46話 熱中症はこわいからね
「そうだ! 泣いた後は塩分だよ! これ食べて‼︎」
なんか餌付けしたくなったので、ケバブを取り出した。ちゃんと新しいやつだよ?
「えっそんなに迷惑かける訳には……」
「でも泣くのって体力使うからお腹空いたでしょ? それに涙で塩分ミネラル流れたまま、ここまで登ってきたから! 夕方でも、熱中症になっちゃうよ」
目が驚きで泳いでいるが、怒涛の言葉責めで押し流す。
そんな遠慮はいらないのだぞ!
推しに餌付けできる!
こんな幸せはないのだから!
という本心は隠しますけども、ええ。
いや、熱中症もほんとに心配だからね。
「けど……」
「あのね、私疲れちゃったの。こーんなに荷物いっぱいで、すっごい歩いたから。もう持って歩けないの。だから減らすの、手伝ってくれるでしょう?」
とっても自業自得な事を。さもここまで歩かされたから、というように言い掛かりを付ける。
我ながら酷いやつだなー、と思うが。
まぁ、ものは言いようってやつですよ!
とりあえず食べて!
「……そういう、ことなら……」
そう言っておずおずと伸ばしてくる手を、獲物に噛みつく蛇の如く掴む。そして素早くガッチリとケバブを握らせた。びっくりされている。
大丈夫! 毒とかないよ!
「あ、でも喉渇いちゃうか。ていうか渇いてるよね。私も渇いたな。んー、水はあるから……」
顎に手を当てて、少し思案してみる。
器が欲しいね。
でも持って帰れないし……そうだ。
試しに創造が実際にできるかやってみるかな。
思い立ったが吉日というし、いずれ検証が必要だと思ってたからな。
そう思って。不思議そうな顔をして、芝の上に座っているフィーちゃんを置いて。水道のほうに進んだ。
そこは水道というよりは手水場みたいな感じになっていた。
ちょろちょろと、筒から水が流れている。
きれいな水が溜まっていて、触るとすこし冷たい。
けど、飲むにはぬるそうかな。
「よーし、フィーちゃん! ちょっと見ててね!」
「えっ……?」
そういうやいなや、水面に手をつけて目を閉じる。
イメージは、そう。
薄く氷を筒状にして。
その下に、底をつけて……。
すると眩い光が視界を白くする。薄く目を開けると、あの時の銀色の光が見えた。
光が収まれば、手の中には1つのーー氷でできたコップがあった。
「おーよしよし上手く行った!」
初めてにしては上出来では?
私は結果に満足した。そのまま水が流れているところから掬って、フィーちゃんのところに持っていく。
「はい、お水だよ! 喉渇いてるでしょう? 冷たいし溶けちゃうから、ずっと持ってはいられないけど」
「えっえっ」
フィーちゃんは見たものが信じられないように、私の手元のコップと私の顔を交互に見ている。
「びっくりした?」
そう問うと、こくこくと肯く。可愛い。
「あのね、私もこれ、あんまり人に見せちゃうと怖がられちゃうと思うんだけど」
目をしっかり見て、笑いながら言う。
「フィーちゃんは自分のこと、嫌われちゃうかもって思いながら教えてくれたでしょ? だからお返しね」
せっかくフィーちゃんが心を開いてくれたのだ。
こちらも少しくらい、開いても良いだろう。
あわよくば今だけでも仲良くしたい!
「わ、私は何も……」
「まぁまぁ細かいことは気にするでないよ〜飲め飲め!」
そう言って、首を振る彼女にぐいっと押しつけた。
戸惑いながら、こわごわ受け取るフィーちゃん。
「つめたい……」
コップを見つめながら、目を丸くして言うフィーちゃん。
不思議なんだろうなぁ。
反応が可愛いねぇ!
お姉さんにこにこしちゃうわー!
「うん、氷だからね! 手がくっついちゃうから、あんまり持ってちゃダメだよー。でも、冷たい飲み物って暑い時飲むと美味しいよね!」
「……私だけ飲む訳には……」
そう、眉を下げて言う。
あぁ、いい子に心配させてしまった。
「あ、ごめん私も飲むから大丈夫!」
とっとっとーっと走っていって、もう一回手をベシャっとやってえいやー! ぺかーっ!
2度目ともなるとそんなに考えなくても、同じものを作ることができた。
水を汲んで……ちょっと考えて手をかざす。
途端に、その銀色の光に包まれた水は。
オレンジ色の液体へと変わる。
「フィーちゃんお水以外がよければ言ってー!」
そう言いながら戻ると。
まんまるおめめのまま、フィーちゃんが固まっていた。
あかん、やりすぎた。
「……怖くなっちゃった?」
「え! ううん! 怖くないよ‼︎ でも初めて見たから、びっくりして……」
心配になって、顔を覗き込むようにそう聞くと。解凍されたフィーちゃんが、大きな声で首を振りながら言う。まぁ、あんまり闇の使い手いないもんね。
でもこれで実証された。
確かに、私が思った通りにものを作ることができるみたいだ。
ま、今回は氷なので溶けちゃうから。
術解くまでもなく無くなるんだけどね。
やだー私ってば完全犯罪できちゃうじゃない!
よくあるよね、推理モノのトリックに氷!
さて、そんなことは置いといて。
「フィーちゃん。あのね。フィーちゃんはこれから、その魔力をどうするか考えなきゃだと思うよ」
「魔力を?」
あんなに泣いちゃうくらい、本当はつらいのだ。
それを思うと、そのままにはしておけない。
だから、優しく語りかけるように、私は言葉を紡いだ。フィーちゃんは、ちょっとびっくりした顔をしている。
「うん。今は多分、無意識に使ってるんだと思うけど。それだとフィーちゃんの悩みは無くならないから。だからね、多分選べるのは2パターンだよ」
勿体ぶって大袈裟に言う。これもひとつの話術だ。相手に興味を持ってもらわないと、アドバイスは意味をなさないから。
こう言えば、フィーちゃんはきっとこう言う。
「それは、なんなの?」




