384話 思ったよりも
遅刻しましたけど950ブクマ記念感謝祭刊行しますよ!!!!
あと2回更新するまでは寝れない!!!!
「それにしてもアルは、私のこと信じすぎだと思うけどね……。後で裏切られても知らないんだから」
つーんとした顔を作りくるっと方向転換し、奥に進んで行く。
割と本気で言ったのに、クスッと笑った声が聞こえた。そして、足音も後ろからついてくる。
「そんな事するつもりなんですか?」
「わからないでしょう、未来のことなんて」
「でもしないでしょう?」
その答えは、すぐに口からは出てこなかった。
実際、どうなんだろうか。
今までのあれやこれだって。
見方によっては、裏切り行為なのだから。
私は結構、自分で自覚があるくらいには嘘つきだ。そうやって今までも、アルからしたら振り回されてきたことだろう。
そういう意味では、これからもきっと……。
そのまま答えることなく、視線を彷徨わせる。いい答えは見つかるはずもない。
別に、嘘つきたいわけじゃないのよ。
つかなくていいなら、つきたくない。
でもきっとこの先も。
私は嘘をつくだろう。
確信にも似た想いは、口から出るどころか口に戸を立てるだけだった。
そのままぼんやり店内を見ていれば、子供連れや女性のお客さんが目についた。しかし人形を売ってる割に身なりはバラバラだ。
一般的にテディベアって高いのよねぇ。
考えることなんて、なんでも良かった。
答えを先延ばしにできるなら。
だからそのまま、思考と歩を進める。
機械なんてほぼない世界なので、人形の大半は手縫いなのだ。そして子供のおもちゃとは、なくてもなんとかなるものである。
つまり裕福な層が買う事が多いんだけど……ここは、そうでもない?
その疑問は、奥に進んだことで解かれた。
「これは……パッチワークね」
外からは見えないところに並ぶのは、パッチワーク……つぎはぎでできたテディベアたちだ。こうなれば、材料費は削減できそう。
しかし驚いたのはそれだけではなく……。
「洋服や小物まである! あとミニサイズもあるし……なるほど。小さければコストは削減されるから、値段も安くなるのね」
それは子供が持つにしても、小さいテディベアの数々。手のひらにも乗りそうなサイズだ。
通常バージョンとつぎはぎバージョンと。
そしてそれぞれに、小さなマントも別売り。
まるでお洋服屋さんみたいだ。
それはまるで、テーマパークのお土産売り場のような光景だった。
「いい考えですね。作りは変わらないですし。このサイズ感なら、値段もそこまでではありませんから庶民も手が出しやすい」
アルも後ろから覗いて、感心している。
貴族というのは大きいのをよしとするところがあるので、こういう小さいのは好まれない。大きいほうが手間がかかって高いから。
だけどこのサイズ感は。
リーズナブルかつ可愛い。
絶対そう思う。
そう、子供じゃなくても欲しくなるほどに。
「その上この小物の数々……ここでしか見たことがないから、貴族も来るかもしれないよね。私初めて知ったけど」
「まぁ、お茶会に出てませんしね。それに貴族も大っぴらに来られはしないでしょうから、表立って話には出ないのでは?」
いい店に行くのがステイタス。
それはここの貴族だって一緒だ。
だからこういう、大衆向けっぽいところを憚る者が多い。平民も来られたら窮屈だしね。くるとしたら、私たちみたいじゃないと。
つまりお忍びになるので、そりゃあ相当仲良くないと話せないお店だ。
「でもすごいアイディアだよね……! このバリエーションは忍んででも来たくなるでしょ!」
すごく広いお店ではないが。
サイズが小さければ別だ。
その分、品数だって増やせる。
おまけに着せ替えも楽しめると来たらそりゃあ……リピーターもいるでしょ多分!
思わずテンションが上がってしまう程!
私の乙女心も疼く!
そう、可愛いは正義なのよ〜‼︎
「はっ! このサイズ感ならクロにも着せられるのでは……⁉︎」
「……あれは人形じゃないでしょう」
「いいでしょ! マントなら巻けるもん!」
いいこと思いついたのに、アルは渋い顔だ。
もしかして、まだ魔獣だってこと気にしてるんだろうか? 今更だよねぇそんなの。
「いいでしょー⁉︎ ほらこれとか! 可愛い‼︎」
手に取ったのは、セーラー風マントだ。
もともと水平さんの格好なんだよ!
クロの性別わかんないけどいけるでしょ!
それをアルに主張するように突き出せば、何故か苦笑される。
「今日は私といるのだから、クロのことを考えなくてもいいと思うんですけど」
「え、いつもアルと一緒にいるじゃないの」
「クロもいますけどね」
え、クロは……いやまぁ、確かにブレスレットだけど。近くにいる、扱いなのかな……?
そうちょっと切なそうにされると、困るんだけど。
まるでヤキモチみたいなその反応は、ちょっと考えてしまうけど。でも、アルがクロのこと魔獣扱いしてないことはわかった。
「でもさぁ、近くにいないとその人の事考えちゃったりするでしょ?」
「……私も遠くにいれば意識してもらえるんですかね……。いや、私が堪えられないですし、してもらえない気がしますが」
「いやぁアルは……」
どこか遠い目をする彼に、言いかけて。
口をつぐむ。
今、私はなんて言おうとした?
近くでも考えてるよと。
むしろ、いつでも考えてるよと。
……そんな言葉が、溢れそうになったけど。
いやそれはまずいでしょ。
念のために、口を手で押さえつつ考える。いや、流石にその状態は普通じゃないよ。うん。私でもわかる程度には普通じゃないよね?
しかしそれをどう思ったのか、アルはため息をついた。
「もうちょっと、考えてくれてもいいと思いませんか?」
いや、もう十分すぎるくらいですけど?
しかしその言葉は、押さえた口からでは出しようがなかった。




