330話 大いなる誤解 (挿絵)
「あーほらほら泣かないのー! まぁ今度から私も気合いで堪えるから!」
「……それ、は……ムリですけど」
「泣きながら否定はすんのね⁉︎」
心配してるのに、否定はしてくるあたりレイ君だよね⁉︎ ……まぁ元気でなによりですけど。
ちょっと落ち着いてきたらしい。上げた顔は不服そうだ。でも涙が溜まった瞳がキラキラしてて、顔面偏差値がやたらと高かった。
え、この子目が宝石でできてない?
目、おっきすぎない?
あと不満顔が割とグッとくる。
最後のはただの変態みたいになってるけど……私、ツンデレの時のレイナーが推しだったので、許して欲しい……。
「……惜しい事しました」
「うん?」
体を離しながら、むーっとした顔でそう言う。何よ、まだご不満をお持ちですかね?
「もっと早く自覚してれば、オレも頑張ったのになぁ……好きですよ、クリスちゃん」
「え? うん、ありがとう?」
ガタガタガタッッ‼︎
何故か、周りからすごい音が響き渡った。
「え、何みんなどうしたの?」
びっくりして部屋を見渡すと。
紅茶を床に溢したり。
飲み込もうとしてむせたり。
膝をテーブル打ち付けて悶えてたり……。
とにかく大惨事だった。
「お、お姉様……今の意味、お分かりですの?」
「ん? 好きって言った事? 私もレイ君好きだよ?」
「そ、それはどういう……」
そういうリリちゃんは、頬杖から滑り落ちてた。なんでそんな、驚愕の表情なの?
「え、うーん……黙ってきてたけど、私まずレイ君の顔が好きなんだよねぇ」
「は?」
頬に手を当ててしみじみと言うと。今度はそのお兄様の方から、威圧を感じさせる声が漏れた。
いや待って。
誤解解くから待って。
顔は好きなの嘘じゃないけど。
「いやごめん……レイ君は可愛いって言われるの嫌だと思うけど。でも可愛いじゃない?」
「……クリスちゃんって、ほんと可愛いもの好きですよね……」
顔に提言しすぎて、本人からも白い目が向いた。ちょ、待ってってば!
「いや! ちゃんと中身も好きだから‼︎ 無邪気なところ、面倒くさい時もあるけど可愛いと思うし‼︎」
「いつもは、とても可愛いと思ってる顔してないけどな」
「セツは黙ってて‼︎」
こんな時でもうちの弟が通常運転すぎる!
ちょっと空気読んでなさいよ!
「それに興味があると、一直線に頑張るところがすごいし」
「それで迷惑も被るけどな」
「セツは邪魔しないでよ!」
「いや代弁してるだけだから」
その代弁邪魔なんですけど⁉︎
「まぁその……純粋さがいいとこだと思うし」
「コレが純粋はないわー」
「ちょっと一回殴ってくる」
あんのちゃちゃいれ星人めー‼︎
笑顔で拳を固め立ち上がろうとしたら、何故かノア君に腕を掴まれ止められた。そして首を振って止めろとジェスチャーされる。
「……ふっ」
その様子に、レイ君が笑い出した。
「ふふふ……はぁー残念ですねぇ。ここまで意識されないと、いっそ清々しいですけど」
「え、だってそういう意味じゃなかったじゃない」
色恋的な、甘さなどない「好き」だった。
例えるなら、果汁100%みたいな。
絞っただけで、砂糖のない感じ。
煮詰めてもいなくて、熟成も何もない。手を加えていない、感じたままを口に出した言葉。
だからサラッと、言えてしまうのだ。
しかし私の発言に、レイ君は一瞬視線を外し。そしてすぐに、戻ってきてにっと笑う。
「まぁそういうとこが好きですけど」
「うん、ありがとう。弟の暴言も許してね?」
「あーあれはあとで、実験に付き合わせるんでいいです」
「えっ」
セツの顔を見なくても分かるくらい、嫌そうな声が聞こえた。
……まぁいいか。
これで仲直りしたらいいよ。
多分ちゃちゃいれも、本人と話せないから。間接的に加わりたかっただけだろうし。
そういうあたりが、まだ子供だ。
謝ればいいのに。
カッコつけようとするからいけないのよ。
「……とりあえず殿下は、これで一安心しましたー?」
何故かレイ君は、そのまま話をアルに振った。なんでアルが安心するのよ?
「……むしろ脅威なんですが?」
「え、話聞いてましたよね?」
「レイナーの顔が好みという話は聞いてましたね」
アルの方を向くと、とてもジト目で見られていた。
え、えぇ……?
いや好みだけど。
レイ君はさすがにそういう目で見ないよ?
あくまで、元推しってだけなんだけどね?
「お兄様……違いますのよ」
今度はなんだと思ったら。
「お姉様が好きなのは、可愛い顔ですのよ‼︎」
満面の笑みのリリちゃんがいた。
「つまり私のことは大好きですのよね⁉︎」
「ん⁉︎ うん、まぁ別に顔だけ好きなわけでは……」
「大好きですのよねっ⁉︎」
有無を言わせてくれませぬ。
仕方がないので、首を縦に振る。
まぁ、好きだよ?
リリちゃんは美しくも可愛い系だもんね。
あぁ、そういう意味じゃレイ君系だね。
私の反応に、リリちゃんは満足そうだ。それでいいの……?
「う……羨ましいです……!」
その様子を見ていたリリちゃんの隣から、声が上がる。
「え、フィーちゃんも可愛いでしょ? 何言ってるの?」
「えっ合格ですか⁉︎」
「待って。なんの試験してるの?」
まるで私が、顔しか見てないみたいなんですけど⁉︎
大いなる誤解である。
そりゃ可愛い方がいいけどさ!
内側から滲み出るものってあるでしょ⁉︎
「お姉様、ここは公平な判断が必要ですのよ」
「だからなんの……」
「お姉様の好みのお顔のタイプですの!」
え、えぇー……。
とりあえず面倒なので。レイ君とリリちゃんを1番にして、フィーちゃんを特別枠にしておいた。
喜ぶ3人が可愛かったので。
とりあえずいいことにした。
可愛いは正義である。
なんかセツとレイ君以外の、男性陣の落胆がすごかったんだけど……。私顔だけ星人じゃないよ?
盛大な誤解を抱えたまま、時間は過ぎていった。




