37話 バッドフラグを自分で立てました……
「危険視されてるなら、王族は別に闇の魔力使えなくなっても問題ないし。むしろ猜疑心持たれなくて良くなるからありか」
顎に手を当てて、考えながら語るヴィンセントだが。
「ただ……何かたりない気がするんだけど。アルバ、隠してるのはそれで全部か?」
それを確認するかのように、アルバート王子へ視線を滑らせた。視線の先の主人は、首を振る。
「私もすべてを理解しているわけではないですから……でも、今話したことに間違いはないですよ」
「ふーん……じゃあまとめると、闇の魔法でおこなう予知には、『運命の強制力』があるってことか」
「えっなんですかそれ!」
なんでもなさそうに述べられましたけど!
『運命の強制力』⁉︎
怖い単語が聞こえたぞ!
それに驚いて、素早く反応したよね!
今度はちゃんと聞いとかないとマズそうだと、そう思って聞いたのに睨まれた。
「なんで闇属性持ちが分かってないんだよ!」
「逆になんでこの話だけで理解できたんですか⁉︎ すごいですね! ヴィンセント様天才なのでは⁉︎ すごい! 天才‼︎」
怒られたが、単純に感動したので褒めそやす。
その頭、私にも分けて欲しい!
絶対6歳じゃないでしょう!
私より断然賢いんだよなぁ!
こちとら歳だけは上のはずなのに、全然話についていけないんですよ!
という想いを込めて言葉にしただけなんだけど、「こいつ……」と言ったきり。
……ん? あれ?
おやおやおやぁ?
怒りながら照れてます?
顔を覗くと、そっぽを向かれる。
あ、よかった6歳児だった……かわいいね。和んだ。ほわほわ。
「ってにやけてんじゃねぇ!」
「ええー! ご、ごめんなさい! 可愛いとか思ってごめんなさい‼︎」
顔を赤くして怒ったヴィンセントに、大声で怒られた。驚いてとりあえず謝る。
で、でも! 今のは仕方ないと思うの‼︎
「……クリスティア嬢? 後で少し私と話をしましょうか?」
そういう彼は、笑ってるのに怖かった。
アルバート王子も何故か怒ってらっしゃる⁉︎
ナンデ⁉︎ 王子様ナンデ⁉︎
親友⁉︎ 親友だからなの⁉︎
「……予知が運命を垣間みるって事で、すべて話がつくんだ。予言のときに『運命の強制力』を使って……って違和感はこれか!」
私が震えているのを気にもとめず、考えながら話していたのに。テーブルでも叩きそうな勢いで、バッと身を起こした。
え、何? なんの話?
しかしぽかんとする私とは違い、アルバート王子は頷いた。
「気付きましたか……」
「これ……大事じゃないか! 予言自体に運命の強制力が働くのか!」
何か重大な事実に気付いたように、そう言う。
自己完結しないでくれ〜!
私は分からないぞ!
ん? 2人だから自己完結ではないのか?
「だから! つまり予言には、運命を書き換える力があるんだよ! 闇の魔力持ちが言葉で伝えることが、本当になるんだ!」
「それは予言だし当たり前では……」
焦りぎみに怒鳴るヴィンセントに、呆然としながら返事を返す。何を言ってるんだ?
「あぁもう! なんで分かんないんだ! 例えばだぞ⁉︎」
キレながらも、解説してくれるらしい。
大人しく、耳を傾ける。
「闇の魔法で未来をみたとするだろ!」
「うん」
大きく頷いて、相槌を打つ。
「それは、起きる予定の運命なんだ! だけど闇の魔力持ちが、アドバイスという形で予言すれば……未来が変わるんだよ! 運命が書き換えられるんだ!」
勢いのままに語ってくれた。
おお。
それは前にアルバート王子が言ってたやつかな?
物語の改編者って話と同じだね。
納得いったので、笑顔で答える。
「あぁー! それかぁ!」
「それかじゃねーよ! なんでそんな落ち着いてんだよ!」
反応を間違えたらしい。
また怒られた。
「ごめんなさい……。それはアルバート王子に聞いていたので……」
気分は耳と尻尾を下げて、反省するワンちゃんだ。
しかし耳も尻尾もないので、声のトーンと視線を下げる。
まぁ実際には幻惑の方も、もっとすごいらしいんだけどね。私はまだ使ったことないけど。ヴィンセントは、それ知ったら倒れちゃうかもなぁ。
しかし改編者の結論に、自分だけで辿り着けるのはさすがヴィンセントだ。
というか賢すぎない?
これ、大人でも難しい話してない?
私自力でなんて、絶対無理よ?
「のんきなやつ! ……ってことはブレスレットで作った魔道具は、運命の強制力を反転させる魔道具ってとこか!」
話しながらも、納得してるし。
わたしゃ置いてけぼりだよ。
しかし子供に似合わぬシワを、眉間に寄せている。
「それは……いやでも黒髪の運命はなにもしなきゃ、普通は死亡一直線なのか……」
「え! 私死亡するんですか⁉︎」
険しい顔で思案する横から、思わず目を見開いて口を挟む。
それは困るんですけど!
「さっきの話聞いてたろ! 悲劇的な死を迎えるってやつ! 狙われやすいから死にやすいってことだろ」
わぁ⁉︎ 本当だ⁉︎
え、どうにかならないの⁉︎
私もう詰んだ出れない状態なの⁉︎
「アルバート様ぁ……」
私死ぬんですか? という、悲しみの想いを込めて見つめると。
アルバート王子がこう、お口がきゅってなった。
もきゅもきゅしている。
「アルバート様、ですか……」
言葉を噛みしめるように、王子はそう呟いた。
は! 言い方がマズかったか⁉︎
「あ、すみません! 王子私……」
「今の感じが可愛かったので、今度からそれでいきましょう」
「へ?」
虚をつかれた私は、間抜けな声を出した。
なんか真剣な顔して、変なこと言ってません?
「いえ……前から、王子と付けられるのが気になっていたんです。距離があるみたいで……」
そう、目を逸らしながら言われる。
あ、なんだそういうことか。
たしかに。よそよそしさはあるかな?
そんな気にしてたとは……申し訳なかったかなぁ?
ところでヴィンセントよ。
さっきからアルバート王子を、驚愕の目で見てるのはなんでなんだい?
「……こほん。ですのでヴィスの話通り、それは運命の反転の効果があります。身につけておいてくださいね」
その視線に気づいたらしく、わざとらしい咳払いで王子は話をすり替えた。
「はい! 分かりました!」
ぶっちゃけよくわからないけど!
良い忠臣になるべく、上司の言うことは聞きます!
という事で、いいお返事とビシッと敬礼をします!
「……ていうか思ってたんだけど、その花本物だろ? 枯れるんじゃ……」
普通ならばもっともな意見を、ヴィンセントは口にする。
「ヴィス、枯れる運命の反転は?」
「え……まさか!」
「さすがに私ではそこまでできませんので、クリスティア嬢にかけてもらってます」
おー上手いこと言ったなぁ。
運命の反転。便利ね!
いい言い訳だ!
思わず感心する。まぁ実際は枯れないどころか、物質すら全く未知のものに作り替えられてるんだけどね。それは内緒なので。
「……ってそれ、さっきクリス不吉なこと言ってなかったか?」
「そ、そのクリスと言うのは、私のことでしょうか?」
なんかいきなり呼ばれたよ?
びっくりして聞いちゃったよ。
「それ以外誰が?」
ジロリと睨まれた!
ひぇ! なんか間違ったか⁉︎
こんな所でおじゃんにしたくないので、慌てて誤魔化す。
「いえ! なんでも! ……ありがとう、ございます?」
「それなんの礼だよ……変なヤツ」
ぷっと笑われたけど、今までみたいな嫌味らしい感じではない。
……いや嫌味っぽいけど、仲良くなれたんだなーって感じの笑い。なので許そう!
「……それで? 不吉な事の話ですよね?」
あれ、こちらはご機嫌ナナメ?
妙に苛立ってるね?
しかしヴィンセントは気づいてないらしく、そのまま流して話す。
「あぁ、そう。死にますって言ってたけど。この様子だと、運命の話はしらなかったんだろ? じゃあなんでそんなこと言ったのかと思って」
不思議そうだが、そんなことかと思って告げる。
「あぁ。それは裏切ったら死ぬつもりぐらいの勢いで、術をかけましたので……」
もう全力で頑張りましたので。
そこでふむ、と彼は考える。
「それって……本当にそういう予言になってるんじゃ?」
「闇の魔法の特性を考えると……その可能性は否定できないですが……」
「え? なんか問題ありますか?」
深刻そうな2人に、きょとんとして聞き返す。
私的には裏切らないし問題ないのだけれど……。
そう思ったのに。
「「……。」」
この2人のなんとも言えない沈黙。
ねぇ、違ったら言って欲しいんだけど……。
もしかして、私、自分で死亡フラグ立てました……?
バッドエンド自分で進んでますか⁉︎