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フラグ回収から始まる悪役令嬢はハッピーエンドが見えない〜弟まで巻きこまないでください〜  作者: 空野 奏多
悪役令嬢、物語に挑む〜ゲームの舞台もフラグだらけです〜
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304話 容赦ない弟

「私の知らぬ間に、そんな相手がいたというの……? しかもフィーちゃんじゃない……?」


 動揺を隠せず、思わず口から漏れてしまう。


 そんな私を、セツは呆れたように見ていたのに……急に、にっと笑った。



「よかったじゃん、結婚しなくて済むよ?」



 その小憎たらしい顔ったらない。


 ほんとに、いや〜な……揶揄(からか)う時の笑顔そのものだ。


 なんでそんな顔してんのかわからないけど。

 ムカつくもんはムカつく。

 そういう問題じゃないでしょ!


「そこは関係ないでしょ!」

「なんで怒ってんの?」

「いやセツがバカにするからでしょ⁉︎」


 怒って手を振り回すも、ひょいっと避けられる。追いかけても躱していく。


 むーかーつーくーーー‼︎


「八つ当たりすんなよな」

「八つ当たりじゃないんですけど⁉︎」


 ブランに鍛えられてる身のこなしで、ひょいひょい避けながら言う。わ、私の方が疲れてきた……!


 そうやって、へろへろぱんちを繰り広げていたが。



「いやいや。八つ当たりでしょ。だって自分が相手を知らない事に怒ってるんでしょ?」



 その言葉に、手が止まる。


「……は?」

「何驚いてんの? そうでしょ?」


 まさか。そんなわけ。


 否定を口にする前に、なんでもなさそうにーーある意味遠慮なく、話す。


「だってどうせ別れるって思ってんだから、王子の事とかどうでもいいじゃん? そんなのアイツの勝手だろ?」


 ……あぁ。

 あんたは間違いなく私の弟だよ……。

 的確に的を射た上で、抉ってくる感じが。


 鏡を見て絶望するような気持ちのまま、ぼうっとしながらも耳を傾けてしまう。


「なのに姉ちゃん、知りたいんだろ? 自分に関係ないのに。自分の思い通りにしたいの? 勝手すぎるだろ」


 ぐさぐさぐさっ!


 言葉が可視化できるなら。

 私は今穴だらけだろう。

 瀕死寸前だ。


 しかし実際には見えないので、弟は同情もしてくれなければ容赦もなかった。



「王子は王子がしたいようにする。それに報告義務はない。だって1人の人間なんだから、当たり前だろ。姉ちゃんの操り人形じゃない」

「ぐふっ!」



 ついに耐えられなくなって、胸を押さえた。


 い、今の……。

 めちゃくちゃクリティカルヒットした……。

 私は何気取りだったんだ……。


 彼女気取りか神様気取りかーーどちらにせよ、何様だという感じだ。そうか、私はアルを操ろうとしてたのか……。


 気づいてしまうと実におそろしい。

 そうかだからか。

 だからアルに執着してたのか……。


「あぁ……ダメだわ……。私もう出家しないとダメかも……。人を思い通りに動かしたい、どうしようもない人間だったとは……」


 ちーーーーーん。


 すっかり消沈した私を見て、何故かセツが慌て出した。


「え、いやー……だから、そういう事じゃなくてさ?」

「まさかアルの優しさに甘えて、いいようにしようとしていたとは……。害悪でしかないじゃないの……」

「まぁそれはそうだけど」


 肯定すんのかい!


 思わず心でそう突っ込んでしまったが、確かにそうなのである。


「……てか、どこにいっても門前払いだろうし……?」

「あぁ……。そうだった。黒髪だもんなぁ……。疎まれてるの忘れてた……」


 唯一、受け入れてくれそうだったシブニー教は、自分で解体している。


 あとは私が、預言師として顔が割れてしまってるのでーー最悪、祀り上げられてしまう。


 ダメだわ。

 そういうのは望んでない。

 荷が重すぎる。


「いや……そうじゃなかったんだけど……。まぁもう最悪ブラン兄ちゃんに、泣いて縋ればいいだろ。世話してくれると思うよ?」

「そんなどうしようもない結婚ある……? というか、普通に迷惑だから!」


 あまりにひどい事言うもんだから、フツーにビシッと怒った。


 ブランに頼りすぎ!

 いくら私たちに甘いからって!

 そこまでしてもらっていいはずないでしょ!


 ……でもそういえば。ブランって私の事……いや! あれ話の流れだから! 違う‼︎


 甘えたがりな思考は、ぶんぶん頭を横に振って蹴散らす。これがダメなんだってばー!


「くっ! でも出家できないなら! どうすればいいというの⁉︎」

「……そもそも公爵家の娘で、預言師な時点で誰も出家許さないんだよなぁ……」


 呆れた声がするも、言葉は入ってこない。

 今私、それどころじゃないんで!



「……つーか。くー姉は実際どう思ってんだよ。そこだろまず!」



 頬を掴まれたので、今度は聞こえた。

 聞かされた、が正しいが。

 いひゃい。あにふふんは!


 じんじんする頬を撫でながら、尋ねる。


「ひどい……っていうか。どうって何よ……」

「だから王子だよ! そう思うに至った理由があるだろ!」


 そんな怒んないでよー。


 怒鳴られてへこみながら、言葉の意味を考える。理由? なんでそんなものいるのよ……。


「そこが大事だからに決まってんだろ!」

「え、なに。声に出てた⁉︎」

「そんなもん聞かなくても、顔に書いてあった!」


 驚き口を両手で押さえて聞くと、そう返される。……あぁ、姉弟だわ……。


 にしても。

 理由、理由ねぇ……。

 考えたこともないんだけど……。


 そう、考えだしたが。


「つか腹減った」

「は? それ今言う⁉︎」

「だって昼だし。どうせ答え、今出ないんでしょ? 簡単な質問なのに」


 この弟……マイペースか……⁉︎


 一瞬そう思うも、まぁ確かにお腹は空いた。のんきな発言に、一気に持っていかれ脱力する。


 それに一応、この子は大会に出るのだ。

 空腹のままってわけにはいかないだろう。

 これでも姉なので、弟の面倒は見る。


「じゃあ外出る?」

「焼きそばたべたい」

「この世界にないじゃないの!」


 暗にねだられ、やれやれと思いながらもーー焼きそばを言われるがままに出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] クーちゃんの中の矛盾というか論点のズレというか妄執的なモヤモヤしたところをセツがすっきりさせてくれました。 「ゲームのシナリオ通りに」しか見てなくて個人を見てなかった。気付けと思っていました…
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