39話 駄犬ですが、捨てないで下さい
「じゃあその余分な魔力は、予知に使った可能性が高いってことか……」
「おそらくは……」
「で、でも……」
どんよりするお2人に、反論の声を上げます。
何とか否定して、安心したい!
「まだあんのかよ……」
ゲンナリしないでよヴィンセント!
こっちは必死なんですよ⁉︎ わかる⁉︎
自分からバッドエンドに歩むこの気持ちが‼︎
「いつもは映像みたいに見えるのが、あの時は見えなかったです!」
そうだよ! 映像が見えないって事は、予知できてないってことでしょ!
そうだと言って下さい! という必死の気持ちを、冷淡な声が遮る。
「……クリスティア嬢。その百合の効果は?」
「う、運命の反転?」
急な振りに、たじろぎながら答える。何で急に?
「正確にいうなら、術者の意に沿った時のみの反転です……これは特定の、指定された未来だけの変化を起こすものではないです」
「う、うーん?」
話が難しいです。はてな大収穫祭です。
私の方がお姉さんなんだけど、賢さは完全に敗北しております。
これが異世界産の脳の作りとの、違いだというの……⁉︎ 転生特典はどこに消えてしまったの⁉︎
「たとえば今あなたが海に落ちたとしましょう」
さらっと言う例えが怖いよ!
リアルタイムかな⁉︎
私にはエブリタイム禁句なんだけどな⁉︎
まぁ、知らないだろうけどさ!
「もし、死ぬ運命だとしても……その時その百合が作用するでしょう。このようなことが起きても、私の味方でいる限りは、一度ではない加護があると思います」
「おぉ……すごいですね!」
「なーんで他人事になってんだ!」
感心する私だったが、ベシッと頭を叩かれた! ……あんまり痛くないな? 手加減してくれたのかな?
「いた……くないけど女の子叩くのは、どうかと思いますヴィンセント様!」
そうですよ! 私一応女の子なんですから、優しくしてよね! ということで注意しておきます。
「話聞いてたか⁉︎ 理解してたら叩かない」
「聞いてましたよ! 百合がすごいってことが分かりました!」
「よし、そこを動くな!」
「なんで叩くモーション⁉︎」
その構えに、ビビる私。反射行動だ。
私とて、痛くなくても叩かれたくはないです!
ちゃんと理解して、分かりやすい要約をしたのにー!
完璧にパーフェクトでしょう⁉︎
あれ? 言葉被ってる?
「ヴィス。私の婚約者を叩かないで下さい。というか女性に手をあげること自体ダメです」
「だってこいつ自分の命かかってんのに、こんなノーテンキなんだぞ⁉︎」
睨みながら窘める王子に、怒るヴィンセント……。
なんか……いや、この殺伐とした空気の中で、場違いなのはさすがに分かるんだけど。
「えへへ……」
思わず嬉しくなって、笑ってしまった。
優しくされると、嬉しくなっちゃうのだ。
「なんで笑ってんだ⁉︎ 気でも狂ったか⁉︎」
「いえ……なんだかお2人とも、私を心配してくれてるのかと思ったら、嬉しくて」
「「……。」」
にこにこーと2人に向かって笑うと、無表情で固まられた。
「そう思ったら笑っちゃいました。すみません。でも、ありがとうございます!」
「「……はぁ……」」
「えっ! なんでそこため息なんですか!」
思いっきり脱力されたので、抗議の声を上げましたよ!
ダメですか?
ちゃんと空気壊したこと謝ったのになぁ?
お礼も言いたかったから言ったけど、変だったのかな? 理解してないって思われた?
「なんか毒気抜かれた……あーもう、さっきの話の続きしてやれよアルバ」
「ええと……そう、だからですね、百合と同じように行動制限のような。そんな魔法のかかり方をしてるのではないかと」
「背いたら殺すとか、軍隊かよっていうかかり方だな」
苦笑いするアルバート王子に、半眼で口がへの字になってるヴィンセント。
そして考える私……よし! 方針は決まったな!
「まぁ大丈夫です! なんとかなりますって!」
グッと握り拳で勢いよくそう言ったが、不安そうな顔をされた。
「お前、わかってんのか……?」
「裏切らなきゃいいんです! 何かあったら……アルバート王子が助けてくれますよね……?」
そうだよ! だってそれだけ私が強力だというのなら、ある意味有用性が高いということだよ!
なら何があっても国的に失えないはず!
アルバート王子がなんとかして!
国家の秘密部隊とか使って助けてくれるでしょ!
そんなのがあるかは知りませんが!
そうしてもらえるように一層忠誠心を鍛える!
そして、すんごく仲良くなる!
助けたいと思える存在になる‼︎
そう、それで解決だよ! 難しいこと考えすぎたんだようんうん! そういうことだよ!
そう信じて! 信じたいので! そろりと、アルバート王子の方を、頼みの綱としてキラキラ期待を込めて見つめた。気分は崇拝者です。
「……そうですね。まずは、王子呼びを直してくれたら考えましょうか?」
一瞬虚をつかれた顔をしてから、にっこりと……それはいい笑顔で、そうおっしゃった。
ああああ!
さっきの話‼︎
すぐ忘れる駄犬ですみませんんんん‼︎
忠犬になれる日はいつだろうか思いながら、とにかくまずは王子呼びをなくす事に、慣れることを決心した。
いやでも急に呼び方変えるの、難しいんだよ許して!




