変。
そんな話を芝生の上で、ケバブ食べながらしてました……。こんな飯マズ話聞いてごめんねフィーちゃん……。
でもでもこれ!
世間話から引き出したので!
そこは年の功ですね。
お陰様でフィーちゃん呼びの正式許可と、リスティちゃん呼びゲットです!
まぁ、偽名なんだけどね……。
それでも推しと仲良くなれて素直に嬉しいです。