318話 純粋でも許されない
「はぁ、レイ君の予想通りだね……」
「当然ですよブラン君! はい皆さんも! フォーメーションB行きますよー! 気を引き締めて‼︎ ほらセスいったいった!」
「はー。ダルいけど。やるか仕方ねぇなぁ」
「私もサポートしますよ。早く終わらせましょう」
「殿下もみなさんも、何かあったら私の所に来てくださいねっ‼︎ 治療しますから‼︎」
みんな和やかそうに。
まるでいつものようにしゃべっているが。
その間にも、どかどかと火の玉は降り注ぐ。
そんな襲いくる火の玉を躱しながら、各自次の行動へ移っていく。
私だけが時が止まったように。
茫然と固まっていた。
え、あれでダメなの……?
目の前に見える火玉製造機は、黒曜石のような鱗に1つの傷さえ見えなかった。
「クロ! 分身できます? できたらそのまま殿下たち拾ってください。クリスちゃん固まっちゃってるんで」
「キュルルッ」
私が動かなくても。
クロはレイ君のいう事を聞くし。
てかなにそれ、今分身って言った?
「殿下、セス君! 受け取って‼︎ とりあえずのその場しのぎですけど‼︎」
「うぉっと。え、剣じゃん。マジ羨ましいんだけど土魔法」
「こんな場でもなければ、王子に剣なんて投げたら決闘ですよ」
「後でなら、僕も全然引き受けますけどね!」
ブランは剣を地面から出して。
セスとアルに、ぽいぽいっと投げた。
ひやっとしたけど2人とも平然と受け取る。
……なんか動画みたいだ。
全部嘘なんじゃないかと思えるくらい。
立体映像みたいにさえ思える。
よくそんな、軽口とか言えるなぁって。
さっきまで頑張ってた私のあれ、無駄だったんじゃないかなぁ……。余裕なくて焦ってばっかで、なーんにもできなかったし……。
無性に、置いてけぼりの気分だ。
「クリスちゃんはオレたちと一緒に、一回こっちに!」
「えっ」
「ぼーっとしてちゃダメです! 端に寄りますよ‼︎」
しかしいきなり現実に、引き戻された。
レイ君に声をかけられて。
フィーちゃんに腕を掴まれて。
引っ張られるがままに、ずるずると走らされる。ちょ、速いはやい! 加速使うなら言ってってば‼︎
『待て小娘、お前から……!』
「はいはい。弟のオレが姉の尻拭いで、遊んでやるから我慢しろよな!」
バリバリバリッッッ!!!
まるで何かが破けるような音は、雷の音だったらしい。
『くっ……邪魔だ小童!!!』
「そりゃそうだ。邪魔してんだから」
『おのれぇ……!』
「あーもうセス君! ヘイト稼ぎしすぎないでってば‼︎」
ガキンッガキンガキンッッ!
ザシュッッ!!!
自ら剣を振りながらも、針のように鋭い鋼鉄がドラゴンに襲いかかる。
『ぐっ……! 一番厄介な土使いめ! 我が名を——』
「風凪」
キン…………ッ!!
一瞬の静寂は、当然作為的なもので。そして、ドラゴンの言葉を遮った。
「あと、後ろがガラ空きですよ」
『き、キサマいつの間に……ッ⁉︎』
燃え盛る炎の渦は、空高く躍り出て。
ひとつの生き物のように、口を開く。
「うわこわ。めっちゃ王子怒ってんじゃん。やべー。そりゃあんだけ目立つのに忘れ去られたら怒るよなぁ。最初に殺しに来たくせにさー」
「……違うと思うよ、セス君」
巻き込まれないよう、距離を取った2人。
空を舞う怪物のようなーー圧巻の炎の竜を見上げながら。
そして、それがドラゴンに食いかかっていくのを見つめながら。
そんな、とんちんかんで戦場とは思えぬやりとりをしていた。
「あはは! やりますねぇ殿下っ‼︎ あー、今じゃなければ記録取るのにー‼︎」
「後にしようねっ⁉︎ いや私もびっくりしたけど!」
「そうですよ! ゲンティアナ様! 作戦会議が先です‼︎」
すごく楽しそうに。
まるで巨大怪獣映画を見て。
目を輝かす子供のような表情で。
食い入るように見つめているレイ君を、私とフィーちゃんで説得する。話逸れまくりだよ知ってた‼︎
「はぁ……そうですね。仕方ないですね。話に戻りますね?」
「いや、ここまで自分で連れてきたくせに。なんでイヤイヤなのよ……」
それどころか、聞けばこの作戦を考えているのもレイ君らしいのに。どこに行くのかと思ったら、なるべく離れるのが目的だったらしい。フィールドの端に寄って、私たちは小さく固まっていた。
「とりあえず作戦会議」ーーよくわからないが、そういう事らしい。
急にやれやれ、みたいな顔をしている。
そんなレイ君を。
半目で見つめながら突っ込んだ。
ジュッ!!
こんな感じだが、降ってくる火の玉は片っ端から水魔法で消してくれている。今も横に迫っていた火の玉を、目も向けず消した。
……これが正しい水魔法。
そして天才のやり方って事ですね……。
正論を言っているはずの、しょぼい水魔法しか使えない私はしょげた。
「り、リスティちゃん! 大丈夫です! リスティちゃんには闇魔法がありますから‼︎」
「そうですよー? これ座標割り出してから使わないと、魔力消費激しいですからね。頭使います。それがいらない闇魔法、羨ましいです」
「それはフォローなのかな……?」
私が凹んだのを察知してくれて。握り拳を可愛く目の前で構えている、フィーちゃんはともかく。
レイ君のそれ!
私が頭悪いって言ってるね?
……まぁその通りなんだよなぁ⁉︎
私の心は、さらにやさぐれた。フィーちゃんだけがあわあわしている。
「ところで、なんでさっきやられかけてたんですか? クリスちゃんなら倒せそうですけどね、アレ」
良くも悪くも、空気は読まず。
そして雰囲気にも流されず。
観察眼だけ持った彼は、率直に聞いてきた。
その純粋な瞳には、真実しか映らない。変な力が抜けて、ふっと笑ってしまう。
「……危ないとか、倒せなさそうとか言わないのね」
「ま、クリスちゃんに無理なら、みんな無理でしょう。どれだけ運動神経がなくても、ありあまる力ですからねー」
しかし一言余計だ!
さっきまでちょっと感心してたのに!
サラッと! ニコニコしながら!
全部壊していくんだけどこの子っ‼︎
そりゃあ運動神経壊滅的ですけどもー⁉︎
フィーちゃんだけが「ち、違います違います! 褒めてるつもりなんです‼︎」と、フォローをしていた。フィーは良い子だよ全く……。




