368話 凡人の武器はツッコミと諦める事
どこかで時間を潰そうかとも思ったけど。リリちゃんが「すぐ終わるそうですの!」というので。
ドアの前で庭園を眺めつつ、少し待つことに。柵に寄りかかると目に入る目の前の噴水は、今日も元気に上がっている。
キラキラ輝く水飛沫は、夏の太陽を反射して。
緑茂る庭園に、その白は映える。
清々しい。私の心と違って。
いやなんかもやっとしまして。
そう最近増えた気がするもやっと感?
まぁちっちゃいんだけどね?
さっきのもさ? それくらいならさ? 私に直接ウィスパーボイスで、言ってくれてもいいんだけど……とか思ったり。
いや、うん。アルは悪くないけど。
むしろ私が風魔法苦手だからだけど。
苦手だと喚きまくったせいですけど?
だって心の声漏れるんだもん‼︎
お陰様で私には、みんな極力ウィスパーボイスを控えてくれる。そうそう、アルだけじゃないよね。うんうん。みんな優しいからね?
しかしながらですね?
要件終わったらさ?
切ってくれればいいだけなのよ?
そのまま会話しようとするから、漏れるだけなのよ。だから手短なら、ちょっとびっくりするけど別にいいんだけどなぁ……。
地味に疎外感があるのが、たまに傷付くのだ。まぁ私が悪いんですけど。うまく使いこなせないから、みんな気を遣ってくれるだけ。
私が悪いんですけどー‼︎
「お嬢様」
「どわぁっ⁉︎ あ、シーナ⁉︎」
急に声かけられたと思ったら、横からシーナが生えていた。驚きすぎてのけ反りながら、変な声まであげた。
いやいや、うん。
生えたわけじゃないんでしょうけど!
いつからいたのよ気付かなかったよ‼︎
「百面相お疲れ様でございます。姫様を放置なさるなど、お嬢様でなければ首が飛ぶ大罪ですが」
「あれ? もしかして怒られてる?」
「いいですの。私ならお姉様の百面相を眺めつつ、美味しいお茶が飲めますもの」
「私の百面相はお茶請けだった?」
淡々と表情を変えずに怒られたら、リリちゃんがほおに手を添えながら庇ってくれた。意味はあまり深く考えないでおきたい。
とりあえず怒ってないらしいのでいっか!
「もう終わったの?」
気を取り直して、シーナに尋ねると。
目を伏せて、わざとらしく大きく頷く。
「着替えだけですので」
「……というか、私よく考えたら騎士の制服用意してないけど……」
「お嬢様……それに気付いてしまわれましたか……」
一度ゆっくりと開かれた目が、すうっと細くなった。
そう。気付いてしまった。
シーナ騎士団制服どこから用意したんだと。
本来そうそう手に入るものでもない。
しかも私が頼んだの、今日の朝だ。重くなった空気は緊張感を生みーー変な冷や汗が出てきたんですけど! ゴクリ……!
しかし次の瞬間。
「ま、隠密諜報部隊にかかればこの程度は些事ですけど」
「えっ」
「当然騎士団にもおりますゆえ」
「あ、なんだ借りたのか……って借りたの⁉︎」
ケロッといつもの様子に戻って。述べられた真実は、それはそれでビックリものだった。
しかもまだ残ってたのねその部隊⁉︎
「え⁉︎ そんなのもう実行前に計画バレてるじゃないの⁉︎」
「お嬢様、問題ございません」
「どこが⁉︎」
「今の部隊の主人はお嬢様なので」
「知らぬ間に部隊の主人にされてるっ⁉︎」
そんな恐ろしい部隊持ちたくないですが⁉︎
目を剥いて聞いたら、もっと酷い答えが返ってきたよどういうこと⁉︎
ていうかいつから主人だったの⁉︎
その名前聞いたのすごく久々なのに⁉︎
どうなってるのよ⁉︎
自覚のないうちに、最強の凶器手に入れちゃったみたいな!
私の手に余りすぎる力に震えていると……。
「さすがですのお姉様!」
その声で気付いたーーおおお⁉︎ 身内の悪事、本来の主人にバレてますけど⁉︎
咄嗟に私はガシッとリリちゃんの肩を掴んで、何故か必死に弁明する。
「待ってリリちゃん⁉︎ 今のは、あの、冗談というか……」
「大丈夫ですのよ! 騎士団の管理はお父様ですもの!」
「そうですよねー! だからマズいんですけどねっ⁉︎」
「さすがですのお姉様! 王宮にまで情報網を張り巡らせていらっしゃるなんて……!」
「待って今どこに感動した⁉︎ 間者が仕込まれているって話のどこに感動したっ⁉︎」
ぐらぐら揺らしても、ぽっとほおを赤らめたまま!
このお姫様ヤバいぞ!!!!!
困った私はその顔のままシーナを見るも、サッと顔を逸らされる。なぜっ⁉︎ あなたのせいでご主人様困ってるんですけど⁉︎
「とにかくこの件は蒸し返さないという事で」
「ならば何故話した⁉︎」
「主人の自覚をお持ち頂こうかと」
「許可もしてないのにっ⁉︎」
はちゃめちゃだよ!
はちゃめちゃ大馬鹿集団なの⁉︎
いや違うシーナがいけないんだけど‼︎
逸らしていた顔を元に戻した彼女は、実に涼しい顔をしている。なんでその顔ができるの⁉︎ 置いてけぼりの私は、困惑に顔を固めるだけ。
「さぁ殿下がお待ちですので」
「いや、誰のせいだと」
「さぁさぁさぁ」
「ちょっと⁉︎ どこに主人を物理的に押して進める侍女がいるのよ⁉︎」
「仕方ありませんの。私が扉を開けて差し上げましょう」
「何故このお姫様は進んで侍女のマネを⁉︎ しかもちょっと楽しそう⁉︎」
カオスだ。
カオスすぎてついていけない‼︎
特殊な人たちに徒党を組まれると、対処できない。凡人ゆえ、諦めに達するのも早かった。もう何も考えちゃいけない気がする。
そのまま開けてもらったドアから、中へ入るーーちょっと本来の目的を忘れかけながら。




