表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フラグ回収から始まる悪役令嬢はハッピーエンドが見えない〜弟まで巻きこまないでください〜  作者: 空野 奏多
悪役令嬢、物語に挑む〜ゲームの舞台もフラグだらけです〜
354/565

339話 正論は権力に屈する

「はっ‼︎」


 まるで悪夢から起きるように、ガバッと起き上がる。


 デジャヴ感のあるこの起き方は、何度目だろうか。すっかりころんころん、起き上がり小法師並みに倒れるのに慣れてしまった。


 あ、なんかお布団が豪華‼︎

 なんでこんな金糸だらけなの⁉︎

 細やかな刺繍が、明らかに高そうな感じ!


 病院と大違いなんだけど、ここはーー。



「お姉様‼︎」

「……おはようございます。もう夜ですけれど」



 声をかけられて、初めて右側に人がいると気付いたらーーこっちの方が、キラキラしていた。


「うわなんかどんな調度品より豪華なロイヤルがいる‼︎」

「お姉様が元気そうで何よりですの‼︎」

「……ふふっなんですか、その感想は」


 そこにいたのは、お姫様〜なリリちゃんと。

 これまたザ・プリンスのアルだった。


 リリちゃんは、淡いピンクのシンプルなドレス。でもその光沢が美しく、可愛らしいお花のようだ。夜だけど、とても元気ですね。


 アルは、灰色のしっかりした生地に銀糸のあしらわれた上着を着ている。これでも、装飾が抑え目。手袋はしてた。何故か笑ってらっしゃる。



 とりあえず状況が掴めないので。

 固まる思考をいいことに、思わずガン見した‼︎



 多分夜は、家族で食事くらいだと思うんだけど……いや2人には、何か仕事とかあったのかもしれない。


 普段でも王族の着替えは貴族より多いから、正直よくわからないけど。


 しかし準礼装で、この目が焼けそうな威力出します⁉︎ やっぱロイヤルは別の生き物だね⁉︎ 寝起きの心臓に優しくないんですけどね⁉︎


「……ていうか天蓋高っ⁉︎ え、壁豪華なんだけど、ここ客室じゃなくない⁉︎」

「ここは私の部屋ですの!」

「リリちゃんの部屋っ⁉︎」


 布団を掴んだまま、私は馬鹿みたいにきょろきょろしてから。彼女の発言に、素っ頓狂な声を上げた。


 待って、なんでリリちゃんの部屋⁉︎


「客室に、おいそれと私たちはおしかけられませんもの……」

「逆転の発想⁉︎ おかしいよね⁉︎ 自分の部屋に運べば大丈夫とはならないよね⁉︎ 絶対反対されたよね⁉︎」

「私が(ルール)ですの」

「このお姫様恐ろしいぞっ⁉︎」


 いい笑顔で何を言ってるんだ⁉︎


 開いた口が塞がらず、魚のようにぱくぱくしてしまう。つまりこのやたら豪華なベッドも、多分リリちゃんのなんだろう。


 王族の私室なんて、普通お邪魔しない。


 私だって、アルの部屋行った事ないよ⁉︎

 家族くらいしか入れないんだよ⁉︎


 異例の対応すぎるでしょうよ⁉︎

 何故許されたし⁉︎

 権力⁉︎ 権力の問題だというの⁉︎


 混乱する私に、手が伸びてくる。


「髪が乱れてますよ。熱は……ないですね。はぁ。わかってても心配はするんですから、急に倒れないで下さい……」

「……アル」


 おでこに張り付いた前髪をはらりと直して。

 熱を測るように触った手は、温かい。

 ……わざわざ、手袋脱いだのか。


 正直ちょっとドキッとした……って、何をドキッとしてるんだ私は⁉︎


 いや、違う!

 多分私が今ナイトドレスだから‼︎

 ちょっとびっくりしただけだから‼︎


 訳のわからぬ言い訳を頭でして、ついでにぶんぶん振り回す。


 あ、危ないわ!

 煩悩が危ない‼︎

 恋する乙女もどきになってたわ‼︎


「ティア? どうしました?」

「お姉様、まだお加減が(すぐ)れませんの?」

「いや! 2人が眩しすぎて、目眩と動悸ががしただけだから大丈夫‼︎」

「理由はともかく、大丈夫ではないのでは?」


 私の不審な行動に心配されたが押し通す。


 こんな寝起きドッキリはいけないよ!

 どうすんの⁉︎ 私が欲望に忠実だったら‼︎

 2人とも、危ないんだよ⁉︎


 幸い私はチキンで美しいものに怯むたちなので、大ごとにならずに済みました! 感謝してよね2人とも‼︎


「ところで、お腹は空いていませんか? 夕食は終わってしまいましたが、何か用意を……」

「えっ大丈夫大丈夫‼︎ そんなわざわざいいから‼︎」

「でも何か食べた方がいいですのよ?」

「だ、大丈夫! ほら! あんまり遅くに食べると太るからね⁉︎」


 2人が心配してくれるのはありがたいが。自分1人のために、コックさんを働かせるのは気が引ける。夜なら、片付けが忙しいし!


 それに部屋に帰れば。

 誰の目もなければ。

 私は自分の魔法で、なんでも用意できる。


 最悪それでなんとかなるので、気遣ってくれる2人に手を振ってストップをかけた。


「これくらい大丈夫ですのに……まぁいいですの。今夜はこのままここで寝ましょうね、お姉様」

「え、私お(いとま)する……」

「寝ましょうね‼︎」


 リリちゃんのゴリ押しも、すごかった。


 有無を言わさぬ圧力に、思わず頭がコクリと動いてしまった。ニコニコ美人の圧、すごいわ……。


 けれど私は、まだちょっと食い下がる。


「あの、でも私邪魔になるんじゃ……」

「一応、予備のベッドはそこに運ばせてありますけれど」

「用意周到⁉︎ ま、まぁそれなら……?」

「でもあれは使いませんの」

「使いませんの⁉︎」

「お姉様とここで寝ますの」

「ここで寝ますの⁉︎」


 なんでベッド2つあるのに使わないんですの⁉︎


 思わず頭の中で、口調が移るほど衝撃を受けた。いやいやとかわいらしく首を振っても、私は騙されてないよ⁉︎


 確かにこのベッドは広い。

 なんなら、3人くらい多分寝れる。

 でも色々おかしいのは変わらない。


「アルさん⁉︎ お兄さんとして何か意見は⁉︎」


 困った私は、縋るような視線でアルに助けを求めるがーー。


 助けを求めたアルは、手袋をはめ直していた。

 絵になりすぎて、表情が真顔で眺めた。

 イケメンかな? あ、イケメンだったわ。


 そんな私を、ちらっと見たアルは。私に返事するより、手袋を優先させた。手袋に負けた女……いやでも眺めてたいから、いいんだけど。


 はめ直した後、こちらを向き直って。

 気を取り直して爽やかに、言い放つ。


「まぁ、私のところにいないくらいなら。リリーのところの方が、安心できますからね」

「安心できる要素ありましたか⁉︎」

「警備面は王族が一番手厚いですから」

「ツッコむところ、それで合ってますか⁉︎」

「脱走してもすぐわかりますし」

「私はわんちゃんかな⁉︎」


 驚愕に慄く私の反応と裏腹に。

 プリンススマイルを贈られる。

 噛み合わない答えを添えて。


 おかしいでしょうよ!


 私は気に食わなさすぎて、反応を続ける。そんな様子にアルバ、ふむ、と……顎に指を当てて考えた後。


 少し細めた瞳と、ニヤリと笑う唇で……こう発言した。



「それとも……私のところに来たいですか?」

「よーしリリちゃん! 一緒に寝ようか‼︎」

「はい! お姉様‼︎」



 ダメだこの兄妹ー‼︎


 私は逃げるように、リリちゃんに手を伸ばして縋った。


 どういう誘いなんだそれは!

 まったくもう!

 揶揄(からか)うのいい加減にしてよね!


 その対応に彼女は、実にいい笑顔と可愛い声で元気よく返事をくれた。


 おかしいよね⁉︎

 リリちゃんから逃げたはずだったのに‼︎

 私が正しいはずなんだけどなー⁉︎


 追い込んだはずが追い込まれた私は、脱力するしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ