359話 一枚上手
遅刻すみません!
私は落ち着こうと、ティーカップを手に取り。さっき入れてもらった紅茶を一口含んだーーふぅ。美味しい。
というわけで向き直って言いますが。
「リリちゃんは私を過大評価しすぎだよ‼︎」
「普通ですの!」
「そしてアルを見くびりすぎだよ‼︎」
「お兄様は優しいですのよ‼︎」
そうだね!
でもそれ、リリちゃん目線の話ね⁉︎
一般目線はまた別だからね⁉︎
私を姉だと慕ってくれてるから、そうなるのはわかるし! アルがリリちゃんには甘いから、そうなるのもわからなくはないけど‼︎
盛大に否定したもののされ返されて、ただの睨み合いになる。おろおろしているフィーちゃんが、視界の端に見える。
「お、落ち着きましょうお2人とも!」
「フィリーはどっちの味方ですの⁉︎」
「えっ」
「味方っていうか、一般的に考えたらリリちゃんの意見はおかしいんだよ!」
「あ、あう……」
お互いむーっと、険しい顔で向き合ったまま。
アルは真面目だ。
変なこと言って、困らせたくはない。
ワガママで振り回したいわけでもない。
リリちゃんなら妹だから許されても。私はただの……他人……いや、もうちょっとマシだけど。でも甘やかされる対象ではない。
悩みの種になりそうなら、できれば最初から話たくなどないのだ。
「あの……えっと……! どちらも正しいと言うか……!」
必死にフォローしてくるフィーちゃんを目にして、はぁ、とため息を吐いた。
「……そうだね。見方が違えば正しさが変わっちゃうもんね」
「リスティちゃん……」
「まぁアルに聞けば終わる話だしね。あとで時間があれば聞いてみるよ」
何か言いたげな彼女に、苦笑して返事した。
さっきまでは悩んでたから、本当に聞こうと思ってたけど……。リリちゃんと話して、はっきりした。この話は終わりだ。
嘘も方便というもの。
悩みの種は見つけたら握り潰す。
悩むだけ無意味だ。
というわけで、話さない事が私の中で決定したんだけど……。
「……そういうズルいのは、なしですのよ」
1人納得していない人がいた。
「え? リリちゃん……」
「心が見えなくったって、私は王族ですのよ。言葉から裏を読むことくらいできますの。見くびっているのはお姉様の方ですのよ」
「!」
目を細め、明らかに怒りを滲ませた顔で。
上に立つ者の貫禄たっぷりに、リリちゃんは低く冷たい声でそう言った。
……お陰様で、背筋が大変冷たくなっております。な、なんか気温下がって……あ、フィーちゃんが寒そうだから気のせいじゃないや。
「あ、あの、えーと。リリちゃん。そうじゃなくてね……?」
「我慢はいけないと先ほど申しましたのよ!」
「いやあれ砂糖の話じゃないの!」
ゴォォォォ‼︎ っと風が、てか冷風が吹く‼︎
やばいやばい!
魔力! 魔力漏れてるから‼︎
寒い寒い‼︎
「リリチカ様〜! 魔力が……!」
「……私は今怒ってますの」
「か、風凪……!」
一応言ってみるが、止める気もないらしい。寒さに耐えられなくなったフィーちゃんが、自分と私の前に風邪が来ないようにしてくれる。
しかし冷気がなくなったわけではない。
それどころか、紅茶が凍り始めた。
ハッとして周りを見ると、草木にも霜が。
「リリちゃんストラップ! 薔薇がダメになるよ‼︎」
「……!」
私の一言に目を少し大きくしたと思ったら、風と冷気が止まった。でも凍ったのは元に戻らない。青い瞳が動揺している。
「……別に、薔薇はどうでもいいですけれど。お姉様がいうことを聞いてくださるなら……」
「わかった! 庭の事はレイ君とブランになんとかしてもらうから大丈夫‼︎」
「……そこは城の者や、ヴィンセントじゃないんですの?」
「あ、そこら辺には見えないようにしておくね」
戸惑い顔のお姫様を見て、サッと周辺に魔法をかける。銀の光が包み込んで……。
「……変わってないですの」
「私たちは見えないと伝えられないでしょ!」
「……本当に言わないんですの?」
不安そうな顔に、ふっと笑って。
「お姉ちゃんは妹の味方だから!」
そう言うと、ぷくっと頬を膨らませてしまった。でもほっぺが赤いから、照れてるのかな?
「で、でもここ冷気もすごいですけど……」
おずおずと聞いてくるフィーちゃんに、ニコッとして言う。
「そーんなもの、私にかかればお茶の子さいさいですよ! 幻惑ってそのためにあるんだよ?」
「え……もしかしてそれも感じないんですか?」
「当然!」
お返しの表示は、あんぐり顔だった。
全員にかけてしまえば。
この事態すらなかった事にできるけど。
リリちゃんは、これを覚えておくべきだし。
「ヴィンスに申し訳ないと思うなら、これから優しくしたらいいよー!」
「も、も……ちょっとだけですのよ!」
「あ、フィーちゃんも治すまでは解かないでね!」
「は、はい! わかりました!」
勢いでツンデレと素直な返事を頂戴しつつ、一件落着したので。
「さて、と。全部凍っちゃったし、とりあえずブランのとこに行って。レイ君捕まえてこなきゃ……」
そう言いながら、立ち上がったら。
ガシッッッッ‼︎
「その前にお兄様のところですのよ!」
「え?」
「言質は取りましたのよ‼︎」
え、その話終わったんじゃ……。
「ってえ、わ、ちょ、引っ張んないで⁉︎」
「申し訳ないですけれどフィリー! レイナーたちのことを頼みますの! どうせセスと一緒にいますのよ!」
「えっ! わ、わかりました‼︎」
「ちょ、フィーちゃんに雑用させな……」
「走りますのよお姉様!」
「わわわ待って待って‼︎」
え、本気で言ってます⁉︎
しかしそのままリリちゃんにーーしかも走って引き摺られて。私は強制的にアルの元へ向かう事になった。……お姫様は最強ですね!




