302話 1番考えてるのは
「くー姉はあの2人にくっついてほしいわけだろ?」
あの2人、と言われればまぁ2人しか浮かばない。
「そうだよ? だって、それが正しいから」
投げやりな視線を見つめ返しながら、肯く。
主人公とアルバート王子がくっつくーーそれは『学プリ』の正規ルートであり、王道ルート。
いい子で頑張り屋、苦労した主人公が。
優しくて素敵な王子様と幸せになる。
美男美女で目の保養……いやそこもだけど。
そうでなくても。
お互い一緒に苦労を乗り越えて、成長して。
国を支える英雄的王子様と救いの聖女様。
惹かれ合うのは必然的だ。
どこからどう見ても理想的で、誰からも尊敬され、祝福される。まごう事なき、正真正銘のハッピーエンド。
綺麗すぎて、夢の玉手箱みたいな出来だ。
でもまぁ、そこが好きだし。
確実に幸せの塊だし?
実際2人とも、ゲーム以上に素敵だ。
だから私のバッドエンドが回避できるなら、2人にはぜひベストカップルになってほしい。
その心に、嘘はないのだが。
「……今の状態から、ゲームみたいに上手くいくと思ってんの?」
そう、しかめっ面で言われて。
息が止まる。
視線が泳ぐ。
しかし、答えは出ないーーそれが答えだ。
「なんでもゲームで考えんなよ。全然違うだろ。目の前にいるくせに、わかんないのかよ」
「……まったく同じだとは……」
「思ってなくても、どっかでたかを括ってる。見えてないよ」
鋭い言葉に、思わず視線が下がり声は小さくなる。
あぁ……痛いところを。
やっぱり、私詰めが甘いんだろうなぁ……。
小さな違いが、今になってるわけだから。
薄々勘づいてはいたものの、指摘されると実にツラい。いや、そろそろ向き合うべきだとは、思ってたけどさ……。
唇を軽く噛みながら、小さく口を開く。
「……でも、『運命の強制力』はほんとに……」
「はぁ。それに逃げんなよな。それであの2人がほんとにくっついたとして、今の関係性で幸せになると思うか?」
盛大なため息と共に突かれて、考える。
「……順番は変わるかもしれないけど、でも幸せにはなるよ」
「それが『運命』だから?」
私よりも高いところから、頭に突き刺す視線と言葉が痛い。
でも、首を振る。
もちろん、それもあるんだけど。
だけどその答えは求められてない。
私はなんとなく明言したくなくて避けてたーーなんでかは、私にもわかんないけど……でも思ってる事を、心の中から引きずり出す。
「……ちがう。アルもフィーちゃんも、いい子だから。好きにならないなんてないでしょ」
一緒にいる私が、これだけ2人のことを好きなのだ。
これは『学プリ』抜きで。
好きにならない人なんて、いないだろうと。
そう思わせる魅力が、2人にはあるから。
他のメンバーなら……や、いい子だけどね? ちょっと万人ウケタイプじゃないから……そうはいかないだろうなと思うんだけどね?
長い時間、一緒にいれば。
嫌でも好きにならずにはいられない。
そういう人たちだから。
「2人とも、優しいし視野が広いし品があるし、あと見えてるビジョンっていうかなぁ? 考え方とか、似てると思うんだよね」
思わず、ふっと小さく笑ってしまう。
生来の性格、というか。
気質が似ている気がする。
気配り屋さんだし、明るい未来を見てる。
そういうもののために、動ける2人なのだ。私には確実に欠けている。プラス思考ー! って感じだし、そこも正反対だ。
そういうところが羨ましく。
そういうところが好きで。
そういうところが憧れだ。
そして、そういうところが相容れない。
綺麗な水と、汚い油は混じれない。
「何? 私が婚約者の座を降りないとでも? ないよないない、合わないもの。アルにずっとついていけない。置いてかれちゃうから」
クスクス笑う。
少し、嫌な感じかもしれない。
あぁそう。私、嫌な人なんだよね。
「……はぁ最悪。辻褄さえ合えばいいと思ってるわけだ」
「仕方ないじゃない。最初は頑張ったし、一応まだ頑張るけど……私たちがみんなといる時点で、もうそのままは進めないと思うよ?」
虫でも見るかのような目で、私だけを責める弟に少しだけ毒を仕向けた。苦い顔をされる。
あぁ嫌なやつ。
笑ってこんなこと言うなんて。
弟を巻き込んだの、そもそも私なのに。
でも多分、私はセツには味方でいて欲しかったのだ。バカみたいだけど。
何も言わずに。
最後まで私についてきて。
擁護してほしかったんだろう。
それだけでーー私は正しいと、正当化できたから。
生憎、弟はそんな傀儡ではなかった。そうだったらそうだったで、きっと私は心配している。天邪鬼なことだ。
「……でも、今のままだと辛いのはあの子じゃん……」
零す言葉は、さっきより自信なさげだ。
それにしても。
「あの子?」
「……『フィーちゃん』」
私の問いに、唇を尖らさせて答える。不貞腐れてるらしく目は合わない。
いやまぁ、それはいいけど。
「アルは?」
「あいつは……まぁどうなっても、姉ちゃんを側に置いておくだろうから。まだマシだろ」
それはどういう意味なんだ……?
面倒そうに言われた言葉が引っかかる。
いや、いい。とりあえず置いておこう。
それより、どうしてそう思うかが大事だ。
私だって、フィーちゃんは大事だし。
「フィーちゃんが辛いって?」
「だってそうだろ……好きでもないやつとくっついて、しかも相手が王族? プレッシャーだろ。養子先の親なんて、そう頼れないしさぁ」
切なげに語ってくれるのはいいが……言葉だけ取るなら、私もほぼそうだぞ?
仕方ないから突っ込まないことにして、聞いてあげる。
「なおかつ相手は、他に好きな人がいるときた。はーマジ地獄だろ。あんたらはそこを考えてない!」
なるほど。実に怒り心頭だな?
しかし考えてほしい。
「貴族、ほぼ恋愛結婚ないよ?」
「お前、恋愛ゲームやっといてそれかよ!」
真剣に言ったのに、めっちゃ怒られた。
というか、姉をお前呼ばわりするでないよ。
「王子もだけど……でもあれはあれで苦労してるから! だから1番は、くー姉に怒ってるんだけど‼︎ 好きならもっと後考えろ!」
セツの怒りは収まらない。
まぁたしかに、今の私は結構ひどいか……?
「王子とくっつく気ないなら! その後の『フィーちゃん』を考えろよ! あーイライラする‼︎ つーか1番ムカつくのはさぁ‼︎」
前髪をわしゃわしゃした後。
バッとこっちを、怒りのままに振り向いて言う。
「なんでオレが、1番『フィーちゃん』の事考えてんだよって事だよっ‼︎」
大迫力で力の限り言い切った彼は、肩で息をしていた。
「……なんでだろうね?」
その迫力に押されて。
目をぱちくりさせながら、私はオウム返ししか出来なかった。




