44話 ヒロイン泣かせは悪役令嬢のお家芸
「……そうですね、まずはお名前を聞いてもよろしいですか?」
「えっと……フィリアナと言います。平民なので、ファミリーネームはないです」
平民というより、孤児院にいるからだと思うけどね。
だって私の予想では、フィーちゃんは貴族の隠し子だ。
貴族ってお金がある分、美男美女とかで結婚しやすいんだよね。つまり自ずと美男美女が生まれやすいんですよ。
これだけ整った子が、平民に生まれるかは疑問だし。第一魔力量が多いのは通常貴族なので、まぁそういうことだよね。
主人公が魔力量少ないわけないです。
「そう。私は……リスティというの。よろしくね」
正直に名乗ろうかと思ったけど。
まだフィーちゃんの対処考えてなかったからね。
とりあえず保留。
ねぇなんでこんなに、行き当たりばったりになっちゃうのかなぁ?
ヴィンスは私のせいだけどさ!
フィーちゃんは分かんないじゃん⁉︎
もっと早く言ってよー!
……まぁここで会っても、次は10年くらい会わないわけだけど。フィーちゃんは男爵家に行っても、社交界に出してもらえないから……。
「……あの、リスティさん? どうしてそんなに悲しそうなのですか?」
「え?」
「泣いちゃいそうです。あの、どこか痛いなら私に見せてもらえませんか? 私すこしなら治せると思うので……」
心配そうな顔に、思わず涙腺が緩みそうになる。
うわぁぁぁいい子〜!
やっぱあの男爵家にはもったいないよ!
はい、もう決めました。
あそこには行かせないです!
あんな性格の家がまともなわけがないから、ちょっと突けば不正の1つくらいあるだろう! なんとかしよ! お姉さんがんばる!
そして気付いたぞ。
やっぱり、治癒魔法もう使えるね?
光属性の魔力つかいこなしてますわこりゃ。
この歳で使えるのって、多分すごいことじゃないかな。
「その……ちょっとこのあとどうしようか、迷ってたんですけど。貴女に会えて決まりました、ありがとう」
「えっそうですか? ……確かに1人は心細いですよね」
お礼を言うと、少し意外そうにしながら寂しそうに笑う。
うん! あんなクソ男爵のところにはあげません!
やっぱ1人で耐えてたの辛かったよね!
まぁこのセリフはそういうことじゃないけど!
こんな可愛くていい子で小さい女の子に、辛抱強いてまで作らなきゃいけないフラグはないよ!
一本くらい折ってもいいでしょ! 虐待ダメ絶対!
第一、こんな可愛くて光の魔力をもった特別な子だよ? 男爵家に行く理由ないよね? もっといいとこ行けるよね?
……これはなにかあったな?
ゲームでシュチュエーションを、盛り上げるための設定って言ってもさ。男爵はないよ。ないない。
今でもいい子なんだからこれ以上いいって。
設定足りてるよ。盛る必要ないよ。
消化しきれないよ。
大丈夫! そんな要素なくても、アルバート王子は好きになるって!
「フィリアナさん、敬語はいらないわ。同じ歳くらいでしょう?」
「でも、リスティさんって貴族階級の方では? お洋服も言葉遣いも綺麗ですし……」
はっ! 洋服!
キメキメで言ったのに、眉を下げた顔で論破された。台無しである!
確かにお嬢さんっぽいけど!
でも言葉遣いはそれほどでもないよね?
それに夏服だからまだ薄いし誤魔化し効くよね?
よし、こうしよう!
「あはは、違うの! 今日はお祭りだから、お洒落してきただけで、ほんとは中流階級だから庶民だよ。お嬢様ぶってみたかったの。ごめんね?」
嘘ではないです!
心は今も庶民だし!
いつもお嬢様ぶった口調させられてます!
そう嘘じゃないよ、言ってないことがあるだけだよ?
「そう、なんですか……?」
「そうだよ! お嬢様が1人で歩くわけないでしょ!」
まだちょっと疑ってるらしいので、ケラケラ笑って返す。
「たしかに、見えないや……」
「お嬢様っぽくなかったか〜やっぱりもっと頑張んないとなぁ」
「あ、いえ! 違うの。嘘が見えないから……」
おぉー? なになにそれ。
さっき不安が色で見えるみたいな話してたのと、関係あります? 嘘発見もできちゃうの?
……ねぇ誰か私の冷や汗止めて。
「ご、ごめんなさい! 私が嫌なら他の人に声をかけるので……」
「わー! 待って! 私仲良くなりたいから! 大丈夫だから‼︎」
今にも走り出しそうだったフィーちゃんを掴んで、止める。せっかく会ったんだから、話聞かせて!
「きもちわるく、ないんですか……?」
「え?」
「当てられちゃうの……施設でも、嫌がる人もいるから……」
彼女は不安そうに、目を逸らしながらそう言った。
あー。そっか。
これ、困ってる人に片っ端から声かけてるな?
優しいからほっとけないんだろうなぁ。
そして子供だから、正直に話しすぎる……まぁー心の中見られたくないって人いるよね。そうじゃなくても人間って自分と違うものを嫌いやすいし。
「でも、全部が見えるわけじゃないでしょ?」
「そう……なんですけど……」
色で見えるなら、正確にはどの言葉が嘘かはわからないけど。やましい事がある人は嫌がるわけだ。
人間って、綺麗じゃないもん。主人公みたいには、みんないかない。綺麗なものの隣にいたくない人なんて、たくさんいるよね。
自分の醜さを自覚してたら、尚更。
「ねぇ、ならなんでさっき声かけてくれたの?」
「それは……」
口元に手を寄せて、言い淀む彼女に追求する。
「そんなに嫌がられてるのに。そのリスクまで侵して、見ず知らずの私に声かけてくれたでしょ? そんな優しい人のこと、嫌いになったりしないよ?」
安心させようとケバブをしまってから、手を取って笑顔でそう伝える。
言葉にしなきゃわからないことって沢山ある。
でも言葉だけで伝わらないことも、沢山あるから。
彼女は強くて綺麗だ。
自分が傷付くのも厭わずに、人を助けてしまえるほど……私ならできない。その優しさは自分のためじゃないんだろうね。
でもさー、私はやっぱりそういうのって。
認められるべきだと思うんだよね。
そして、報われるべきだと思うの。
その勇気を賞賛したい。
まぁ私じゃ、力不足かもしれないけど。
……私の頭の中で弟が「それ以前にケバブで全てが台無し」って言ってるのは無視!
「わたし……っ」
可愛い顔がくしゃっとなったと思った瞬間、涙がぽろろん、と落ちた。
ああああ泣かせてしまったああああ‼︎
「ごごごごめんね⁉︎ えーと、えーーと‼︎」
ああマズい‼︎
幼女を泣かせた罪で逮捕されてしまう‼︎
そ、そんなつもりはなかったんですって!
もうどうしていいかわからなくなって、とりあえず抱きしめる。
悪くないよーワタシワルクナイ、イイ子ダヨー‼︎
ていうか、身長僅かにフィーちゃんよりおっきいんだけど!子供だからうまくハグできない!
小さい子ならこれでノックアウトなんだけどな!
お姉ちゃん舐めないでよね!
まぁフィーちゃん同じ歳なんですけどー!
うーん、背中は撫でられなかったので仕方ない、頭を撫でます‼︎
あ、ふわふわ。至福。
……すみませんお巡りさん。
痴漢になるなら出頭します。
そのまま、フィーちゃんが落ち着くまでギュってして頭撫でてました……。ごめんなさい王子。貴方のヒロイン泣かせました……。
この事実を隠そうかどうか迷いながら、屋台の間の空を見上ると。日が落ち始めるところでした。
あ。帰んなきゃだった。