364話 詰めが甘くても押し通す
しかし私思うんだけど。自分が思ってるより、これは闇魔法使って生きてるんでは……?
『無意識に使うのやめなさいよ!』と。女神様に言われたのは、もう10年くらい前の話だ。
もちろん、そのつもりでいたんだけど。
「……どこまでなんだろ」
「どうしましたか? 急に神妙な顔をして」
反応があって。その声の方を見て初めて、自分が無意識にしゃべったんだと気づいた。
「あっ……いやー! えっとぉ! どこから私は魔力の流れ意識するようになるのかなぁーって!」
「たしかに。魔石の質や使う魔法によって、使う魔力の量が違いますものね。簡単な魔法なら、流れを意識しないかもしれませんの」
「そ、それだ! 多分そのせい! 私簡単なのを少ししか使わないもんね‼︎」
無駄に元気な感じで、手を振って言い訳をしたので苦しいかと思ったら。リリちゃんの同意があったので、のっかって大きく頷く。
アルはちょっと疑わしげに目を細めたけど、すぐにそれは消えて言った。
「まぁそもそも、流れを気にする暇がないような時しか使わないですしね」
「うぐ……! だって使うと自分の魔力じゃないのに……っていう、謎の罪悪感があるんだもん!」
「罪悪感ですか?」
「そーだよ! なんかズルいじゃん‼︎」
不思議そうな顔をされて、さらに付け足しても。変わらないどころかむしろ深まる表情に、溝は埋まってない事がわかる。
なんか使わない事が!
悪い事みたいなんですけど!
私的には逆なんですけど‼︎
魔石が高価なものだと知っている。魔力も貴重なものだと知っている。じゃあ自分でなんとかなる限りは、なんとかするでしょ!
そう私は大事なアイテムーーポーションとかを、最後まで取っておくタイプ……!
大事なものは、大事にしておくタイプなんだけど。ただそれだけなんだけど。リリちゃんも首を傾げているので、私がおかしいらしい。
「別に自分のものなのですから、ズルくはないのでは?」
「自分のものを使うのに、罪悪感は必要ないですのよ?」
「あーうんなるほど……。私には借り物意識があるって、今自覚したわ……」
「「?」」
思わず苦い顔で返せば、さらに困惑させてしまった。
こればっかりは、最初から私がこの世界の人じゃないせいもあるんだろうなぁ。あとは私の立場的問題もあるかな……。
自分でも意識してなかったけど……。
私は周りに対して。
どうも、今だけのものだという意識がある。
この立場しかり。多分魔石が自分で用意したものなら、少し意識が違うと思うけど。
魔石は全て貰い物なわけで。
粗末には扱えない。
というか、不相応な気がしてしまう。
養子という立場もあるし、心は開いても遠慮はあるのだ。セツは全然気にしないんだろうけど、魔石に関しては家から借りてる物の意識。
まぁそうじゃなくても、私自体魔法のない世界から来ている。だから、魔法を出し渋ってしまう。もったいない精神的な……。
「考えが庶民……」
「お姉様?」
「あぁうん、大丈夫大丈夫。やっぱお嬢様向いてないと思っただけだから」
深いため息と共に頭を押さえたせいで、心配された。節約思考が抜けない時点で、私は貴族向きの人間じゃないなぁと再確認した。
ましてや王妃など……うん、ムリムリ。
スケール違いすぎるよね。
今でも手に負えてないのにさぁ?
これがアルの隣にいるのは、なかなか厳しいものしかない。改めて、婚約破棄の意思は固くなった。やる事やってからだけど!
「で! それは置いといて! 作戦考えるんでしょ?」
つとめて明るく言って見せて、先を促す。このままじゃ、いつまでたっても解決しに行けない。
「そうですね。まず君がどうしようとしてたかなんですが……」
「えー? ばっと行ってえいっ! って片付けようとしてただけだよ?」
「抽象的すぎるでしょう……具体的に言ってください。幻覚でもかけるつもりだったんですか?」
面倒だなぁと思い唇を尖らせながらも、身振り手振りで説明してみたけど。真剣な瞳で尋ねられるから、私も少し姿勢を正して言う。
「いや。それなら行く必要ないでしょう? みんなに魔法かけなきゃいけなくなるし。そもそも証拠が見つかれば、この話は終わりだよね?」
「……まさか」
「うん。魔石を、作ってこようと思って」
さらっと言ってしまえば、アルの眉間の皺が濃くなった。え、なんで?
「そんな簡単に言いますが……」
「うんまぁムリなら、そこら辺の小石を魔石に見えるようにしようとしてたけど」
「……。」
別に理論上は、できるはずだ。
魔石は鉱物みたいなものだし。
それに今回の魔石は闇の魔石だし。
しかも残骸だというのだから、さほど魔力を中に込める必要もない。想像さえできれば、私には特に難しくもない作業だ。
しばらく口をぱくぱくさせていたアルは、諦めたのか目を一瞬瞑ってため息をついた。
「……まぁティアならできるんでしょうね」
「当然!」
「はぁ。ではまぁそれはいいとして、どうやって中まで入るつもりですか? 姿が見られたら追い出されるだけですが」
そこは考えてなかった!
あっという顔をして彼を見ると、じとーとした目を向けられた。く! 汚名返上の案……案を絞り出すんだ自分……‼︎
「……あ! 鏡面世界通るから大丈夫‼︎」
「……もうすでにボロが出ている気がしますが」
「いや! いけるいける! 大丈夫だって!」
ジト目の圧力に負けじと主張するも、その顔が緩むことはなかった……。
けどもう決めたから!
何言われても行っちゃうもんね‼︎




