2話 目覚めと再会 (挿絵)
えぇ……誰か嘘だと言ってください。
気のせいだと言ってください……。
それがはじめ感想である。ゲームの、夢を見た。私のやってたやつだった。
でもなんか、夢じゃない気がするなぁ????
私、今それにすっごく覚えがあるなぁ?
おっかしいなぁ?
そう思いながら手のひらを見る。うん、ちっさいや!
記憶の中の私は高校生なのに……でも今までのことも覚えてて。うわぁほんとに? やっぱ嘘だったりとか……と、現実逃避をしながら。寝ぼけ頭がはっきりするまで、しばらくぼーっとしていた。でもいつまでもそうはいかない。現実を受けとめなくては……つらいよー!
ふかふか布団でもう一度、夢へ――とは、理性が全力で止めてくるのでいけなかった。なのにこの世界が夢だと思いこませてくれそうな、やたら豪華なベッドときたらない。そのふかふかの魔力から解放されるべくのそのそと上半身を起き上がらせる。左の窓からは光が差し込み高く昇った太陽は、今が昼間であることを教えてくれた。気を失う時も、昼だったはずですよね……。
つまり、1日くらい寝てたかもしれない。
正確には意識を失ってたと言えるけど。
いや、むしろ1日で済んでよかった……かな?
死んでたかもしれないしなぁ、とか、助かったからこそのんきに考えながらふと右側に目を向けると。穏やかに寝息を立てて、ベッドにもたれている人物に気が付いた。
「……。」
右手を伸ばして、そのまま彼のプラチナブロンドの髪を耳にかける。
サラサラだ。癖っ毛だったくせに。
跡形もないもんだなぁ……。
見た目は、本当にゲームキャラだね。
彼はセス・シンビジウム。
私と同じ歳だけど、この前弟になったばかりの人物。
血筋的には私の従兄弟だ。領地の関係上、あまり会う機会は今までなかった。1、2回顔を見たことあるかどうか。
整った可愛い顔だこと。
だけど、このこめかみの辺りにある黒子。
こんな描写はなかったはずだ。あーあ。
「やっぱり……」
この黒子の位置は、顔立ちが変わっても変わらないのか。
ここにいてくれる嬉しさと、絶望感がないまぜになる。
池ではそこまで余裕なかったけど、今ならその事実が分かる。
だって、ここにいるってことは。
「せつ、起きて」
そういって肩を揺する。起きない。
一回寝るといつもそう。
だからいつも朝遅れそうになるんだ。
「せっちゃん」
ゆさゆさゆさ。
起きない。揺らしてもいつも起きない。
だからいつもいつも布団をひっぺがえして、私は言うのだ。
「雪貴‼︎ いい加減起きないと怒るよ!」
その声に体をビクッとさせ、眠そうに目をこすりながら起きる。山吹色のような濃い黄色い瞳が、ゆっくりと開けられる。その瞳孔の鮮やかさに目がいく。
「くー姉いっつも声でかいよ……。もう怒ってるし」
そう、いつも。
それはいつもを知らないはずの彼が使ういつも。
いつもの台詞。
いつもの憎まれ口。
いつもの呼び名。
意識がはっきりした今、その事実が私を飲み込んだ。
「……っごめん……っ! ごめんね……‼︎」
死んじゃったんだ、あの日、あの時に。
気持ちが堰きとめられなくて、起き抜けの彼にガバッと抱きついてひたすら泣いた――この見た目、セスはゲーム内で悪役令嬢クリスティアの僕のように扱われるキャラクター。
今その中身はーー私が前世で死の直前に助けられなかった弟、白澤 雪貴だった。