402話 気の置かない仲
「……おいクリス。弟連れて帰るんじゃなかったのか?」
「はっ! そうでした!」
リリちゃんをレイ君に盗られてから、ちょっと呆然としてたヴィンスが復活したらしい。後ろから声をかけられ、ビクッとした。
「まぁ私としては、急ぐ必要はないと思いますけど」
「あはは。アルは優しいなぁ。でも準備とかも早い方がいいし、もう大分お世話になってるしねぇ」
どこか残念そうに見える笑顔に、笑ってそう返す。シンビジウム邸は意外と距離があるしね。長居したら、家に着くのが遅くなるし。
その言葉を聞いて、アルは気を取り直したのか。穏やかに同意した。
「そうですよね」
「おいクリス。騙されるな。アルバのこれは優しさじゃなくて……」
「あぁヴィス、話があるんでした。リリーを探すついでに付き合ってください?」
「うわっちょ、引っ張んなよ!」
……なんかアル、ちょっと黒くなかった?
いや、気のせいかも?
にしてもヴィンス連れてかれちゃったけど。
……ヴィンスも帰るんだよね?
とは言え、レイ君も帰るはず。それも回収しなければならないので、探しに行く必要はあるんだけどね。全然帰ってこないし。
それに親友同士、話したいことがあるのかもしれないし。そのまま気にしない事にした。
「あ、そうだセツ! なんでリリちゃんのところにレイ君なんか送ったのよ!」
「え」
思い出したので、ズカズカ東屋の方へ歩きながら大声で問うと。一瞬怯んでから舌打ちでもしそうに眉を寄せて、そっぽを向く。
「……うわぁめんどくさ……。自分の姉ながらめんどくさすぎる……」
「は? なんか言った?」
「……そしてタイミングが読めない。なんで今聞いたよ?」
「いや、疑問に思った時に聞かないと忘れるから?」
ぶつくさ言い続ける弟にそう言って近づけば、「……それはその通りだからなんも言えねぇ」と言われた。
うん、だから聞いたんだけどね?
何が言いたいんだろうね?
さすがの姉でも首を傾げますが?
「えっと。リリチカ様、あの後大丈夫でしたか……?」
様子を伺うように尋ねてきたフィーちゃん。上目遣いは可愛いけど……やっぱリリちゃん、おかしかったよね?
「何かあったのね? リリちゃんはなんというか……誤魔化されちゃって聞けなかったんだけど」
「あ! いえ! あのー‼︎」
フィーちゃん……その反応は明らかに何かあった時のものだよ。
可愛く両手を振っているけれど、何かを隠そうとしている感満載すぎる。おまけに目も泳いでる。……そこが可愛いとこだけどっ!
「なんかどこにも行かせないとか、何かを好きになるように言われたんだけど……」
「……側から聞くとヤンデレみたいだな」
わかるけど。
いやめっちゃわかるけども!
しかしこの弟の発言に、頷いてはいけない気がする!
リリちゃんがヤンデレになったらあれでしょ! 氷漬けにされて「これからもずっといっしょですのよ……」とか言われるんでしょ‼︎
……ちょっと似合うな!
しかしそんな危なそうな事、現実にはさせられません。妄想は捗るけどね。リリちゃんが好きなの、ヴィンスだと思うし……。
まぁあの2人、先行き長そうだけど。
あの場合はツンデレだしなーと、絶賛追いかけっこ中のお姫様に想いを馳せた。うん……道のり長そうだな!
「クリスティ? 大丈夫?」
「はっ! ごめん、なんか考え込んじゃって!」
ははは〜と、誤魔化しながら。内心こんなの伝えたら確実に怒られるな……と、冷や汗をかいた。ブランそういう所、厳しいから……。
「まぁ、姫様の事はあんまり気にしなくていいと思うよ。今は話したくないって事なんでしょう?」
「そ、そうなのかな……?」
「そうそう。クリスティが一番懐かれてるんだから、そこは自信持たなきゃ」
好かれて……いやまぁ、好かれてはいるか。
さすがの私も、あれだけ他の人とあからさまに態度違えばわかる。毎回ロケットのように突っ込んでくるしね。
そういう意味で、今はいいかと思えた。
好かれてる自信って、偉大だなぁ。
すぐ安心できちゃうもん。
まぁほとんどのことは、そんなものありはしないから大変なのだけれど。
ただなんだか、気のせいか。
その、どこか目が合わない視線は。
自分に言い聞かせてそうな気もするけど。
「……。」
「ん? 何?」
ブランもよく世話焼いてくれるし。そういう意味で安心できるなーと、ちょっと見つめてみたら。首をを傾げられた。
「いや。私がブランに無茶言えるのも、好きだし好かれてる自信があるからだなーと思ってね」
「はは、大胆発言だね? でもありがと」
こうサラッと流せるあたり、大人だなと思う。私なら照れちゃうからね。
そしてここにも、流せない子供がいたらしい。
「……ブラン兄ちゃんは誰でも世話焼くだろ」
「そうかもだけどー!」
「まぁ迷惑かけてばっかりなのに、呆れられないって点では同意するけど」
「一言余計‼︎」
たくもー!
本当に斜に構えちゃって‼︎
可愛くない発言をする可愛くない弟を見て、ジロっと睨めど目を逸らされた。言い方もっとあるでしょ! 事実だけど‼︎
しかし何か面白かったのだろうか。
「ふふふっ」
「……フィーちゃん?」
なんでか笑われてます。何故ですかね?
「あ、ごめんなさい。でも、本当に仲良いんだなと思って。ちょっと不思議だったんですけど……」
「どういうこと?」
「いえ……本当に仲が良いと、ちょっと喧嘩しても大丈夫なんだなぁと思って」
喧嘩ねぇ。喧嘩ってほどでもないけどね?
でもまぁ、大人しくて心の見えるフィーちゃんだ。ゲームを通しても、今実際にいても。フィーちゃんがあまり強く言うことって、ない。
けど。
「……フィーちゃんだって、セツには強く言うでしょう?」
さっきの光景を思い出して、口に出した。
「え、えぇ⁉︎ そう見えました⁉︎」
「どうだ、羨ましいか」
「なんでセス君はそこで自慢げなんですか⁉︎」
……うーん。なんか順調そうだね君たち……。
姉として、そして元プレイヤーとしては複雑な気分ですけど……。どうなることやら。
次は6時くらいの予定です!




