404話 悩める者の部屋
お城から帰ってきた事で、のびのび悠々自適生活スタートだー!
と、思ったのだけど。
「怒涛の手紙ラッシュ……」
良いところから届く手紙は、そりゃあ良い紙を使っている。一目でわかるし、触っても滑らかでーー手に持った手紙からも圧を感じる。
まぁ送り主は。
みーんな、知り合いですけどね?
「くー姉はいいじゃん。それだけなんだから」
「セツは……まぁ大変そうだよね」
席に腰掛けげんなりしている弟を目にして、心の底から同情した。手紙が山のようだ……。
長い休みがある期間というのは、当然社交の季節でもある。
社交的なのは、大体シーナあたりに仕分け頼んじゃってるしね。一応私は公爵家のご令嬢ですので、そんなに顔を出さなくても良い。
特にまだ、学生1年目だしね。
それに今は王子の婚約者ですし。
そうじゃなくても、預言師なのだ。
逆にほいほい行ってしまうと、みんなを恐縮させてしまう事もある。という訳で、面倒な事はあまり引き受けないで済んでいる。
まぁ最悪、セツの社交の相手がいなきゃ出るハメになりますけどね……。
「……さっさと婚約者作ったら、そこまでではなくなるんじゃないの?」
「でしょうね。はーオレだってそうしたいわ。つか、この人たち何でオレの事判断してんの? 家柄?」
「……と、顔と魔力じゃない?」
「はー、モテる男は辛いわー」
手紙をうちわのように仰いで、見せびらかして煽ってくる弟よ。殴られたいのかい?
そのドヤ顔やめろ。
たしかに私はモテませんけど‼︎
いや、婚約者いる人に手紙来たら困るわ‼︎
しかしあんな大変そうな量、私は読みたくない。なので寛大なお姉様は、拳を固めて固い笑顔を向けるだけで許してあげるわ。
「暴力反対ー」
「まだ未遂よ!」
「暴行罪未遂で逮捕ですね」
この減らず口め!
しかしぐっと奥歯を噛み締めて、抑える。うん、DVは良くないからね。
「……さっさとフィーちゃん誘って、どっかのパーティーでも行ってきなさいよ。一発でその手紙は減ると思うけど?」
その手紙の多くは、要は婚約の誘いかそれに付随するような何かだ。セツさん、この歳で相手いないのバレバレだからね。
公爵家と縁ができるのは、そりゃ誰もが喉から手が出るほど欲しい縁なのだ。王族の次に。
貴族社会は階級制。
上流であればあるほどステイタス。
まぁ財力も権力も桁違いだしね。
セツが優秀なのは、たとえ最後中止になったとしても。あの魔術遊戯会で公になった事は、記憶に新しい。結構人が来てたしね。
まぁ元々家柄で人気あったのが、さらにアップしてしまったというワケ。
「これが嫌だから、あんまり女子と話してこなかったのに……」
「まぁそれが、フィーちゃんと話すようになったからっていうのもあるんでしょ」
「……ち。どこまでも家柄かよ」
こら。舌打ちやめなさいよ。
軽く睨むと、面倒くさそうに目を逸らして手紙を机の上に投げた。あーもう。そんなぞんざいに扱うなんて……まぁ気持ちはわかるけど。
フィーちゃんは一部に聖女様と言われているけど。お高く止まってる人から見たら、社交もしなかったポッと出の伯爵家の養子。
生徒会で繋がりがあるからとは言え、家柄だけならもっと上の人たちがいるという事になる。
まだ、舐めている人がいるって事だ。
正式に聖女になる話、出回ってないし。
そう聖女就任は、口止めされているのだ。
式典はすることが決まっているのだけど、その前に海送りがある。守り神でもある神を祝う祭典は、国の一大行事。それは妨げられない。
あとそこで、大々的に発表したいらしくて。
そんな思惑があって、まだ知らない人の方がおおいのである。さすが女神様崇拝してる国よね……それくらいは、許してくれると思うよ?
「はぁ……。それやったら、お姉様の推しの風当たり強くなるんですけど?」
ふーっと前髪を吹かしながら、座席に倒れ込んでいく。好きな子のことは、気遣えるらしい。
「よかったわ。弟がポンコツじゃなく、ちゃんと考えてくれる頭のある子で」
「ポンコツは姉で足りてるからな」
「ねえ知ってる? お姉様にも堪忍袋の限界っていうのがあってね?」
ぐっと拳を見せてみるが、しらっとした目が一瞥しただけだった。こんにゃろう! 私が普通手を出さないと知っての所業め‼︎
「で。お姉様はなんでオレの部屋来たんですかね? 暇人?」
「……今猛烈に後悔してるわ」
じっと睨んでみるが、気にされる様子もない。はぁ、ひどい弟だこと。
そりゃなぜ来たって。
お姉ちゃんは、弟を心配して来たのに。
そして開封が怖いから来たんだけど。
こんな弟でも、いた方が手紙開ける時の気が紛れるというものよ。
そう、このーーアルとリリちゃんとヴィンスとレイくんから来た手紙をね!
ご丁寧に、家紋とか入ってるのよ?
うふふふふ、丁寧すぎるわぁ?
なんで? いつも手紙書かないでしょ?
アルは……まぁ予想ついたから、仕方ない。怖いけど。でもこんな、置いてったメンバーから丁寧な手紙届くことあります? ないよ!
……あわよくば、セツが何か聞いてないかなとも思ったけど。これは、聞いてなさそう。
ドアを開けた時点で、それより大変そうだったので……。まぁ、私のちっぽけな悩みは、割とどうでも良くなったよね!
しかし一丁前に手を組んで、目を閉じたセツは口を開いた。
「……まぁ、オレは大丈夫だよ。この後海送りと、式典あるんだから。忙しくて行く暇ないですし?」
「そ、その後どうすんのよ!」
「はぁ、そんな心配しなくてもくー姉は誘わねぇから。いやだよオレだって。姉同伴とか」
「べ、別について行くとは言ってないよ⁉︎」
覚悟は決めてたけど!
私たちは、仲は良けれど別にベタベタに仲良くはないのだ。多分アルとかヴィンスとかより全然、姉弟で行動したりはしない。
「式典明けたら『フィーちゃん』聖女じゃん。それなら文句も出ないだろ」
「……その前に、断られない前提なのがすごいけどね……?」
欠伸をしながら言う弟に、変に感心してしまう。まったく。その豪胆さはどこから来たんだろうか。確実に私には流れてないのだけど。
「それよりそれ、開けてみたら? 仕方ねーから、この部屋で開けることを許可する」
「……いやこれ、私宛の手紙なんですが?」
豪胆どころか暴君みたいなこと言い始めので、諦めて手紙を開けてみる。




