36話 誓約のブレスレットの効果
「君は……」
そう言いかけて、アルバート王子は止まる。
え、なんなの。
さっきから2人とも言いかけて終わるの、よくないと思うよお姉さん。言わなきゃ分かんないよ?
「分かりました、話しましょう……2人とも、ここで話す事は他言無用ですよ」
ふう、とひとつため息を吐いてから、アルバート王子は話し始めた。
ところでなんでため息吐いたんですか?
なんか呆れられてる気がするんですが?
何故でしょうか?
「フィンセント王国には、昔から時折黒い髪を持った者が生まれます。その多くは、強力な闇の魔力を持っていると言われているんです」
私の心の声は置いて、解説が始まる。
「まぁ、魔力属性が髪に現れることはよくあるからな。絶対じゃないけど」
若干和らいだ態度で、ヴィンセントが補足してくれる。
へー。リトマス紙みたいで面白いなぁ。
だからこの国は、こんなに色とりどりの髪色なのかな。
「ええ。ですから、それを目安に王国は黒髪の者に目をかけますーーと言えば、聞こえはいいですが」
少し言葉を切って、視線を外す。
それが決まりすぎていた。
大人か、君は。
「要は危険分子にならないように見張っているのです。その力は強力なので……」
「あー予知のせいですね?」
言葉を選んでるけど。そこで原因が分かったので、直球でいくとコクリと肯かれた。
まぁここまでは、前にも聞いてるからね。
「予知なんてできるのか?」
ヴィンセントを見れば目が大きく開き、こちらに注がれていた。
おや、こちらは知らなかったのか。意外。
「あら、ヴィンセント様知っていらしたのではなかったんですね」
「……闇の魔法は危険だという話しか知らない」
ちょっと揶揄うと、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。
あらら? もしや闇の魔法がなんたるかを知らずに、恐れてる人が多いのかな?
「闇の魔力でできることは、おもに2つなんです。1つが幻惑、もう1つがさきほどの話の予知予言なんですが……まぁ闇の話はみな避けますから。ヴィンセント様が知らないのは普通ですよ」
サラッとフォローしておく。
この子もプライド高そうだからなー。
機嫌悪くしないでほしいな?
別に仲良くしたいから、点数稼いどこっとか思ってないよ? うん。ホントダヨ?
「あぁ、この歳では知らないのが普通ですから。大人も話したがらないですしね。王族はその魔力持ちと結婚するかもしれませんから、知っているだけですよ」
私のフォローに王子も乗ってくれる。
まぁ実際、そうなんだろう。
君たちみたいにみんな賢くてたまるか。
「まぁ……たしかに予知とかできたら、便利だもんな。災害とか民の反乱とか……事前に知ってたら国が安定することはたくさんあるだろう」
さすが王子のフォローはプロ級ですね。
ヴィンセント持ち直したよ。
仲良し補正もあるのかなぁ。微笑ましいね。
にしても発言が子供じゃないなー。お姉さん、お姉さんなのに場違い感あるんですが。
冷や汗かいてる私をおいて、話は進む。
「そう。けれど同時に、闇の魔力持ちは危険視される。魔力量しだいでは幻惑の魔法も、国を脅かすに値するんだ。人を惑わせることができるのだから」
深刻な表情でそう告げる。
今の説明だと人を操れるってことかな?
まぁ……実際はそれだけじゃなく、世界を一時的にしろ、思い通りに作り替えることさえできる力なんだから、ね。
知れば知るほど恐ろしいことこの上ないよね……。
「……で? その闇属性の魔力持ちが手元にいないと、恐ろしいってのは分かった」
調子を取り戻したヴィンセントは、片眉を上げた。
「それがあのブレスレットで作った魔道具と、なんの関係があるわけだ? まさか監視用の道具作るのに、それだけ制約のあるものは必要ないだろう?」
納得いってない顔。また疑問が上がった。
そっか。
たしかに監視の魔道具は必要かもしれない。
でも王族が直々に、しかもなんか制限までかけてしなきゃいけないなんてものは、必要なさそうじゃない?
ぽへっと考えてる私より、真剣な表情で王子は話す。
「王家は今までも、闇の魔力を持つものたちを迎えてきました。強い力を持つ者ならとくに。そうすることで闇の魔力を持つものを手元に置き、監視するとともに庇護してきたんです」
「庇護ですか?」
スラスラ述べる王子に、今度は私が疑問の声を上げる。便利な力が取られたら困る、だけじゃないの?
「国を脅かす存在なら利用価値もありますが、その分敵に回れば恐ろしいですよね? それを恐れた者が、敵に回るくらいならばと……黒い髪を持つ者は、歴史的に悲劇的な死を迎える事が多いんです」
一瞬だけ、視線を外し逡巡した表情を浮かべて止まった。
しかし次の瞬間には決意したように。しっかりとした口振りで、私と目を合わせアルバート王子はそう話した。
……お? ていうか。
今不穏なフレーズが聞こえた気がしたんですが?
「ですから、王家は考えました。この国の一助となるかぎり、その者の運命を長らえさせることを」
しかしそれどころじゃなく、話は本題に入る。
「……あの誓約のブレスレットの効果は、『運命の力の制御』の付与です。制限として王族しか使うことができない事、また使用者はその付与の代償として、一生闇の魔力を使うことはできません」
淡々と語られる内容だけどーーそう聞くだけなら、いい効果なんじゃない?
代償とかも、そう困るようなものではないと思うけど……。
「……王族の闇属性の魔力を使うってことか。それで作り出した魔道具で、身につけた者の運命を予知するってことか?」
ヴィンセントが、予想外のことを言い出した。
「まぁ、その考え方であってる」
「え、アルバート王子闇の魔力お持ちだったんですか?」
王子が肯定した事に驚いて、私は目を見開いた。
まさかまさかの、衝撃の事実!
私だけじゃないんだね⁉︎
ていうか、そんなキラキラな見た目で闇とか似合わないなー! とても信じ難い! 光って言ってくれた方が信じる‼︎
「さっきの話で考えろよ……闇属性の魔力持ちを引きいれまくってたなら、遺伝はありえるだろ」
「あ、そっか。すごいですね! さすがヴィンセント様頭いい!」
呆れ顔のヴィンセントへ、本当に感心して言った。
ちなみに拍手付きだ!
わーわーさすがー‼︎
なのに、なんかなんとも言えない複雑な表情をされた。何故!
同音異義語ややこしいですので意味を
誓約→約束
制約→制限