293話 しこりだらけの関係性
『大変お待たせ致しました。ただいま集計が終わりましたので、次の発表へ移らせて頂きます。これより2年ーー』
わいのわいの騒いでいたら、フィーちゃんの分の採点が終わったらしい。またアナウンスが流れた。
「あ、採点終わったんだね! 今教えてくれても良いのになぁ〜! 絶対すごいと思うし」
あからさまに話題転換を試みた私。
いや、もう氷華様怖いので……。
リリちゃんはまだ少し睨んでいたけど、それ以上は何も言わなかった。助かった!
「私は知りたいような、知りたくないような……」
「えー⁉︎ フィーちゃんもっと自信持ちなよ!」
へにゃっと笑うその少女に、完全外野な私は実に身勝手なことを言う。だってすごかったんだもん!
「……まぁ公平性を保つために、全出場者が終わるまでは非公開ですから。よかったのではないですの?」
気持ちを切り替えたらしい、凍結解除したお姫様は優しくそう言った。
「私も変なプレッシャーがなくて、そのほうがありがたいですのよ」
「……リリちゃん、プレッシャー感じることある?」
いや、あるんだろう。あるんだろうけど。
妹ならではの大胆さと。
凛としながらもツンとした、いつもの態度。
とてもじゃないが、プレッシャーに震えるリリちゃんを想像できない。
……子供の時はあったかな?
怖がる手を引いた思い出が……。
いや、あれ高い所怖がってただけか。
「私お姉様を見ていると、震える子猫を思い起こして元気が出ますの……」
「うん。ちょっとどういう意味かな⁉︎」
憐れむような、恥じらうような、はたまた微笑ましいものを見るようなーーそんな複雑な笑顔でおっしゃってますけど!
これはいつも!
プレッシャーに震える私を!
楽しんでるってことかな⁉︎
悪趣味なお姫様に頭を抱えつつ、また長い音楽を聴きながら話を変える。
「しかし次の発表、2年生かー! 知り合いいないね!」
空元気なまま、話を投げる。
「お姉様。ローザ家の……ヴィンセントのお姉様がいらっしゃいますの。まぁ、今大会はご出場なさらないようですけれど」
「あ、そっか。あんまり会わないから、ちょっと抜けてたな」
というか、避けられてる。
一方的に、多分だけど。
まぁ、そんなに接点はないんだけど……。
まずヴィンスのアルの婚約者候補に、当然お姉様は入っておかしくない立場だった。
そこに、裏事情満載の私が掻っ攫った。
表真向きは、お父さんの功績の結果。
ま、それも一部貴族しか知らないけどね。
宰相職のローザ父は、当然表向きの理由は知っている。裏事情はわかんないけど。でも英雄的行動の結果に、口は挟めなかっただろう。
……私がいなきゃアルの婚約者争いは、血みどろの激戦が勃発していたに違いない。
次期妃だからね……。
アルは子供の時から優秀だし。
それに女の子は、王子様って好きよね。
冗談抜きで、死者が出てもおかしくないレベルだ。まぁ私は、辞退したい訳なんですが……。
淑女教育を受けていたであろうお姉様は、高位の貴族らしくプライドも高いらしい。お茶会とかで、遠巻きにちょっと睨まれてた。
ヴィンス経由で仲良く……と、いきたいが。
フツーにヴィンスに断られた。
悪魔と話したくないと。
実姉を悪魔呼ばわりするくらいには、いいように使われてるから……期待しなかった。
あと多分、というか当然、ブランも狙ってたから……いっつもくっついてる私は、目の上のたんこぶだったみたいで。
お陰様で仲良くてもおかしくないのに、ほぼ接点がない状態だった。
「リリちゃんは仲良いの? ヴィンスのお姉様たち」
「……まぁ、ほどほどですの。ヴィンセントよりは良い方たちですのよ。気も遣って下さいますもの」
興味本位で聞いてみれば、少し表情を固くした後答えてくれた。
根は悪い人たちじゃないのだろう。それに、お姫様かつ将来の妹候補。そことはさすがに仲良くするよねー。
それを除いても、リリちゃんに近づきたい人はたくさんいるけど。美人だしなぁ……。
「将来のお姉様ですもんね! 仲良くしておきたいですよねー!」
フィーちゃんの無邪気な発言に、リリちゃんは口をきゅっと結び、一層複雑そうな顔になっていた。
……リリちゃん、意識はしてそうな気がするんだけどなぁ。
とりあえず適当にーー彼女にこんな顔をさせる相手に、ひと言エールでも送るかと奥を見ると。
「あれ? ヴィンスは?」
ていうか、ノア君もいないけど?
「君たちが盛り上がっている間に、行きましたよ」
「え⁉︎」
その声は隣から……彼の親友からだった。
「ヴィンス出場いつなの⁉︎」
「まだ2つ先ですけどね。リリーがあまりに邪険にして追いやるから、拗ねたんでしょう」
びっくりしてアルの方を向き尋ねれば、サラッとそう言った。
お兄ちゃんよ、それでいいのか⁉︎
妹に対しても、親友 (のはず)に対しても!
フォローとかフォローとか、しようよ‼︎
「ていうか、私まだ頑張ってって言えてないけど⁉︎ なんでなんにも言わずに行っちゃうのよ!」
「一応、声をかけてはと言ったんですがね……。盛り上がってるからいいと言っていましたよ」
アルが苦笑して言う様からすると、カッコつけ半分、やけっぱち半分だったのでは?
なんとも言えない顔でいると。
「……私に声もかけないで席を外すなんて、本当に失礼な男ですの」
そんなこと言ってるけど、どこかその言葉は、噛み締めるようだ。
リリちゃん、離れたのは知ってたんじゃ?
まぁここからだと、1番近かったしね。
声をかけられてもきっと、いつもの憎まれ口で返すだろうけど……。
どこか寂しそうにも見えたその顔は、私たちの方ではなくーー入場口の奥の方を見つめていた。




