316話 知っていても、信じていても
「うぅ……もう怖いから、一か八かで消しちゃおうかな……」
そう呟いたら、「ギュルルッ」と鳴いたクロがわざとらしく上下に揺れた。慌てて掴まりそれどころじゃなくなった。
ひぃ! こっこわ!
ちょ、今の急いで掴まんなかったら!
落ちてた! 落ちてたよクロさん⁉︎
「クロ! 私高いとこダメなんだけどっ⁉︎」
「……キュルルル」
「今絶対『知ってますけど?』って言ったね⁉︎」
チラッと見た目が冷たかった!
あれー⁉︎ 私君のご主人様なんだけど⁉︎
いつも魔力あげてるの私だぞ⁉︎
しかしそんな文句は口に出す前に。ブンッという音をよけるために急降下したクロにより塞がれた。
「⁉︎ えっな、こわっ……てか尻尾⁉︎」
胃がひゅっとなって、一瞬声が出なかったものの。ぎこちなく動かした顔で、通り過ぎたものをみれば——それはドラゴンの尻尾だった。
『チッ……ちょこまかと小蝿が動きおって……』
「あ、ドラゴン舌打ちするんだ……」
『小娘風情が……我を愚弄する気か……?』
ギラリ……と細められた赤眼が、こちらをロックオンした。
ええー! ち、違うんですけど⁉︎
今のは単なる独り言でね⁉︎
舌打ちできるんだなぁっていう感想……。
『たわけ者がぁ……‼︎』
「ぎゅわぁっ⁉︎」
「キュイッ」
あろう事か跳び上がったドラゴンが、こっちに突っ込んできた!
咄嗟に目を瞑る!
体が横に揺れ、必死にクロに抱きついた!
ズズーーーーン!!!
……ガラガラガラガラ
体が揺られ揺られ、もうちょっと方向感覚がなくなってるけど……今の音は、後ろか……?
目をそっと開けると。
こちらを振り返りながら悔しそうに見る、ドラゴンが映った。
『……これだから小蝿は』
よく見ればその背後には、何メートルにも及ぶ爪の形に割かれている柱ーーうわぁぁぁぁっ⁉︎
「クロ偉い! めっちゃ偉いっ‼︎ 避けてくれてありがとう‼︎ 後でご褒美だね⁉︎」
「……キュルル」
興奮する私とは逆に。その声は「いや、まだ終わりじゃないから」と言いたげに、低く小さい声だっだ。なんか言いたい事わかってきた。
とりあえず撫でとこう!
「キュ……」
『失せろ!!!!!』
ゴォォォォォォッッ!!!!
ひぇ⁉︎
うちの子がなんか言いかけてたのに‼︎
火柱を旋回して避けるクロにしがみつき、私はぐわんぐわん体を揺らす。されるがままだ。
「あーもう好き勝手やってくれちゃって! 火柱なしなし‼︎」
とりあえず邪魔な火柱は消そうとしたら。
バシュ!!!!
「⁉︎」
空気の破裂音ような音が響き……銀の光は、金の光に弾かれた。
「えっなん……どわぁぁぁ⁉︎」
当然その間もドラゴンは噛みつきにかかる。
避けるクロにぐわんぐわん揺られ、思考はまとまらない。
ズザザザッと聞こえる音を聞きながら、ヤバい私バトル向いてない……と悟る。
『人間風情が……大人しく喰われれば良いものを……』
「ドラゴン蝿食べんの⁉︎」
そんな疑問の言葉に。
しばしの沈黙のうち。
『こんの……口減らずな小娘がぁぁぁぁ!!!!!!』
「ひぃー! だってさっき小蝿って言ってたからーっっ!」
ドドドドドドドドッッッ!!!!!
火柱上がる中、さらに火の玉の雨まで降り始めた! 地獄かっ⁉︎
「お、お口にチャック……!」
パシュン!!!!!
「っ! やっぱなんか使ってんのかぁ‼︎」
ひゅんひゅんと飛ぶ、火の粉を避けながら。
いや避けてんのはクロだけど!
しがみつきながら叫んだ。
せめて火の玉を出す口を閉じてしまおうとしたが、やはり何かに消されている。
闇の魔法を消す、金の光なんて。
答えはひとつだ。
「あー! どうしよ魔法届かないのか‼︎」
使っても消されちゃうんじゃ、どうしようもない!
せめてと思って。
あのフードを被った黒い影を探すが。
「そりゃいないよねー⁉︎」
少なくともぐわんぐわん揺れながら、方向感覚も狂った動体視力もナシ人間じゃムリッッ‼︎
だってすごい攻撃の嵐なのー!
無理だよー!
しがみついてるので精一杯だよー!
バシュ!!!!
「キュッ」
「⁉︎ クロッ⁉︎」
一瞬嫌な……炎が当たって、焦げる音がした。
しかしスライムなクロは、羽先を黒く溶かしてしゅるんっと元に戻した。
心臓、ばくばくである。
「えっえっクロだいじょ……」
「ギュルルルル‼︎」
すごい冷や汗かいたのに、クロの返答は怒ってるような声だった。……多分「スライムだから問題ない!」とかそんな感じ。
スライムの体はゼリー状だが、あれは魔力で作られている。擬態の際も変わらない。
だから、魔力さえあればすぐ治るけど。
いや、わかってるけど。
わかってるけど、心配するよぉ‼︎
クロがスライムで良かったとは思ったけど‼︎
『チッ……貴様もスライムだとはな。どうりで体表色がおかしいとは思っておったが……擬似魂を持ちながら、人間風情に下るとは』
ドラゴンが話し出したので、一旦火の雨が止む……が、その代わり火柱が噴水のように飛んでくる。おい! 話す時くらい止めろ!
しかしそんなこと思えるのは心の中だけ。
現実はひーひー言いながらしがみついてる。
うるさいわ! 私一応お嬢様(仮)なのよ⁉︎
と、心の中で見えない他者と闘っていたら。
「あ、やっぱり擬似魂持ちでしたかー。クロはありがたいけど、ドラゴンは厄介ですねー。うまく生け取りできればいいんですけど」
そう、気の抜ける声が聞こえて。
下の方を見るーー前に。
『ぐッ⁉︎ なんじゃこの鬱陶しいのはッ‼︎』
そう唸るドラゴンの体には、硬く太い蔦が巻き付き始めている。
ジュワッッッという音に振り返れば、火柱が一部消えていて。その水はドラゴンにもかかりーーバチバチバチッと電気が通る。
……これは。
さらには……ドラゴンごと燃やすように。
ゴオォォオオオオォォォォォオォ!!!!!
巨大なーー先程と比べ物にならない火柱が上がった。うっわぁ……えげつない……。
巨大キャンプファイヤーを、呆然と眺め。
疑いは確信に変わり。
やっと、声のした方を見た。
「……遅いよ、みんな」
文句を言いながらも微笑んで、そのままちょっとうるっときてしまう。
そこには、探しに行った2人とーー行方不明の3人がいた。
予約投稿しようとして間違えて投稿しました(本来更新水曜日)
えへへ!ごめんね!
……以後このようなことがないように致します!
というわけでお詫びに(?)
日曜に感謝祭を実施します。
連続投稿を予定しております!
最低3話は投稿しますので、もしよろしければお付き合いください。かしこ!




