38話 転生チートが使用者殺しでした
「そ、そもそもなにがマズいんですか……?」
状況の重大さがイマイチ掴めない私は、そんな気の抜けた質問をする。
「クリス、お前自分が巻き込まれたときのこと考えてないだろ」
「巻き込まれ?」
呆れたようなその態度を取られても、私にはまだ分からない。
「クリスティア嬢の意思に反して、私に裏切ったと思われるような行動を取ったときが、どうなるかわからないのです……」
なんですかそれは!
苦いものを噛み潰したようなーーアルバート王子のそんな様子から、その恐ろしさを垣間見た。あわてて否定する。
「私裏切りませんよ⁉︎」
「クリスティア嬢に裏切るつもりがなくても、誰かに操られるだとか……」
「はたまた脅されたりだとかな。人質とかいればあり得なくはないだろ?」
2人は交互に目配せしたあと、こちらを見てそう告げる。
えっ! そんな度胸ないけど……。
でもそれは私が安全なところにいるからか?
確かにセツに何かあったら考えちゃうかな……。
「はっ! ま、待ってください! 私! 水晶ないと予知できないんです‼︎」
私は気付いた!
よかった! そうじゃん!
大丈夫大丈夫!
あの時水晶使ってないもん!
「闇魔法って水晶ないとできないのか?」
「そんなことはないんです……あれはあくまで補助の魔道具なので。たとえば闇の魔力を持つ人間は、夢を見ただけでそれを予知夢にしてしまいます……」
しかし流れるように話を振ったヴィンセントに、アルバート王子が言いにくそうに答えた。
なにそれ⁉︎ 迷惑極まりない‼︎
「で、でも私は予知夢見たことないですし……」
「……あの時、クリスティア嬢は気絶するほど力を使いましたよね? でも、翌日には起きていらっしゃいました」
「どういうことですか? それって普通ですよね……?」
言いよどみながら言葉を紡ぐ様子に。
言い知れぬ不安を覚える。
思わず、恐々と聞いてしまう。
「クリスティア嬢はよく分かっていらっしゃらないかと思いますが、この歳でここまで予言ができるのは普通ではないです」
そ、そうなんだ?
しかし疑問はまだ消えないし、王子もまた話し続ける。
「あなたの予言は私の未来に関するものでしたけれど、それって数秒で終わるものではないですよね?」
「え、そうですね……あの時だと5分くらいまでしか見られなくて」
困ったようなその顔に、ちょっと考えてから答える。
そうなんだよ。
大して見られないんだよねぇ……。
やはり私が下手なのかもなぁとか思うけど。
「5分⁉︎」
「えっ」
私の発言に驚いた王子に逆に驚いた。
な、なにが問題なの……?
「5分……同じ場面を見たのですか?」
「いえ、いくつか切り替えてというか何て言えばいいのですかね……」
「複数見たということですか……」
う、うん。まぁ実際には見たのって学園のことじゃないんだけどね。
王子と歩いてるところと。
東屋で話してるところと。
そのあとどこかで話してるとこなんだけど。
学園のことはゲームで知ってるから見てない。
にしても、なんでそんな含みを持たせるのよ?
「そんな高度なことは大人でもできません」
「えっ?」
「あなたのお父上はこの国にいる者の中でも、最も予知に長けている人物でしたが、そんなことはできませんでした」
真っ直ぐ私の目を見て、そう語る。真剣な瞳に、思わずたじろぐ。
い、いやそんなまさかー……あはは?
まさかじゃないの?
まぁ私の方が的中率もいいけど……って、あ!
「的中率! 的中率があるじゃないですか! 全部その通りになるわけじゃないですよね!」
そうだよ!
そうじゃん⁉︎
まだ覆す余地あるじゃん⁉︎
私は必死になって切り札のように、饒舌にそれを話す。しかし、王子の反応は鈍い。
「その的中率は、断片的にしか見えないものを、憶測で語るために精度が落ちるものです」
「精度が?」
「はい。そのくらいしか見ることができないのは、もちろん魔力量が少ないからなわけで」
そこで一息ついて、言った。
「ヴィスの言い方を借りるのであれば、言葉にするときには魔力が切れているんです……複数見ることができるあなたに、適用されるとは考えにくいでしょう?」
んんん墓穴⁉︎ 知ってたよ!
だって私もクリスティアの未来予知精度高いなって、前に思った記憶あるもん‼︎
でも諦められないので、食い下がる!
「で、でも! 私まだ子供ですし! 水晶ないとそこまでできないですし!」
「それもなんですが……あなたの魔力量を考えるに、たった一輪だけの百合に魔力をこめたくらいで気絶なんてするとは思えないんです」
「えっ」
また固まるが。
「いや、でも枯れない百合って十分すごいと思うぞ?世界の理に反してるわけだし……」
拍車を掛けて畳み込んでくるアルバート王子に、ヴィンセントが一石を投じる。
そ、そうだそうだー!
いいぞー! ヴィンセント!
もっとやれー‼︎
そう思ったのに、王子の方が止まらない。
「いえ、たしかにすごいんです。ただ、複数の予知を同時にすることが出来た者は、王家の文献にもないんですよ」
と、いいますと……?
「城には歴史的遺物として彼らが残した、今回の百合のようなものがありますけど……作る過程でたおれた記述は、完成度の高いものほどみなくなります」
ほわ? と思って思考停止した私の代わりに、ヴィンセントが躊躇いがちに尋ねる。
「……ちなみに、あの百合の完成度は?」
「並より少し上、くらいなんです。いえ、十分すごいのですが、とてもあれだけで気絶するほど魔力を使うとは思えなくて」
眉を寄せて言われ戸惑う。
そんなの別に意識してなかったんだけど……?
焦る私を置いて、話は進む。
「は〜そりゃすごいな……あれで。それは闇が恐れられるわけだよな……でも水晶がないとって言ってんのは?」
「……あの時水晶、ありましたよね?」
「はっ……⁉︎」
そういえば王子に見せるために、確かに水晶持ってってた……いや持ってってたけど!
「まままま待ってください! だって私使ってないです!」
「あの水晶は魔道具なんですよ……水晶がどういった魔道具か、その様子ではご存知ないですね?」
王手をかける騎士の如く、その言葉という剣の切っ先はこちらに向けられた。
知らない前提よくない!
……けど知らないよチクショー!
心で地団駄を踏む私に向かって、粛々と語ってくれる。
「……あれは消費する魔力量が上がってしまう代わり、体内を巡る魔力が暴発しないよう、魔力の流れを補助するものなのです。もちろん、触れなくても発動します」
幼子でもわかりやすい解説!
ありがとうございます‼︎
それが本当だと思いたくないけど!
あーでも占う時ってたしかに触らないもんね……それより。
「暴発、ですか……?」
「うまく魔力を巡らせることができないと、ずっと目覚めないまま夢を見続けることに……」
「えええええええ⁉︎」
衝撃の事実に、思わず叫びを上げる!
「いえ、本来はそんなことになるほど、魔力量がない者が多いのですが、クリスティア嬢の場合は……」
言い淀みによる配慮よ!
あり得たってことですよね!
あ、だから翌日に来てくれたんですね王子直々に‼︎
そりゃ心配するわ‼︎ よく生きてた私‼︎ ……ってその流れだと
「もしかして水晶ないと私、死んでました……?」
「……眠りから覚めないという意味では」
あいまいな笑顔の後にそう告げられる。
ごめん水晶ありがとう!
水晶あってよかった水晶!
持つべきものは水晶でした‼︎ 水晶マイフレンド‼︎
ていうかチートどころか、自殺魔力ですよねこの闇魔力‼︎ クリスティア自体はそこまでではなかったの⁉︎
え、私が転生者だからなの⁉︎
転生チートが使用者に優しくないんですけど!