表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フラグ回収から始まる悪役令嬢はハッピーエンドが見えない〜弟まで巻きこまないでください〜  作者: 空野 奏多
悪役令嬢、物語に挑む〜ゲームの舞台もフラグだらけです〜
385/565

372話 勘も良ければ実力行使も早い

「この辺りで止めましょうか」


 体は伝わる振動が止まりその声がする頃には、もう私はクタクタだった。通り過ぎる栄えた街並みも、楽しむ余裕がなかったほどに。


 体力だろうかって?

 いや違いますね。

 もうね、精神的によ精神的に‼︎


「お、終わった……! 馬上生活が終わった……‼︎」

「そんな何ヶ月も暮らした、みたいな言い方はおかしいと思いますが」

「精神的には体感そのくらいだったよ‼︎」


 白馬が止まったのは、競技場の入り口前。普通はここまでは入れないけど、ここは誰もいないから。


 先に降りたアルの手を借りながら、ゆっくり降りつつ口だけは元気に文句を言う。足が地面につく感覚が、こんなに素晴らしいとは。


 だって馬は高いし!

 練習と違って誰かさんは飛ばすし‼︎

 そしてからかってきた余韻があるし⁉︎


 自分の意思で動かせないのも、怖さとドキドキが加速するのだ。人任せは怖い。しかも怖いだけじゃないドキドキも、まぁあるし……。


 そんな事を考えてたら、降りるのに失敗し足首をグキッとやった。


「あいたっ⁉︎」

「あぁもう何をしてるんですか。大丈夫ですか?」

「うわうわ大丈夫! 大丈夫だから‼︎」


 反射的に声を上げた私の足元へ、心配そうに屈もうとする彼を手で制して止める。さすがに跪かせる訳にはいかない!


「痛むなら、私が運びますよ?」

「⁉︎ いいです‼︎」


 予想外すぎる発言に、これでもかと首を横に振る。何言ってんの⁉︎


「ですが腫れるかもしれませんし……」

「あー! もう超元気だなー⁉︎ 全然痛くないなぁー‼︎ 走れちゃうなぁー⁉︎」

「あぁもう分かりました。運びませんから、ひとまず走ろうとしないで下さい。悪化しても知りませんよ?」


 元気なところを見せようと、走ろうとしたら手首を掴まれて捕まった。走れって言われたら痛かろうが走るけどね‼︎ 今はまだ走れるし‼︎


「折れてはいないと思いますが……」

「さすがにそれはないよ! 心配しすぎ‼︎ さ、もう行こっ‼︎ ちゃちゃっと終わらせよ‼︎」


 顎に手を当てて悩む彼を言いくるめ、引っ張るように先導する。私の手首を掴んでいたアルは、渋々足を動かす。目線は下のまま。


 どれだけ気にしてるのか。……腫れたらどこかのタイミングで、見えないようにしておかないとかなぁ。


 じんわりと痛む足を気にしないように進んでいたら、後ろから少しため息が聞こえた。


「今ほどリリーから冷却の仕方を教われば良かったと、思ったことはありませんね」

「えっだから大袈裟だよ? それにちょっとはできるでしょ、アルも」


 普段やらないだけで。


 理論の理解と想像力があれば、火魔法は熱を奪うこともできる。怒ってる時寒くなるあれは、確かにアルの魔力の力なのだ。


 しかし少し振り返ってみたら、彼はしょげていた。


 あんまり普段見ない。

 多分見せないようにしてるし。

 その姿は、ちょっと可愛いけど……。



「私は加減ができないので、使うと凍らせてしまうかもしれませんね……」

「あ、絶対使わないでねお願いだから」



 私はまだ歩ける足が欲しいです……!


 足が凍る想像をして、ピシャリと即答で跳ねてしまった。今凍らせられたら困るんだよ! 今じゃなくても困るけど‼︎


 怖くなったので、元気アピールのためにも速度を早めた。心配はありがたいけどね‼︎


「……んん。えっと、心配ありがとう。だけどなんで急にそこまで心配してくれるの?」


 ちょっと冷たすぎたかと、咳払いしてから話題転換を試みる。なるべく優しめな声で。


「だって本当は痛いんでしょう、足が。歩き方で分かりますよ」

「……なるほど」


 どうも幻覚かけるなら、最初からかけとくべきだったらしいね! もう遅いとな‼︎


 ご指摘賜り、苦い顔で頷くしかない。誤魔化すべく前へ向き直り、すたすたと歩く方に集中する。


 観察力カンストなの?

 できる王子様なの?

 まともな女の子ならコロッといくわね‼︎


 しかしまともじゃない自信がある私は、心配された嬉しさよりも。完全犯罪に失敗した、コソ泥みたいな気分になった。証拠隠滅ならず!


「腕だって、こんなに細いんですから……」

「うひっ⁉︎」


 掴んだまま手の人差し指だけで、するりと手首を撫でられ驚いてしまう。


「折れそうで心配もするでしょう?」

「それより急に撫でないでね⁉︎ びっくりするからね⁉ あとそこは手首だから誰でも細いよ‼︎」

「ちゃんと食べてるんでしょうか?」

「た、食べてる食べてるっ! だからこんなに元気なんでしょ‼︎」


 手を払いのけながら、怒るように答える。


 だってびっくりしたんだもん‼

 もー悪戯しすぎ‼︎

 私はおもちゃじゃないんですけど‼︎


 振り返って講義の意を込め睨みつけると、真剣な瞳と目が合い少したじろぐ。な、何その目は?


「本当に少し痩せたのでは?」

「……食べてるから大丈夫。みんなに聞いてもいいよ?」


 鋭い視線に少し目を逸らした後、すぐに戻して見つめて言った。まぁ、痩せたのは痩せたけど……。


 私は多分、元々の悪役令嬢(クリスティア)よりスレンダーになってる。ゲームの姿は、もっと色気漂う感じだったもんね。


 けど私は、ストレスがあると痩せるタイプだ。


 だから元々があぁいう体型になってないし、まぁ考える事が多くなると……若干痩せる。胃にくるタイプなのでね……。


 というか悪役令嬢(クリスティア)は私なんだけど、多分ストレス感覚が薄かったのだと思う。あと他で解消してたとか。


 でも別に倒れるほど痩せたわけでもないし。


 見てわかるほどでも、ないはずだった。

 それを見抜かれるとはね。


 前世から見ても、誰にも指摘されてないのに、初めて言われて多少動揺した。セツだって気付いた事はないし。


 具合が悪くなると、迷惑かけてしまうから。

 そこは気をつけてるんだけど。

 だから食べないなんて事は、しないけど。


 なんか怒られるのか、と。身構えて警戒していたけど。


「……わかりました。これが終わったら、後で寄り道しましょう」

「へ?」

「視察を兼ねて、城下を見てから帰りましょうか。もちろん、足が痛くなければですが」

「いやまぁ、それは今のところ大した事ないと思うけど……」

「では決まりですね。変装してきて良かったです」


 そういうつもりで、変装させたんじゃないけど……?


 思いもよらぬ言葉に、呆気に取られて上手い言葉が出てこない。そのまま固まっていると。


「では無理のない範囲で急ぎましょうか」

「⁉︎」

「こちらの方が早いですので」


 そのままにこやかな表情で近づいてきたアルが、私を持ち上げるのに時間はかからなかった。


 な、なんでこうなってるんだ⁉︎


 混乱は口から外には出ず、私の頭をぐるぐる巡って渦を巻き起こすだけだった。

次回日曜日は連続投稿しますー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ