306話 自由な弟妹
席に戻るために、歩きながら落ち着いてきた。そして、落ち着いてきたら色々思い返してしまう。
フィーちゃんへの対応。
セツの満足そうな笑顔。
そして、私のアルへの無茶振りの数々。
走馬灯のように脳内をーーいやむしろ、メリーゴーランドの如くぐるぐる駆け巡る。チカチカ、グルグル、全然愉快じゃない。
あ、ヤバい。
胃が痛い。頭痛い。
考えたくない。
「……わぁ……私、今とっても戻りたくない気分だなぁ……?」
頭を抱え、下を向きながら一応歩いているものの、その歩みは徐々に遅くなっている。
「戻らないと、観戦できないですけど?」
「だ……だってぇ……」
「お姉様ー! おかえりなさいですのー‼︎」
「へぶっ⁉︎」
セツに毒づかれながら、渋っていたら。弾丸のような勢いで背後から衝突され、変な声を上げる。あ……リリちゃんか。
「お姉様、どうしましたの? お加減が悪いように見えますのよ?」
振り向いた私を見上げながら、そう言われた。
「まぁ……良くはない、かな……」
「あら、それは一大事ですの! でも……お姉様には私の演技、見て欲しかったですの……」
なんでかとか言えるわけもないので、視線を明後日の方角に向けて言えば、しゅんとされる。
う……っ!
「だ……大丈夫……! もう元気になったから‼︎」
「え、本当ですの? でもご無理は……」
「体調バッチリよ‼︎ すっごく楽しみで超元気になっちゃったわー⁉︎ もう目を離さず見て応援してるから‼︎」
完全に空元気、やけっぱち、心と対応の温度差がすごい、が。
「うふふっそれでしたら、よかったですの! 私頑張りますのよ!」
氷河期も明けるような満面の笑みは、私の心にも染み渡る。
んんー……‼︎
可愛いは正義……!
守りたい、この笑顔……!
ちなみにここは廊下なので、他生徒の視線も一身に受けているが……まぁしかたないよね!
リリちゃん可愛いからね!
あと笑顔はレアだしね!
私でもうっかりコロッといきそうだもん!
「さぁ行きましょう!」
そう言って、手を引かれる。
しかしこれで私は、逃げ道を自分で閉じたわけである。
アホかな?
いや仕方ないけど‼︎
リリちゃんの笑顔プライスレスだから!
それに比べりゃ私の葛藤など、塵も同然よね! あぁ自分でなんか抉ってる!
しかしそこに、1人マイペースなツッコミが入る。
「……つーか姫様、戻る暇ないだろ。順番次じゃん」
「はっ! そうだよリリちゃん‼︎」
「あら、知らなかったんですの? 私、足は速いんですのよ。お姉様を送り届けるくらい、難なしですの」
彼女はドヤ顔でそう言った。
うん、そういう問題じゃないと思う。でも、聞かないだろうなぁ……。
「姫のくせに走るなよ……しかもそれ、足っつーか魔力量の問題だし」
「目撃されるからいけないんですのよ。そんなハエが止まるような速度でなんか、走りませんのよ。見つからなければ、走ってないも同然ですの!」
セツの冷たい視線も、毅然とした態度で受け流して見せる。ツッコミどころ満載だ。アルに見つかったら、普通に怒られるよ。
「後ろから来たって事は、わざわざ引き返してきたんだろ……?」
「お姉様の前では、全て些事ですのよ!」
当然と言わんばかりの顔に、ついにセツも黙った。諦めたな。
でもリリちゃんそういうとこあるよね。
『学プリ』でも嫌がらせ行為とか……。
あ、これがダメなのかぁ……。
「はぁ……」
「あらお姉様、幸せが逃げてしまいますの。どなたかお姉様の顔を曇らせているのかしら? 消しますから、教えてくださいな」
「いや物騒だね⁉︎」
可憐な笑顔でとんでもないことをおっしゃる‼︎
「バレなければどうとでもなるんですのよ?」
「バレなくてもダメだよ⁉︎」
「うふふ」
うふふ、じゃない‼︎
あれ⁉︎
おかしいなぁ⁉︎
この子の方が私より悪役じゃないか⁉︎
「まぁ大方、今の姫様の行動かオレのせいじゃね?」
他人事のように、隣からしれっと言ってくれる。開いた口が塞がらないけど、私のせいじゃないと思う。
「なんですの? お姉様になにかしたら、弟と言えど許しませんのよ」
「何かっつーか」
ギロッと睨まれても、どこ吹く風。
私は置いてけぼりである。
真ん中にいるはずなのに。
2人とも、自由人なの? 自由人だね? なんで1番関係ない私がはらはらしてるんだ?
「言ったから。聖女様のこと好きかもって」
「えっ」
「まぁ!」
つまらない話でもするかのように、言った言葉に私たちは目を丸くする。
えっそれ言うの⁉︎
君に恥じらいはないのパート2⁉︎
その態度、私だけでもないんだね⁉︎
動揺しまくる私とは違い、セツは淡々として言う。
「だから手伝ってよ姫様」
「む……まぁ悪くない話ですけれど……」
「いや悪くない話なの⁉︎」
少し眉を顰めるも、考えて首を捻る彼女に驚く。反応、それで合ってる⁉︎
「いやいや! フィーちゃんの気持ち大事でしょ⁉︎」
「それはもちろんそうですの。でも、フィリーがセスと結婚するなら、実質私の妹ですのよ。悪くない話では?」
「飛躍‼︎」
話飛びすぎな上に、色々おかしい。
「そもそも結婚しても……妹じゃなくて姉だと思うし……いやそこじゃない。色々そこじゃないよ私っ!」
「で、どうなの?」
「まぁしてあげないこともないですの」
置いてけぼり!
私置いてけぼりっっ‼︎
混乱し1人ツッコミをかます私を放置して、2人で会話している。ねぇ君たち、私のこと本当は嫌いなのでは……?
「……というか、なんかそういうのズルくない……?」
そんな、外堀から固めるみたいな……。
そう、死んだ顔で尋ねると。
「いや結果が全てだから」
「最終的にフィリーが納得すればいいんですのよ!」
両側から、キリッとそう言われた。
そういうもんなの……?
悩んで歩いていたら、気付けば席に帰っていた。




