371話 天使は魔王に進化した
「私なんでクロを預けて来ちゃったかな……」
目の前に毅然と立つ美しい白馬を、鬱々とした気分で見上げながら呟いた。
仕方がないので馬を出してみたはいいけど、やっぱり目の前にすると怖い。いや、私が呼び出したのに何言ってんだって話ですが。
「取られたって言ってませんでしたか?」
「いやまぁそうなんだけど……。基本的にクロは私の意思を優先するから。本気で嫌がったら離れないと思うんだよね、同調性があるから」
「なるほど。さすがそこは魔獣ですね……」
魔獣である事を思い出したのか、微妙な顔をして頷いている。多分私もおんなじような顔をしているけど。
クロの動力源、というか。
魔獣の動力源は魔力だからね。
そして魔力には感情が混じる。
感情は魂があるものにしかないけど。擬似魂があるらしいクロは、それを受け止める器がある……ってのが一応同調の理屈らしい。
でもそんなことできない人間からしたら。
理解ができない領域の話だけどね……。
それができたらどんなに楽なのか。
でも人間まで行っちゃうと、楽だけじゃないのは光持ちを見てるとわかるけどね……。人は欲張りなのよね、と欲張り代表は思います!
「……ところで、心の準備はできましたか?」
「ギクッ‼︎」
馬を見上げながら、他愛もない話をしていたと思ったら。突然こちらを向いたアルが、核心をついてきた。ば、バレていたか……!
「いやちがうんですよ! 出すまではノリノリでね? アルが白馬似合いそうだから白馬にしたし! ノリでいけるかなとか思ったけど‼︎」
「そうですかそうですか」
「って聞いてないっ⁉︎」
手を振りながら、必死に説明してみたけど!
穏やかな笑顔で頷かれてるだけなんだけど⁉︎
こちとら一応頑張ってるんですけど⁉︎
「もういくら待っても変わらなさそうなので」
「えっいやっあと5分……!」
「待ちません」
「えっえっいやぁぁあぁ⁉︎」
待ってと言ったのに、あろう事か軽く抱き上げられて。そのまま馬に片手をついたアルは、ふわっと馬上に着地。無理やり乗せられた。
い、一瞬の早技すぎるんですけど⁉︎
側から見たらカッコいいかもしれないけど!
私は心臓バクバクですがっ⁉︎
かちんこちんに固まっていたが、右側が温かくなる。そこで初めて、支えられていることに気付いた。でも怖い!
「グリフォンに乗っている時は大丈夫だったじゃないですか」
「あれはクロだから……! 勢いと気合いと安心感が違うし、中途半端なのが一番怖いんだよ……!」
絞り出した声は若干震える声で、自分でもこのくらいと思うけど恐怖は止まらない。クロは形態変化できるし絶対落とさないもん!
それにクロの時は前乗りだけど!
今は横乗りなのよ!
そんなの落ちそうで怖いでしょー⁉︎
しかし私がこんなに怖がってるというのに、クスッと笑い声が聞こえた。じろっと無礼者を見たら、いやに優しい顔をしていた。
……反応おかしいですけど?
「そんな事を思っていると、本当に落ちてしまいますよ?」
「‼︎」
「ふふっ冗談です。大丈夫ですよ、私を信じてくれるなら」
言われた言葉にビクッとしたら、そっと頭を抱き寄せられてーー耳元でそう言われた。
落馬の前に殺されそうなんですけど⁉︎
あのね⁉︎ 自分の破壊力自覚してっ⁉︎
例え変装しててもイケメンなのよ⁉︎
むしろ色気はマシマシなのよ⁉︎
不覚にもときめいちゃうじゃないの……!
いやばかときめくな自分!
私は家臣! 私は友達‼︎
立場ー! 立場を弁えろー‼︎
理性を総動員して意識を保ったけど、顔はこれでもかと熱い。眉を寄せながら、隠せないかと苦し紛れに言い訳をする。
「……知らない人みたいで落ち着かない」
「おや。大絶賛だったので、こちらの方が好みなのかと思いましたけど」
「そんなわけないでしょ。いやアルはアルだから、別に見た目はなんでもいいんだけど……」
「……君は相変わらずですね」
戯けたと思ったら、そんな言葉を返す。
なんですか相変わらずって。
相変わらず成長しないって事ですか?
そりゃ成長してないですけど……。でも悔しいので、頭をコツンとぶつけつつ尖り続ける唇で告げる。
「アルは変わったけどね。こんなに大きくなっちゃって。可愛くない」
「でも好きでいてくれるんでしょう? 言いましたもんね、どんな私でも私だからいいと」
その聞き覚えのある言葉に目を剥いた。
視線の先には、なんとも素敵な。
それはもう天使のように清らかな。
しかしどこか悪戯っぽい笑顔で。
いやその顔でそれをここで言うー⁉︎
あの時と違って全然可愛くない!
とっても可愛くない……けど!
めちゃくちゃカッコいいから困るー‼︎
小悪魔どころか、魔王級の爆弾落としてくるのは本当にやめてほしい。あんまり顔を普段見てないはずなのに、何故こんなに引き込まれているのか。イケメンか⁉︎ イケメンパワーのせいなのか⁉︎
「……というか! こんなに寄りかかってたら、アルが危ないでしょ!」
視線を無理やり逸らしながら、ちょっとぶっきらぼうに。もはや天使のカケラもない相手へ文句を言う。
「この距離なら問題ありません」
「私は問題あるんですけど⁉︎」
「さぁ行きますよ。ちゃんと捕まっててくださいね」
今度は手を掴まれたと思ったら、そのまま腕の上にのせられた。
「あっもう無理やり!」
「文句は後で聞きますから」
「ちょ、えっ待って待って‼︎」
ぐいんっと身体が引っ張られる感覚に、思わずそのまま服を握る。しかも反動でやっぱり寄りかかってしまう。
あ、いい胸板……じゃないのよ私のばかっ‼︎
「でも離せない〜‼︎」
「離すと危ないのでそのままでいて下さいね」
狙ってるのか狙ってないのか、グングン上がる速度。怖いやら恥ずかしいやらで混乱した私はただ身を任せるしかできなかった。
いつもご愛読ありがとうございます!
皆様の応援のおかげで頑張れてます!
なのでお礼と致しまして……。
日曜日に感謝祭しますー!
連続投稿予定です!明日は通常通り!
もしよろしければお付き合い下さい。
P.S.
Apple Pencilは未だ行方不明です。泣いていいですか。




