40話 待たせてごめんね
「さて、それではそろそろ元のテントに戻りましょうか」
気を取り直したようにアルバート王子が言った。
あっそうだった!
セツとブランを置いてきてたんだ!
かんっっっぜんに忘れてたわ‼︎
飲み物どうしようって、うろうろしてたら可哀想だな……そうさせた犯人私なんですけど。いや、とにかく早く帰ろう。そして謝ろう!
とりあえずそう心の中で決意した。
なんかヴィンセントに見られてる気がしたけど、なんだろう?
「今回の事は他言無用ですよ。といっても話したところで、理解出来るか分からないですし、信じる者も少ないかもしれませんが」
そう言いながら、王子は入口の布に触れて「解除」と、呟くと普通の布に戻った。
はー、何度見ても魔法ってすごいね。そのまま王子が自分は通らず、布を捲って通れるように持っててくれる。
通っていいよってことかな?
迷ってると「ほら、後ろがつかえるだろ」と、ヴィンセントにも声をかけられた。さっきと順番が違うのが気になるんだけど……それよりなにより。
「あの、私道わかりませんよ?」
「ふふっ道というほどのものでもありませんが」
困り顔の私に、王子が笑った。
すみませんねー! 記憶力がなくて‼︎
「そちらは私が先導しますので大丈夫ですよ。先程は確認を含めて、念のため先に部屋に入りましたが、これはただのレディファーストですから」
吹き出し笑いを引っ込め、紳士的な……というか、女の子が何人も撃沈しそうな優しい笑顔で言った。
おお。なんだ、気を遣ってもらってたのか!
それなら、という訳でアルバート王子に「ありがとうございます」と声を掛けて、先に出た。その後に王子、ヴィンセントの順で出てくる。
そして王子が先導する中、外に出るべく進む。
何故か私を挟んでくれてるんだけど。
んー? これは仲良くなったってことなの?
なんかそわそわしちゃうんだけど。
ぎこちなく歩いていたら、背後から声をかけられる。
「なぁクリス」
「な、なんでしょうか?」
驚きつつもあわてて笑顔で対応する。
さっきはそれどころじゃないので流してたけど。
なんかやはりクリス呼び違和感あるなー。
さっきまで警戒剥き出しだったのにね。
それにクリスって、男の子みたいじゃない? いや、あだ名で呼んでくれるだけすごい進展なんだけどね。
そんな心を知ってか知らずか、彼はじっとこちらを見た後に口を開いた。
「ヴィンセントって長くて呼びにくければ、ヴィンスに略してもいいぞ」
「えっ」
「特別に許可しないこともない。あと、様もサービスでなくしていいぞ」
上から目線だし、態度も不遜ではありますけど。
ヴィンセントにしたら破格のサービスだね⁉︎
大安売り、大バーゲンセールだよ‼︎
『学プリ』やってたらわかるんだけど、ヴィンセントってチャラ男……いえ、女たらしなんだけど。とにかく、いつもどこか踏み込ませないキャラなのだ。
自分からあだ名で呼んでもいいって言うのは、主人公のフィーちゃんだけなんだよね。
あ、ちなみにフィーちゃんは、ヴィンセントルートでフィリーって呼ばれてる。というか、だいたいの攻略キャラはそうなんだけども。
『学プリ』豆知識として、彼ら2人のヴィスとアルバ呼びは、他には許可しない。男の取り決めらしいから、他の人は呼べないのですよ。
これは雑誌の特集欄に載ってた小ネタね!
仲良し感あって良いと思います!
まぁそんなわけで。
相手をあだ名呼びすら珍しいのだ。
それがまさかこちらからも呼ぶ許可が出るとは。
何故かわからないけど、お眼鏡に叶ったらしい。
内心びっくりしつつも、素直に嬉しいのでお礼を言う。
「えっと……ありがとうございます。それではヴィンス、ですね」
「はい、よくできました」
にっこりと微笑まれる……おぉ……って騙されるな私! その口調! からかってるでしょう!
いやゲームでは、この口調が通常なんだけどね!
むしろ乱暴な話し方の方が限られてた。アルバート王子の前で、すごく素になった時しか話さなかったからなぁ。
この後どこかで減ってくるんだろうね。
成長してあぁなるのかぁ……。
これがねぇ……。
そう思うと別に苛立たしくもないし、むしろ温かい目でみちゃうね。
『学プリ』ファン的には美味しいです。
そう、言うならばご褒美ですね!
にこにこしちゃうね!
「……。」
何故だろうか。アルバート王子が、人を殺せそうな目つきでこちらを凝視している。
どうしたの。あ、仲間外れが寂しかったのかな?
確かにそれは良くないなと、彼にもアピールをする。
「アルバート様! この調子で私は忠臣になるべく、周りの皆さんと仲良くしますので、ご安心ください!」
「……はぁ」
え、ちょっとなんでそこため息なんですか!
私何か間違えました⁉︎
「アルバ、この忠臣だの、出会い頭の王妃にならない宣言だのは……」
「ちょっと……今度話します」
怪訝な顔で聞いてくるヴィンスに、疲れたように王子は答える。
「私がお話ししましょうか?」
「いえ、私から話しますから大丈夫ですよ。ややこしくなってしまうので……」
「そうですか? わかりました」
私の申し出はやんわり却下されました。
ふむ。確かに、予知の話とか入ると難しいのかな?
どう考えても私より2人の方が頭良さそうだったから、その方がスムーズなのか……。
6歳に負けてるよ!
頑張れよ私‼︎
これじゃ見た目も、頭脳も子供だ!
そんなこと考えてたら外に出ました。
テントの中でも空は見えたけど、日差しが眩しいです。小腹が空きました……おやつの時間くらいかな?
長く続く道には、テントの奥に屋台が見える。
いいなぁーお祭りって感じで。
あとでちょっと見れたりしないかな……いや王子様連れて歩けないな。ちぇ。
「クリスティア嬢? 中に入りますよ?」
はっ! いかんいかん!
あわてて元のテントに入った。あ。なんか走ってくる人が見える、と思ったらあれは。
「クリスティアどこ行ってたの……?」
あ。弟が、よそ行きお怒りモードですわ。
これが誰も見てない家とかなら、「くー姉頭悪いの? 鶏なの? 三歩で自分の言ったこと忘れた?」ってオプション追加されますね。口が悪い。
しかし今回悪いのは私なので、素直には謝る。
「ごめんねセツ。えーとほら、ここの周りに何があるか案内してもらってたの。私は道に迷いやすいから、迷子になったら困るでしょう?」
「迷子センター行けばいいと思うよ?」
にっこり。あぁ……怒ってる怒ってる。
ごめんて。待たせすぎたって自覚はある。
「あとで屋台で何か奢るから許してって! あと迷子センターはここにはないからね?」
「……そうだった」
気まずいのか、視線を逸らしてそう言う。
可哀想だけど、あんまりこっちにない単語は出すべきじゃないからね。指摘は姉心です。
「ははは、セス君いい子で待ってたんだよ? ちょっと心配になっちゃったんだよね?」
そう笑って声をかけてきたのはお兄ちゃんである。あぁありがとうブラン。でも、セツに子供扱いは逆効果だよ……。




