33話 駆除されないように無害アピールします
「先程はご挨拶が遅れまして、大変失礼いたしました。ご存知のようですが私は、クリスティア・シンビジウムと申します。隣におりますのは私の愚弟、セスでございます」
心配だから先に名前言っちゃったけど、大丈夫よね? ヘマしてくれるなよ弟よ……。
そう心の中で思いながら、セツを見守る。
「アルバート様は久方ぶりですが……セス・シンビジウムと申します。本日はよろしくお願い致します」
おー! 我が弟から聞いた事もない、丁寧な言葉が!
やればできるじゃん!
まぁちょっと表情かたいけど!
お姉ちゃん感激ですよ!
ってあれ、アルバート王子の時も言ってたっけ?
うーん、でもなんか小さい時から知ってるから、一々感動しちゃうのは姉の性分だよね。
「恐れ入ります。本日クリスティア嬢のお誘いを頂きまして、ご相伴に与りましたブランドン・ライラックと申します。どうぞよろしくお願い申し上げます」
そう言ってブランはにっこり快活な、人の良い笑みを向けた。
おお……。
さすがお兄ちゃん。
私達より丁寧にご挨拶を……。
まぁ忘れたわけじゃないのだけれど、相手は王子と現宰相の息子だものね。これくらいが普通なのかな。
しっかし、この歳の子たちってレベル高い。
転生してなかったらアウトだったわぁー。
基本の水準がインフレしすぎよね。こわい。
人は周りが賢いと自分のことが見えなくなると、後に学ぶものの。
この時はただただ、『やばい私も頑張んないと、置いていかれてしまう』という、焦る気持ちしかなかったのであった。
「こちらからの誘いにのって頂き、ありがとうございます。王太子でクリスティア嬢の婚約者の、アルバート・カサブランカです。今日はよろしくお願いしますね。そしてこちらは」
王子がサラッと挨拶すると、視線を隣に移した。それを受けて、彼も少し固くなりながらも続く。
「……ヴィンセント・ローザです。殿下とは既知の友ではございますが、今回皆様のお邪魔は致しませんのでご安心を」
さすがいつも通り輝いているアルバート王子ね。
でもなんでわざわざね?
許婚アピールしちゃったのかな?
立場的になの?
そしてさっきの口調からは考えられない、落ち着いた雰囲気で返したヴィンセントよ。この変わりようが私は怖いです。
6歳にしてこの探るような視線……ここの対応で転けたら、転けるどころか人生転落死しそうです。
だからヴィンセントの扱いには気を付けなきゃいけないんですけど。
もう間違えてるんですよねー。うふふー。
はぁ。私にできるのは、とにかく無害ですアピールだけだわ。そう思いなんとか笑顔を作って、声をかける。
「ローザ様はなにか、この後御用がお有りでいらっしゃいますか? お暇がございましたら是非、先程のお話の続きをさせて頂きたいのですが……」
しかしその言葉に、目的の人物より先に王子が反応した。
「ヴィス、いつの間にクリスティア嬢と仲良くなったんですか? 少し目を離した隙に」
「いえ、それほど……ですが私もクリスティア嬢には興味がございますね」
アルバート王子の驚きの顔に、明らかになに言ってんだこいつ、という視線を向けつつ対応してくるヴィンセント。
でもまぁ、興味持ってもらえたならいいか!
私は前向きなのでね!
いや将来の同僚とは仲良くしたいからさ‼︎
しかし話振ったはいいけど、セツとブランがいるところでするものでもないよな……うーん。
「あぁそうだわブラン、申し訳ないのだけれど私喉が乾いてしまったの。セツと飲み物を取ってきてくれないかしら?」
そう公爵令嬢らしく、お上品に告げてみる。
ええい困ったらお兄ちゃんにおねだりだよ!
おまけにウィンクもつけておくわ!
今だけ可愛いご令嬢ぶるのよー!
「は? なにいってんのくーね……」
「分かったよ。ほら、僕だけじゃ全員分持ってこれないから、セス君手伝って!」
訳が分かってない子牛が、ドナドナされてったところで、2人に向き直る。
ブランに感謝してくれたまえよ、セツくん。
君がカッコ付けで、人前ではクリスティアとしか呼ばないのにさ。ボロが出てたところを、たまたまドナドナで救ってくれたぞ。
まぁそのボロ出させた原因、私なんですけど!
「アルバート王子、恐縮ですがどこか人払いの出来る場所は御座いませんか?」
にこりと淑女然に微笑んで、王子に促す。
子牛が帰ってくる前にお話を終わらせないとね!




