430話 見ている先は、別のもの
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当然だけれど、凍りつくなんて事はなく。
いやまぁそりゃそうなんだけどね?
だって自分たちにも使ってるんだし。
そもそも火魔法が熱を操ると分かってから、それを応用できるようになっている優秀な2人だし。
今のところ、火魔法の使い手では。
2人の右に出るものはいない。
冷やす事を、他の人はできないからね!
なのでこの2人レベルの懸念は、多分一般の懸念に掠りもしないと思う。
それでも大変だと言うのは、微調整の範囲だからなんだろうなと思った。石油あるのに、マッチレベルの火をつけるようなもんだよね。
とかなんとか考えていたら。
「お姉様、ストップですの!」
「ふお⁉︎」
腕を引っ張られて、ちょっとたたらを踏んだ。バランスを取ろうと伸ばした左手は、アルに握られて立て直す。
「前を見て歩いてください。テントにぶつかりますよ?」
「……すみません!」
なんか言い訳しようか一瞬迷って。
泳いだ目は、大したことじゃないから謝ろうという決心で一点に止まった。そして真面目なキリッとした顔で告げておいた。
だというのに、なんでそんな目?
不安しかない……みたいな疑いの眼!
ちょっと考え事してただけじゃないのー!
……マルチタスク能力がないと言えばそれまでですけどー!
犬も歩けば棒に当たるなら。
なら私が歩けば何かに当たるのは当然だし!
なんなら転びますけど生きてるから大丈夫‼︎
という訳で曇りなき瞳を向け続けたのだけれど、彼の心は曇り模様らしい。眉間しわしわだよ!
「……私は心配して言ってるんですよ? 分かりますか?」
「うん! もうすっっっごいわかりますとも‼︎」
「その顔しておけばいいと思ってませんか?」
一寸の狂いもないこの視線と!
コンマ1秒も迷いのないこの頷きの!
どこで疑ってるっていうんですか‼︎
今が表情変えない選手権開催期間なら、私はきっとアルに勝っているくらいなんだけど。何故か信用できなかったらしく、頬を突かれた。
「ぷひょ⁉︎ 何故突いたの⁉︎」
「ふ、なんですかその奇声は」
驚いて目を丸くする私の目の前には、クククッと笑う王子様がいらっしゃいます。何してんの⁉︎
「いやいやいきなり突くからでしょうが‼︎」
「だんだん膨らんできたら、潰したくなるじゃないですか」
「え、嘘⁉︎」
ほっぺを両手で押さえてみたけど、もう潰されているので当然膨らんでなかった。えー! やだ、無意識にやってたのかなぁ⁉︎
「お兄様! ふざけてないで入りますわよ‼︎」
しかしここでプリンセスストップがかかった。仁王立ち王女のおな〜り〜!
そりゃそうだ。
入り口の前で何やってんだという話ですし!
すみません私がいけないんですけどね⁉︎
よかったよかった、リリちゃんがマトモで……。
「私の事を忘れてイチャつかないでくださいませ‼︎ 入らないなら私も、お姉様のほっぺつんつんに混ざりたいですの‼︎」
「いやイチャついてないし早く入ろうよ⁉︎」
残念ながら、マトモではなかったらしい。
真面目な顔して何言ってんの⁉︎
「お姉様……あれはどこからどう見ても、イチャイチャでしたの! 人の見ていないところではなく、もっと見てるところでなさって‼︎」
「なんで⁉︎ 逆じゃない⁉︎ ねぇ⁉︎」
「もちろん私とも人前でイチャついてくださいませ!」
「それは割といつも通り‼︎」
アルとは自信ないけど、リリちゃんは人目を憚らず抱きついてくるからね! 『氷華様』がね! それは否定できないよね‼︎
けど、アルは……。
「? どうかしました?」
「……いや、なんでも」
……別に、私にってだけじゃないでしょう……。
目が合って、勝手に気まずくなりサッと避けた。
うん、勘違いしちゃいけないぞ、私。
アルは誰にでも優しい!
たまたま、私が近くにいるだけで!
リリちゃんに接するのと、多分大して変わらないし! フィーちゃんにも優しいし! というか、まぁ男女問わずですけど。
「まったく。優しすぎるのも考えものだわ」
「……何故私の方が怒られているのでしょうか?」
「怒ってないよ! ……ほらほら! 中入るよ‼︎」
首を横に振って頭からモヤを追い出す。そしてガバッと腕にしがみ付くように、手を回して引っ張る。
わかってるよ。
それが『婚約者』だから。
もっと大事にするってだけでしょ?
私が『婚約者』である限り、彼は私に甘い顔をするだろうーー誰だって一生隣にいるかもしれない人なら、仲良くしておきたい。
でもそれは、恋愛じゃない。
私の気持ちとは、全然違うんでしょう?
それが『婚約者』という制度だもの。
「いきなりなんですかまったく……」
首を傾げながらも、次の瞬間には前を見据えて真剣な面持ちになっている。
その横顔が好き。気高さが滲む表情が。
あなたは、間違いなくこの国の王子。
見ているのはこの国とその大衆。
……でも、ほんとはね。その切り替わる瞬間がちょっとだけ嫌いなの。だってーー。
「私は、それを持ってないんだもの……」
「何か言いましたか?」
「……独り言! ごめんね気を散らしちゃって! ほら、いこ‼︎」
こちらを向いた顔は、いつもの顔。
それにホッとしてしまう気持ちと。
後悔する気持ちが、入り混じる。
でもそれを全て飲み込んで。笑顔を向けて添えた手で、彼の腕を軽く叩いた。
「邪魔にならないように頑張るから、よろしくお願いします!」
あなたはきっと、まだ恋を知らない。
友愛と恋愛は違うと、いつか気付く。
ただ、決められた枠に私がいただけ。
その違いは、決して埋まらないんだよ。
全然前を見ないで、アルの方だけ見て言う私は違う。私のキャパシティは、とっても狭いから。全部なんて抱えられないよ。
そういう器を、私は持ってない。
「……邪魔だと思った事はないですけどね?」
それは今だからでしょ、とは言わない。
アルは唯一、私の預言をあんまり信じない人だから。こんなに私が後ろ向きなのに、全然婚約破棄してくれない人。
ーーそれでも、『運命の強制力』はあるんだよ。
前だけを見ている私は、彼の言葉には返事をせず。警備兵が入口を開けるのをただ見つめていた。
停滞してすみませんでした!
なのに何故かブクマ増えてて驚いてます!感想効果…⁉︎
絶賛スランプは引き続いていますが、書くのはやめません!牛歩ですがお付き合い頂ければ幸いです…!




