465話 ヘビの前の蛙のごとく
****
次に目を開けた時、目の前にいたのは。
「ムキーッッッ!!!!! 返しなさいよ私の魂〜〜〜〜!!!!!!!」
髪を逆立て、形相が鬼のように歪んだ女神様でした。うん、この姿みられたら信仰減りそう……じゃ、ない!
「女神様、女神様っ! やめてくださいってば‼︎ 例の人のせいで世界滅亡の前に、女神様のせいで人類滅亡しますって!!!!」
巨大バージョンの女神様の前では、私は虫ケラ同然。でもとりあえず気づいてもらえるように、ビチビチされてる尾ビレにしがみつく。
すると女神様の目がこちらに向いて、尾ビレの動きも止まった。
「あんた何やってんのよ! 潰しそうだからあっち行ってて‼︎」
「いやいや女神様こそ何やってんですか⁉︎ ていうか、私の話聞いてましたっ⁉︎ 私どころじゃなく人類が潰れますーっ‼︎」
実際、なんの算段もなくしがみついたわけじゃない。
ここしかしがみつけなかったとも言えるけど……多分、身構えればビシビシ往復3回までは生きてるし! あとは知らないけど‼︎
でも、女神様は気付いてたはずだ。
私が神域にやってきたことに。
その上で、無視して暴れていた。
だから話を聞いてもらうには、無理やりこっちに注目させるしかなかった。体張ってる系悪役令嬢はもう、正義の味方名乗っていいかな⁉︎
「死んだら女神様も困るじゃないですかー!」
「多少の魂は誤差よ! 早かろうが遅かろうが、私の元に帰って来ればいいの‼︎」
「うわ神目線の発言が炸裂してる⁉︎」
人間側はたまったもんじゃないですけどっ⁉︎
しがみついて尻尾を巻きつつ、ガルガルと食い下がってみるが。女神様は子供並みに横暴で理不尽に、腕を振りながら宣います。
でもこっちも引き下がれないので!
「というか! 私も理解できてないんで、まず説明してください‼︎ あのハリケーンはなんなんですかっ⁉︎」
大声で一発、噛みついてみたら。
「……それも理解してないあたりに、哀れみを感じたわ……」
何故か憐憫の視線を投げかけられ、女神様が落ち着きました……って!
誰もわからないですから!
神目線でのわかるは私にはわからない‼︎
人間にわかるように話してー‼︎
「あなたも見てたでしょう。魂が吸われていくのを。あんなことできるのは魔獣だけだわ」
「え……魔獣、ですか? あれ、でも魔獣は人を襲うだけじゃ……」
そもそも、魔獣って。
少なくとも、モンスターみたいな形だよね?
さっきのはハリケーンだったけど……?
そうやって目をぱちくりさせてる私に、面倒そうに腕を組みながらも付け足してくれる。
「魔獣は魂を食う。それは知ってるんでしょう?」
「え、まぁ……魂がないからでしたっけ?」
「正確には、魔力を作り出せる魂が存在しないからよ。あれは私が作ったんじゃなくて、余った魔力エネルギーの残骸だから」
なるほど……? たしかに、同じような話をレイ君に聞いた気がする。
魔獣は魔力でできているけれど、その魔力は生み出すことができないからだとか。結構前だけど、クロを作り出しちゃった時の話かな?
「核がないから、核を求める……元々生きてなどいないのに、生を求める永遠の骸。それが魔獣。いつだって魂を求めているわ」
淡々と語る女神様とは逆に、私はなんだか可哀想だなと思ってしまった。だからといって、人間が食べられていいわけではないけれど。
こういう考えが、私は甘いのかもしれないけど……とか考えつつ、その話を聞いていた。
「適合する魂が見つかるまで、それを求め続けるのがアイツらの目的なのよ。目的とか考える頭なんかないけどね」
「……でも、たまに擬似魂がある魔獣もいますよね?」
出た声がちょっと不機嫌っぽくなってしまったのは、クロが頭をよぎるからだ。
私は、クロを知ってるから。
擬似魂のある魔獣に触れたから。
意味がない、みたいな言い方は複雑だった。
やっちゃったかな……と思ったけど、女神様は気にするそぶりもせず答えた。
「そうね。膨大な魔力で、適合した魂を無理やりのっとったヤツがね。ま、闇の魔力を扱うヤツならその核もいらないけど……」
「……あー……」
「あぁ、そういえばあんたのとこにもいたわね」
私の生返事へ、どうでもよさそうに言う様とその視線に。この神様はそもそも魔獣に、興味がないんだなと感じた。
無関心なんだ、最初から。
どうなろうと知ったことではないんだ。
自分の作ったものじゃないから。
改めて人間との感覚の違いを感じて、胃がきゅっと締まった。よかった、連れてきてなくて。一歩間違えば、クロは気まぐれで消されてしまう。
「まぁとにかく、そんなヤツにとって無防備な魂は格好の獲物なの。本来なら、本能的に私に恐れをなして近づかないんだけど……」
「……誰かが使役してれば別、ですか」
「あぁ、そこはわかってるのね。そうよ。まぁあれの形が魔獣と呼べるならだけど」
ついに核心をついた話に、ごくりと息を飲んだ。『あれを魔獣と呼べるなら……』か。それはつまり、本来の形ではないってことだ。
「……誰かが形を変えたんですね……」
「誰かっていうか、あんた検討ついてるんじゃないの?」
ドキーーーー!!!!
その訝しげで蠱惑的な瞳は、こちらをロックオンしている。心なしか、そのアクアマリンの色が深く、深海のように暗くなった気がする。
あまりの不意打ちに表情が固まった私……い、いや! でもまだ隠さなきゃ‼︎
ぽいってだけで、実際に見てはないし!
そう、疑わしきは罰せずなの‼︎
私の寿命は縮みますけどね‼︎
「え、と。それはどういう意味ですか? あ、例の人って意味で合ってます?」
「……まぁ、そうね」
ゆっくりとその瞳が閉じられると同時に、私はそっと胸を撫で下ろした……。
いや、ここからどうすんのよ私‼︎
帰っていいのこれ⁉︎
怪しまれてる気がするんですけど‼︎
人類の前に私が破滅しそうな予感に、背中の汗が止まりません……。泣いていいかなぁと思いながら、命綱の表情管理に力を入れた。
ブクマ、評価、いいね、閲覧ありがとうございます!GWはフラないウィーク!毎日更新予定です!




