29話 私の幼なじみ (挿絵)
「さて、セツは連れて行くとして」
「おい、オレまだ行くとか答えてないんですけど」
「弟がそんなに非道だとは、おねーちゃん思ってないので!」
というわけで、文句言ってる弟は無視して話をしている。
先日、アルバート王子と海送りの……つまり海へ行く約束をしてしまった。
因縁の海。
正直行きたくないし、今後の方針的にもあまり外で仲良くしたくないのだけれど。もう誘いを受けてしまった。
その代わり!
2人友達をつれてきていいという、許可を貰っている。
みんなで仲良しだから大丈夫、作戦だ!
赤信号、みんなで渡れば怖くない! みたいな?
……嘘だと思うんですよねこれ。
危ないと思うんですけどね。
そう思いたいだけですよね。
しかし今は気持ちを前向きに保つのも大事なのだ!
だから心の中の自分に嘘をついて、大丈夫って言い聞かせて弟を巻き込もうとしていた。
「友人2人なら1人は確定でしよ!」
「いや友人だよな? オレ兄弟だからな! つーかオレだってトラウマなんだよ! 姉なら弟の安全第一だろ!」
必死に抵抗するセツ。
まぁ気持ちは分かるし、そりゃそうだけど。
でも、私はよく考えたのだ。
「仕方ないじゃん一番頼れるのはセツなんだもん……私が混乱したときいてくれないと困る。逆に何かあったら何とかするし! あと私は友達いないんでね!」
にっこりと笑ってそういうけど、内心は迷いもある。
本当に申し訳ないけれど、自信がないのよ。
平然としていられるかっていうね。
だけど、守るものがあれば強くなれるのだ……お姉ちゃんだからね!
それにセツーー雪貴が見たくなくても、きっとそのうち目にせざるを得なくなる。
どうも海送りは、貴族がほぼ強制的に参加するようなイベントっぽいのだ。
その時私が近くに居られるか分からないなら。
一緒に居られるうちに、気持ちの整理をできた方がいいだろう。
何かあっても今なら私がなんとかできる筈だ。
ていうか何とかする。
まぁ、これは言わないのだけれど。
そこまで言うと、セツもため息を吐きながらも一応、というか多分可哀想なものを見る目で、納得してくれる。姉の威厳とは、儚いものですね……。
「憐れすぎる……。で。もう1人どうすんの」
同情の目を向けられた。弟にそんな目で見られる日が来るとは。
なんだよう。
お主は友達いるのかよう。
今んとこほぼおねーちゃんと一緒にいるじゃん。
「もう1人は……どうかわかんないけど一応あてはあるかな……手紙昨日出したから来てくれるなら今日にでも何らかのアクションが……」
「は? 早くね? つか届くの? それ」
顎に手を当てて考える私に、ツッコミが飛ぶが無視である。
多分大丈夫だ。
速達だし。
何より私が届くと思ってるし。
そこへ。
「失礼致します。ライラック家のブランドン様がいらっしゃいました」
いいタイミングでメイドさんが私を呼びに来た。
「待ってたわ、行きましょう。セスのお母様は?」
「入り口でお待ちでいらっしゃいます」
「分かったありがとう。ほら、セツも行くよ!」
「いや誰っていうか、なんでオレだけ知らないの……」
ぶつぶつ言ってる弟を引っ張りながら、玄関に向かうと。
「あっお久しぶりだね! クリスティ」
先に出迎えたらしいセスのお母様の影から、そうのんきに声をかけてきたのは少年だ。
薄紫色の明るい髪は、まるで柔らかな花びらのよう。人懐っこそうな大きな瞳は青というよりも紺に近く、深く印象的で引き付けられる。
ライラック公爵家の長子、ブランドン・ライラックである。
あ、分かりやすくいうと、『学プリ』攻略対象キャラです!
「ようこそシンビジウム家へ、ブラン。お出迎えが間に合わなくて申し訳なかったわ」
同時にセスのお母様にも謝っておいた。
笑顔で、私が先にご挨拶したかっただけだからいいのよ、と言ってくださる。
急な来客があるかもしれないと伝えた折も、やはり優しく了承してくれた。だから私としては頭が上がらない。
「君は謝るところがずれていると思うけどね、クリスティ? 今日たまたま来れた僕に感謝した方がいいよ」
「それでも許してくれると思ったから、無茶ぶりをしたのよ。ひとまず来てくれてありがと。よろしければお庭へいかが? ここの家はお庭が素敵よ」
揶揄うようなブランの手前、強がってはみたものの正直賭けだったが。
けれど結果良ければ全て良しだ。
来てくれたんだから、いいのである!
世の中、結果が全てなのだ‼︎
セスのお母様から事前に、子供会議の許可もいただいているので、そのまま移動する。
まだ混乱で固まっている弟と幼馴染みを引っ張って、テラスへ案内した。