335話 女神様のお呼び出し
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ふっと意識が覚醒する気配に、目を開ける。
見慣れた水の揺らめきが見えた。
はぁー。知ってたけど。
知ってたけど‼︎
「女神様、もっと良い方法なかったんですかっ⁉︎ まだチョコ用意してませんけど‼︎」
「あんた起きるなり元気ねぇ」
ガバッと起き上がるなり、大声で叫ぶ私に。
暢気な女神様ときたら、頬杖ついての対応である。今日も女神様ですね‼︎
「チョコは我慢してあげるわ。私も急ぎの用事だもの」
ちょっと不満そうに、髪をいじっている。
チョコより優先ってことは。
確かに、急ぎなんだろうけど。
でもですよ!
「というか、人と話してる時に連れてくるやつあります⁉︎」
「一瞬待ってあげたじゃないの」
「一瞬にしては長かったですね⁉︎ そこが待てたなら、もう少しおまけしてほしかったですけどね⁉︎」
「神に人間の時間に合わせろなんて、できるわけないじゃないの」
玉座の上で気怠げにしながら、どうでも良さそうに対応する。美神じゃなければダメな人……いや、神に見える。
でも美神なのだ。
なので許してしまう。
現実は非情である。
いや、有情だから許されるのか?
「それに丁度水辺にきたあんたがいけないのよ‼︎」
「理不尽の権化‼︎」
実際神様は理不尽だと思うので、間違ってないと思う。
しかし気に入らないらしい。
口をへの字にする。
「一応、こっちだって人間時間に合わせようとしてるわよ。だからそっちに遊び……視察に行ってるんじゃないの!」
「あ……それで学園に出没してたんですか……」
「そうよ! 紛れ込みやすいからね‼︎」
正直、遊んでいるんじゃないかと思ってはいるが。胸を張って、踏ん反りかえる女神様はそういう言い分らしい。
ま、確かに何万年単位の神基準だと。
数秒なんて、人間以上に早いかもしれない。
逆に調節が難しいかもとは思った。
という事で、ここは煽てておく事にする。
「さすが女神様〜。考える事が立派ですね」
「ふん! 当然でしょ‼︎ 暇してたからじゃないのよ‼︎」
「その割には、生徒にちょっかいかけてません?」
サラッと尋ねると、ぱちくりと長いまつ毛が瞬いた。
みんなが忘れても、私は忘れてないですよ。
オリーヴェ君の件ね。
目的があるなら、聞いとかないと。
「あぁ、そういえば会わせたんだったわね」
「自分で誘導しといて忘れてたんですか……」
「ま、あれは一応予防だから。今回は違ったみたいだし」
女神様はどうでも良さそうだけど。
私はどうでも良くない。
何よ、今回はって?
私の疑問の眼差しに気付いたらしく、珊瑚色の美しい唇が開く。
「あの子前回の滅びの要因なのよ」
「は?」
「聞こえなかったの? この世界の滅びの元凶だったの。だからその気があれば、食べちゃうつもりで行ったのよ」
“食べちゃうつもりで”。
この意味がわかる私は、眉を顰めた。
「人間に手出ししないんじゃなかったんですか?」
「別に、1人くらいなら手を出してないようなもんでしょ? つまみ食いよ、つまみ食い」
「どうせ早いか遅いかなんだから」と。
実につまらなさそうに語る。
……うん、やっぱ神様基準わかんない!
きっと人に理解できない溝があるのを、再確認しただけだった。話せても、やっぱり別の生き物ーー神なんだな。
「まぁ食べ損ねたのよ。で、一応大丈夫だと思うけど。念のためあんたのとこに送れば、良いようにしてくれるでしょ?」
「……何の相談もなしにじゃ、理解できませんけど?」
「そこはお人好しを信用してるわ」
にやっと笑うその顔は、憎たらしいほど決まっている。
お人好し、ね。
別にそんな事ないんだけどなぁ。
でも結果は、女神様の望み通りだ。
「言っとくけど、私は無意識に運命弄ったりしないわよ?」
「……それは私に怒ってます?」
「あんたまた危ない橋渡ってるじゃないの。せめて自分の未来まで、ちゃんと確定させなさいよ」
細められた瞳に、静かな苛立ちを感じる。
私はそろーっと視線をずらした。
そんな気まで回らないんだよなぁ……。
に、しても。
本当は私、もう1つ相談があったんだけど。
「……そのつまみ食い、見つけたらする気ですか?」
あの黒フードが見つかったら。
もちろん、答えは考えるまでもなくーー。
「当然でしょ? だから、あなたはちゃんと姫を助ければ良いだけよ?」
そうすれば、間接的に。
犯人に近づく事になるから。
私が伝えれば、それで終わり。
「それともーーもう見つかったかしら?」
にっこり笑うその顔は、寒気が走るほど迫力があった。
「……見つかってない、ですね」
その威力に圧倒されながらも、目を逸らさずに声を振り絞った。
怪しいのは、いるけど。
でも確証はないから。
嘘ーーでは、ギリギリないだろう。
「なーんだつまんないの。もうつまみ食いできる魂なくなっちゃったから、祭りまでの暇つぶしに食べたかったのに」
私の覚悟とは裏腹に。
女神様は、けろっと言ってのけた。
「あー……『海送り』、もう少しですもんね」
「そうよ? だからもう今手持ちがなくてねぇ」
「食べ物みたいになってる……」
軽やかになった空気にホッとして、肩の力を抜いた。
「ま、食べる事で綺麗に戻してるから。それにちょっと興味あるのよねぇ。擬似魂はまだ食べたことないもの」
ぺろりと、真っ赤な舌が形の良い唇をなぞる。
「……擬似魂?」
なんでここで?
「あぁ。擬似魂の成り立ちは知ってるんでしょ?」
「まぁ……魔獣が魔力で生み出すものだとは」
魔獣は魔力でできた生物のようなもの。
魂を持たず、それ故に魔力を生み出せない。
だから魔力を求めて、人を襲う。
魂には、魔力を生み出す力があるから。
けれど、それを魔力で補ったーー偽物の魂を、擬似魂と呼ぶ、はずだ。
人には、関係なかったんじゃ?
「魔力で作れるなら、人にだって作れるでしょう? 普通は必要ないから、作らないだけで」
妖艶に微笑む女神様はーーとても楽しそうだ。
あ、やっぱ人間じゃないわ。
言いたいことはわかった。
黒魔術の儀式はーーその魔力集めも含めてるものなのか。
光と闇は、相反するから。
通常、2つ同時には持てない。
つまり、1つの魂には持てないというだけ。
「1つの体に、2つの魂を入れるなんて。神でも考えないわよ。人間って面白いわよね」
悪びれるでもなく。
女神様は、クスリと笑った。
お疲れ様でした!
これにて感謝祭終了です!
楽しんでいただけていたら幸いです!
話は中途半端ですが!
こちらはまた水曜日に!
お付き合いありがとうございましたー!




