353話 乙女の思考は迷路のように
「お疲れなのかもしれませんの。ひとまず座れるところへ早くいきましょうか」
そう言うリリちゃんに引っ張られ、薔薇のアーチを潜った先に東屋がある。生垣に囲まれた死角。迷路の真ん中だ。
さっきは、軽く通り過ぎちゃったけど……。
「うーん、景色だけはあの時のままだなぁ…」
「え? 何かございましたの?」
「いやぁ……私の始まりの地的な……」
「お姉様? 本当に疲れていらっしゃるのでは?」
正確にいうと、若干咲いてる花とかの違いはあるんだけども。
微妙な顔をしている私を心配してか、お姫様自ら席を引いて座らせてくれる。フィーちゃんも心配そうに見てくるので、笑っておく。
いや、体調は大丈夫なんだけどね?
しかしここに座るのもあの時以来か。
お城に来ても、迷路までは来ないし。
ただなんだか、感慨深くなっちゃうだけだ。
感傷的とさえ言えるような。
「ありがとリリちゃん……でも私体調は問題ないから平気だよ?」
「フィリーに嘘はつけませんのよ!」
「え、そこでフィーちゃん出すの?」
「えっと……体調不良ではないと思います、けど……」
隣に座った険しい顔のリリちゃんが、フィーちゃんを召喚したけど。苦笑いで彼女の述べた結果は、リリちゃんには予想外だったようだ。
「ただなんだか……心はぐにゃぐにゃしているというか」
「ぐにゃ……?」
「ほら! 嘘じゃないではありませんの! 心の不調も体調不良の元ですのよ‼︎」
じっと見てくる、オレンジ色の瞳にどきっとする。いや別にやましい事はないんだけど。
しかしそれより。フィーちゃんの発言に水を得た魚の如く、後ろ盾を得た人魚の末裔のお姫様が元気になった。違うってばー。
さぁぁ……っと爽やかな夏の風が吹いた。
視界に映る全ての薔薇と葉が揺れる。
頬にかかる髪を押さえた。
緑の香りが記憶を鮮明にする。
「私ね、ここで昔アルに約束したんだよね」
「お兄様に?」
「うん。絶対裏切らないって。それで、この百合を貰ったんだよ」
「え? それは生花では……?」
目蓋を伏せて、懐かしむように。なぞるように口にした記憶だけど、そこよりフィーちゃんは別のところに驚いたみたいだ。
「あ、これ? 生花だけど生花じゃないよ? 面倒だから触ってみる?」
「え……わっな、なんですかこれ⁉︎」
「あはは。昔セツも同じような反応してたよ」
シュッと外して無理やり持たせると。恐るおそる触ったフィーちゃんは、ひょっとこみたいな顔をしている。
まぁ我が弟くんは、もうちょい可愛げなかったけどね。
ちなみにこの言葉で、自分だけじゃないと安心したのか。フィーちゃんは「おそろいですか……」と、なんだか嬉しそうにしていた。
「……私も初めて知りましたけど」
「あれ? リリちゃんにも言ってなかったっけ?」
「初耳ですのよ!」
掴みかかられそうな勢いで怒られた。
い、いや……。まぁこれ、あんまり人に言うものじゃないというかね? ん? それどころか割と機密事項かな?
まぁもう見せちゃったし話した事は仕方ないので、気にしないでおくことにする。
「んーまぁ詳しくは言えないけど、これがある限り私はあるを裏切らないよーって感じのね? 魔道具なんだけど」
「……たしかに、銀色の光が見えますけど」
「えっそんなもの見えませんのよ」
「じゃあ私にも見えないから、魔力なんじゃないかな? 魔力に関してとか、たまにノア君も言う時あるし」
私が渡した百合を、穴が開きそうなほど見つめるフィーちゃん。リリちゃんは、怪訝な顔で私と百合を行ったり来たり見てる。
「不思議……なんで気付かなかったんだろう……? リスティちゃんが身につけてたからかな? 何かが混ざり合うような……」
「わ、私には何もわかりませんのよ……」
「いや私もわかんないから。大丈夫だよリリちゃん」
日の光に当てるようにして、ぐるっと回してみたり。
それは珍しいものを見るように、敬語が抜け目を丸くしているフィーちゃんと。ぐぬぬ……と悔しそうな顔をするリリちゃん。平和だ。
「まぁそういうわけで、魔道具なのでね。私がどういうことしても、これをつけてる限りアルは私に安心できるというわけでね」
「その意見にはお兄様に代わって、否定いたしますの」
「なんで⁉︎」
まだ何も言ってないのに⁉︎
素早い反撃を受けた私は、反撃してきたリリちゃんを見た。静かに首を横に振られた。だからなんで⁉︎
助けをフィーちゃんに求めようと顔を向けたら、まだ日にかざして見てた。それ楽しいの?
「うーんなんというか……思いやりと執着を割ったような色ですね!」
「なんなのそのカオス⁉︎ え、私そんなヤバい人間だった⁉︎ ……いややばい人間だったわ‼︎」
キラキラ笑顔で残酷なことを言われ、頭を抱えた。
確かに……操ろうとしてたんだもんね⁉︎
え、それ百合の方にも反映されるの⁉︎
さすがにヤバいぞ闇使い‼︎
「……それ、お姉様だけの魔力ですの?」
「いえ、殿下の魔力も感じますよ」
「あぁ、それなら納得ですの」
2人の和やかな話なんて、耳に入ってこない。そよ風と一緒だ。それより私がヤバすぎる。
「大丈夫大丈夫……終わったらちゃんと離れるし、精算するし忠臣として大活躍を……」
「お姉様が壊れましたわ……きっとお腹が減りましたのね!」
なんだか失礼なことを言われた気がしたけど、私はそれどころではない。
「あの、たまに思うんですが……リリチカ様はリスティちゃんをどうお思いで……?」
「お姉様はお姉様ですのよ?」
「本当にそれだけでしょうか……?」
「ただデロデロに甘やかして、ダメ人間にしてしまいたいだけですのよ」
「リリチカ様⁉︎」
そんな不穏な気配漂う爽やかな庭園での会話は、届けられた朝食の気配で一旦中断した。
いつもご愛読ありがとうございます。
ちょっと疲れてる間に2700pt超えていたようで
気付かなくてすみません…!
またお返ししたいなぁと思うので!
たまには土曜日に!感謝祭をしましょうか!
日曜日はそのまま普通に投稿します。
お付き合いいただけたら幸いです。
暇つぶしにでも読んでね!




