表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/533

31話 踏み分けたくない

「あー行きたくない」

「第一声がそれかよ……」


 呆れ顔で言われるが、渋る気持ちは抑えられない。


 Q.問題です。本日はなんの日でしょうか。

 A.海送りです。


 風に薫る潮の匂い。

 綿菓子雲浮かぶ青い空。

 耳をすませば穏やかな小波の音。


 そして憂鬱全開の私!


 合わない。見事に噛み合わない。


「行かなくてもいいはずだった、こっちの身にもなって欲しいよね。誰のせいで朝から準備してたと?」

「私です……」


 右側が煩い。あぁ弟よ。そりゃ分かってるよ。悪かったよ。


「でもほら敵前逃亡はしない主義だし、当たって砕けろ精神は持ってるから大丈夫……」

「まず何が敵かわかんねぇ上に、俺まで巻き込んで砕けないでくれますかねぇ?」


 不満ぶうぶうである。


 いいじゃん?

 言うて君の敵は海だけじゃん?

 私は……。


「どうしよう。間違えて眩しすぎる、キラキラな顔面殴りたくなったら」

「殴ったら不敬罪だからやめろ」


 ストレスを行動で発散しようとする私の発言に、ぶっきらぼうにストップが掛かりました。


 しかたないですね。

 では現実逃避がてら。

 今日の海送りについて復習しますか。



 海送りは、王都より馬車で1時間ほどの距離にあるここ、クトゥルシア港沿いで行われる。



 死者の魂を海に返すことが目的だが、弔いと帰る場所が分かるようにする意味も込めて、海沿いで屋台を並べ、踊りや歌が行われるのが風習になっている。


 なんでも。


 ちゃんと海に戻らない、未練のある魂が残ってしまうと。海からタコの足が伸びてきて、暴れ回って回収していくらしい。


 その被害が凄まじいので、自分から帰ってもらわないと困るのだそうで……。


 それ魂食べられてない?

 大丈夫?

 異世界こわいですね。



 そのため、この海沿いはプチお祭り状態です。



 海送りの儀式の近場になるほど、貴族用のやたらめったらデカい待合室テントとか、上層好みの料理が増える。


 だけど今日この場には身分により、行けない場所は一応ないとされる。数少ない、身分差なしの交流の場だ。



 まぁ、建前だよね。これ。



 実際今いるこのテントも、ちょっと先にあるさらに大きいテントも……テントというか、もう建物みたいな大きさなんだけど。


 テーブルがいくつもある立食形式の食事で、中には貴族が話に花を咲かせてるわけですよ。


 ここに庶民入ってこれる?

 どう考えても無理です!

 これ、パーティーだよね?


 貴族は大体ここから出ないで、儀式までの時間を過ごすらしい。


 この儀式を主として大々的に取り扱うのは。

 王族なわけでして……。

 あとはわかるな? という事です。



 そりゃ利益性の少ない庶民となんか絡まずに、王族に媚びる社交場になるよね。



 王族も自分たちのテントがあるから、いつでもいるわけじゃないけどさ。あぁ、だからセスのお父さん達もいるよ。有力貴族はいないわけがないよ。


 だけどデビュタント前である18歳以下の子供は、正式なテント(?)には入れない。社交界デビューしてないからね。


 その子たち用の社交テントがあって、そこでお留守番です。


 つまりそれがここです。

 ここも賑わってますよー。

 あのキラキラのおかげでね!


 そのキラキラ……アルバート王子は少し離れたところで爽やかに。それはもう爽やかに、満面の笑みを浮かべている。


 海より爽やかだ。

 女の子ホイホイだ。

 彼の笑顔は、宝石でできた花かな?


 何カラットでしょう? 花の笑みとはよく言ったもの。その甘い蜜にさぞや胡蝶が寄ってこようぞ。



 そんなのの隣に行くんですか?

 え? ほんとに?

 冗談キツいですわー。



 甘かったよね。多分私の考えは、角砂糖を口に5個詰め込んだくらい甘かったよね。


 海しか考えてなかったよね。いやいつも2人とか、知り合いのいる場でしか会わなかったからさ、盲点じゃない?


 こんなしょっぱさはいらない。


 甘いものとしょっぱいものを交互に食べれば、無限ループできるって言ってた人、無理だよ。


 胃もたれだよ?

 何もしてないのに口の中がさぁ?

 もうジャリジャリしてきた気分だよ?


「よく考えたら忘れてたけど、王子イケメンだもんね。あれの隣に……行けというの……?」


 胡蝶に囲まれた煌びやかな花を……ていうか異空間の花園を、遠目に見つめながら言った。


 海にも花園ってあったんだなって思いながら、単騎出陣の意思が固まらないまま早5分。


 あれを踏み荒らせとな?


 いやね、本当は同じ馬車で行きましょうと言われたけど。不仲感がでないし……。え? もう手遅れな気もする?


 いやいやまだね!

 まだほらこの歳だから!

 何があるか分からないからね!


 そしてそれ何より、私が気持ち的に心苦しいので、丁重にお断り申し上げた。


 いや考えてよ。王子はタクシーじゃないんだよ。

 いずれ上司になるのよ。

 迎えにきてもらうとか無理じゃん?



 それに……。



「……あの一部になりたくない……」

「ならないでしょ。婚約者なんでしょ?」


 今度は優しいお兄ちゃんの声が左から。


 あぁ。どこまでも噛み合わない。


 そこに混ざりたいわけじゃないのよ、お兄ちゃん……甘い蜜の良さなんて分からないでいたい。


「まぁ1人が大変なら、とりあえず3人で挨拶に行こうね? あれ多分、気付いて待ってると思うよ?」


 その声の方へ顔を向ける。声の主はブランだ。


 今日は一段と決まってるね。

 この世界のオシャレは基本厚着です。

 暑そうだよ。


 でも言わないよ。お洒落は我慢って、前世でお母さんが言ってた。私は遠慮したいなー?


「つーかいつまで尻込みしてんの。どっちにしても、最初に声かけるのは姉ちゃんでしょ。そんなになるなら、馬車乗せてもらって行けばよかったのに」


 このさっきから減らず口をたたく方は、私の弟セスである。姉の苦労、弟知らず。


「いやぁあんなの荒らして入って行ったら、自然愛護団体に抗議されるしー!」

「例えが遠回しすぎてツッコミに困るわ。つーかあれ人工花壇だから愛護もなにねぇから!」

「いやむしろ人が作ってるっていう意味では人造花壇……」

「いいからいけって!」


 姉弟間でしか伝わらない、微妙なボケツッコミに訳がわからず、きょとんとしているブランを置いて。のろのろと歩を進め出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*企画ありがとうございました!*
i583200

*短編悪役令嬢*
流星の如く輝く没落を!〜悪役令嬢はざまぁフラグ貯金でクソゲーを改変したい〜

*こっちは学園物です*
BLACKCAT SYNDROMEー黒猫症候群ー

参加しています。よろしくお願いします!
小説家になろう 勝手にランキング

cont_access.php?citi_cont_id=289234961&s
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ