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フラグ回収から始まる悪役令嬢はハッピーエンドが見えない〜弟まで巻きこまないでください〜  作者: 空野 奏多
悪役令嬢、物語に挑む〜ゲームの舞台もフラグだらけです〜
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315話 手品のようにはいきません (挿絵)

「なん……で……」




『グルルルルァアァアァァァァア‼︎』




「っ‼︎」


 一瞬目の前の光景に釘付けで止まったが、つんざくような咆哮に、顔を顰め耳を押さえた。



挿絵(By みてみん)



 やばいやばいやばい‼︎

 なんで今いるのよっ⁉︎

 ていうか、みんなはっっ⁉︎



 辺りを見回して逃げる人たちの中、立ち止まっていた知っている姿を見つける。


 ヴィンスとリリちゃん‼︎


「ふたりともっ! 大丈夫っ⁉︎」


 心配して、声をかけながら駆け寄るが。


「だーーかーーらーーーー‼︎ 私も行くって言ってるんですのよっっ! この分からず屋っ‼︎」

「そんな真似させられるわけないと、こっちも言ってるじゃないですかっ‼︎ 早く逃げてください馬鹿なんですか⁉︎」

「あなたお兄様を置いてけって言うんですのっ⁉︎ それこそ馬鹿ですのよっっっ‼︎」


 え、えーと……。



 2人がまさに修羅場っていう感じで、言い争っていた。綱引きのように、腕を引きながら。



 戸惑って、ある意味ちょっと冷静になった。


「あのー……」

「あっお姉様! このボンクラを説得してくださいませ! この状況で逃げろとか言うんですのよっっ‼︎」

「この状況だから言うんですが⁉︎ わかってるんですか、アルバの姿が見えないんですよ⁉︎ 姫様までいかせられるわけないだろっっ‼︎」


 2人の鬼気迫る形相に、むしろこっちがたじろいだ、が。



「待って、アルいないのっ⁉︎」

「アルバどころか3人ともいないですよ‼︎」

「っ⁉︎」




 肝が冷えた。

 肝どころか、心臓が止まりかけた。




 そう聞いたからには確かめようと、フィールドへ走ろうとするが。



「お姉様! 危ないですのよっ‼︎」

「お前まで行くな馬鹿っ‼︎」



 2人に腕を掴まれて捕まった。



「ちょっと! 止めないで2人とも‼︎」

「ダメですのよ! お姉様にまで何かあったら、(わたくし)死にますわっっ‼︎」

「今レイがラナンキュラス嬢を連れて、下に確認に行ってる‼︎ いいからここは一旦引くぞっ‼︎」


 こうしてる間にも、ドラゴンは暴れている音は響いている――だから言い返そうと、振り向いて。


 必死に泣きながら止めるリリちゃんと、奥歯を噛み締めて眉間の皺が酷くなってるヴィンスが、目に入った。


 ……抵抗を、一旦やめた。



「……でもこのままだと危ないの変わらない、よね?」



 見ていられなくて、ちょっと視線をそらしながら言う。


「そのうち王国の兵士が来る……」

「そんなの待ってられないですのよ!」

「じゃあお前、どうしろってんだよっ‼︎ オレたち魔力すっからかんの役立たずなんだぞっ⁉︎」


 言ってから、ヴィンスはハッとして口を押さえた。リリちゃんも気付いたように、悔しげに下を向く。



 そうだ、それもあった。みんな演技のせいでーーほとんど魔力残ってないのか……!




「ってそれレイ君たちもダメじゃないのっ!」

「わかってる! わかってるけど、誰かが探しに行かないと……あぁクソッなんで今なんだよ‼︎」



 前髪をぐしゃっと掴んだ、その様子からも苛立ちが滲む。


 本当はヴィンスも探しに行きたいのだろう。でもリリちゃんを放っては置けないから、ここで止めている……万が一もあるし。



 みんなが万全なら。

 きっと、なんとかなった。

 けどドラゴンはそこをずらして現れた。



 狙いすましたように……狙いすまし?



 黒い人影が、頭をよぎる。


「……ねぇ聞いて2人とも。私なら多分どうにかできるから」


 目を瞑り、大きく息を吐いてから。

 真剣な表情で、2人に語りかける。

 その顔を、目を、しっかり見つめて。


「ヴィンスは覚えてるでしょう。私が昔スライムをうさぎにしたの」

「……え、お前まさか……」

「いけるいける。多分ね。まぁ試してみないとだけど……」


 うんうん、と頷きながら神妙に語っているのに、微妙な顔をされる。え、なんでよ?


「いや……あの大きさの、他の生き物とかいないだろ……」


 あ、なるほど。

 またうさぎにすると思ったのね?

 いやするわけないでしょ。


「失礼ね。あの時はうさぎならまだ誤魔化せるかと思ったから、うさぎにしただけですけど!」

「誤魔化せなかったけどな……」

「うるさい!」


 その残念な顔やめろ!

 というか、今はそこじゃないでしょ‼︎



「誤魔化す必要なければ、消してたのよ! 消せるの! わかる? だから巨大生物生み出したりしないから‼︎」



 ちょっと怒ってそういうと、2人とも不可解なものを見る目になった。あれー?


「……質量保存とかどうなってんだ?」

「お姉様が非常識なのは、今更ですけれど……」


 お? リリちゃん結構ひどいぞー?


「まぁ消す方が魔力使うけどね! ……あとドラゴンがどれだけ魔力持ってるかにもよる。 それ把握してからじゃないと、私が死ぬ」


 と、言った途端に2人の表情が変わる。

 あ、やべ。地雷ついたわ。


「バカか! そんなことさせられる訳ねぇだろっっ‼︎」

「そうですのよ! それはいつぞやと同じではないですのっ! あれだってノアがいなきゃ、どうなってたか……って、ノアはどこですの?」


 はた、と気付いたリリちゃん。ヴィンスは目を逸らしたから、心配させないようにわざと言ってなかったなこれ。


「あー……えっと、私多分見たんだけど。ちゃんと避難してたと思うから、大丈夫!」


 避難と言えば避難だ……鏡の中に入ろうが。

 少なくともここにはいないし。

 なので一瞬考えた後、笑ってそう言った。


「なら……いいのですけれど」

「そうですよ姫様。ですから一緒に避難を……」

「今更取り繕っても遅いですのよ、ヴィンセント」


 一応頷いたリリちゃんに、畳みかけようとするも睨まれて終わっている。それにはヴィンスも苦笑いでしかない。


 うんまぁ、さっきどさくさでお前、とかも言っちゃったもんね……。


「とにかく私が消せば……」

「いいから2人とも来いって」


 あーもう、平行線だ!




 ズウウゥゥゥン‼︎




「わわっ」



 地面が揺れて、体勢を崩したけど2人が支えてくれた。壁がポロポロと、少し崩れる。今までなんだかんだ、のそのそと動いていたドラゴンーーでも、いつまでもそうはいかない。


 まだ闘技場には人が沢山いる中、口を開いた。



『グルル……聞け、人間ども。我が名はーー』



 げ。まずい!



「忘却!」



 キンッと一瞬銀色の光が包み、すぐに景色は戻る。



『……ん? 今のは……お前のせいかっ‼︎』



 ひ、ひえぇぇ!

 こっち見たーーーー‼︎


 魔力が吸い取れなかったと気付いた上、それを阻止したのが私だとバレたらしい! ギョロリとこっちを向いたまま……ていうか、こっちくる⁉︎



「やば! とりあえずあとでね! どうせもう私逃げられないから‼︎」



 呆気に取られていた事をいいことに、2人の捕獲から抜け出す。



「あとアルたちは多分大丈夫! だって私、そんな予知してないから‼︎」



 そう、私はそんな予知はしない。

 そんなもの、絶対認めない……‼︎

 今は何か、事情があるだけだと強く思った。



 そして私は、フィールド側へと走り出した。



「お姉様っ‼︎」



 リリちゃんが叫ぶ声がする。


 でも聞いてられない。

 ここにいたら巻き込んじゃうしね!

 ヴィンスなら止めてくれる!


 だけど1つ、お願いをしておこうかな!



「悪いんだけど目隠しがてら、フィールドを氷で封鎖しておいてー! みんなの混乱防止のためにも! あとヴィンス避難誘導よろしく‼︎」



 大声でそれだけ言い残すと、客席の柵を越え……落ちる――うわっやっぱ高いわムリッッ!!!!



「く、クロ〜っっ‼︎」



 目をぎゅと瞑ったままの、情けない悲鳴のような呼び方でも、クロはちゃんと答えてくれた。無様に落ちる私を拾い、空へ舞い上がる。


「キュルルルッ‼︎」

「あ、あれ……なんか、クロまで怒ってない?」


 気のせいか、こっちを振り向いて睨まれた気がした。あと声が心なしか鋭い。ごめん、拾いにくかった?


 けれどクロは、すぐに向き直るとドラゴンを見下ろした。上からだと、闘技場の様子がよく見えるけど……。


 めちゃくちゃ壊れてるな!

 あとめっちゃ睨まれてるわー!

 めっちゃ唸ってるわー‼︎


 体を大きく動かすドラゴン。ブンッと尻尾を振っただけで、ドミノ倒しのように客席が壊れる……ひぇぇ……。


 しかし後ろから壁になるように。ピキピキと音をたてて、氷が侵食していっているのが見えた。リリちゃんだ。



 しばらくドラゴンを観察していたら……ぱっくり開いた口から……うわなんか炎出てきた⁉︎



 クロが旋回して、避けた。

 が、めちゃくちゃ早い、火の玉だった。

 私の心臓はバクバクである。



 え、やばいこれ、消せないかも……?



 そして客席もやばいのでは、と思って振り返るが。そこは立派な氷の壁があり、炎は防がれていた。


 よ、よかった!

 人死んでない‼︎

 いやでも私も危ない‼︎


 しかし。






『グルァアァアァァァァア!!!!!!!!!!!』






「うひーっ!」


 ドラゴンはめっちゃ怒らせてしまった。

 首をすくめるくらい怖い。もう逃げたい……。

ドラ……ゴンですよ一応……。

心の目で見て……?

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