292話 夢見すぎてました
「思えばこの可愛さも、ふわふわさも妖精だと思えば納得だよね……!」
「えーっと……」
まじまじと見つめながらそう話すと、明らかにフィーちゃんは戸惑っていた。
戸惑ってても可愛い……って、そうじゃないな!
「でもやっぱり魔法あるなら、妖精じゃなくてもその血が流れてるとか、裏設定的な……」
「何言ってるんですのお姉様。妖精はお伽話ですの」
固まってるフィーちゃんの肩を掴み、そこから覗くようにリリちゃんは言った。
「え。精霊はいるのに……?」
「精霊はいますの。それは生命の女神、セイレーヌ様の生み出されたものですもの」
当然ですの、といった顔。
精霊はアリで。
妖精はナシ、なの?
……まぁそういえば、話は聞いた事ないけど。
「お姉様、妖精を信じているなんて……意外とピュアというか……」
「えー! 天使を信じるようなものじゃん⁉︎」
「天使も作り話ですの」
なーんでよー!
子供っぽいって言いたいのね⁉︎
お顔が悪ーい顔よ!
だって、精霊アリなら妖精アリだと思うじゃん⁉︎ 絵本はあったし‼︎
まぁ女神様からも、妖精の話は聞いた事なかったけど!
「でも……それくらいに思ってもらえたなら、頑張ったかいがありました!」
私たちの間に挟まれた聖女様は、そうぴかーっと輝くような笑顔を向けられた。
うっ眩しい……!
ムッとしてたのが子供だと諭される!
さすが聖女の笑み……!
「私も、イメージは妖精だったので……ちょっと恥ずかしかったですけど」
そう言いながら照れてる彼女は、もうぎゅーっとしたくなる可愛さだった。
いかんいかん。
イエス聖女様、ノータッチ!
というか、貴族的にフツーにアウトだ。
そう、私は腐っても公爵令嬢なのである! ……まぁそれより上の、リリちゃんは私に割と抱きついてきますが。
まぁ見えてなきゃいいのよ。
あとは権力と権力と美貌よ。
有無を言わせぬ力が全てよ………。
「でも本当に素敵でしたの、フィリー。まさか精霊まで味方につけるとは、予想外でしたし」
「えへへ、使えるものはなんでも使おうと思って、頼んじゃいました!」
可愛く笑っているけれど。
頼んじゃいました、じゃない。
精霊がお友達のノリなのがおかしい。
あれよ? 精霊って、神様に近いような感じなのよ? さっき言った天使みたいなイメージよ?
精霊がいないと、魔力は魔法にならない。
そういう意味では、神様より身近だけれど。
神様より、生活に不可欠な存在なのだ。
そもそも精霊は頼める相手なの? 話せない一般人な私にはわからないです……。
「この後に演技でなくて良かったですの。私のインパクトが薄まってしまいますもの」
「リリちゃんに限って、それはないと思うけどね……?」
頷きながら満足げに言うその言葉に、すかさず突っ込んだ。ちょっと覇気がでなかった。
『愛し子』が何か言っている……。
精霊と話せる2号が……。
しょぼ魔力持ちには理解できないですね?
「あらお姉様、ありがとうございますの。けれど本当に思っておりますのよ? この大会は魔力量だけの勝負ではありませんもの」
そうとは思えない、毅然とした態度で答えられても……。
まぁ確かに、それはあるけどね。
魔法のすごさだけじゃ、上にはいけない。
流れや構成、技術力に魅せ方……これは大会なのだから。
頭の柔軟性、魔法の巧さ、カリスマ性。
将来像を見せられるか、の勝負でもある。
そういう意味では、フィーちゃんの『聖女』を思わせる構成は、1番すごかったかもしれない。
「お二人といても、恥じない人間でいたかったので……」
……そうか。
フィーちゃん、伯爵だから。
実は気にしてた、のか。
馴染みすぎて忘れていた。いや、覚えてたけど……どうでも良くなってたというか。
だって生徒会は、生徒会だし。
フィーちゃんは、フィーちゃんだ。
それが私の当然で。
というか、なんなら主人公とお姫様といる、私はなんなんだ? (悪役令嬢です)的なところあったけど。
でも、フィーちゃんは違ったんだろう。
『聖女様』は、あくまで愛称。
正式なものじゃない。
階級の違いを、気にしてたんだ。
……そうだよなぁ? 『学プリ』でもそんな場面、幾度とあったじゃん? 私は何呑気に過ごしてきたんだ?
「ごめん……! メンタル面を怠っていた……!」
「?」
そうですよ! 何も恋愛だけじゃないよね⁉︎
友情にも階級は壁だったよバカッ!
友達気分すぎて、忘れてたよ‼︎
必死に謝る私に、きょとんフィーちゃん。
うん、まるで分かられてない!
それが当然なんだけども‼︎
いやでもね⁉︎ 周りがなんとかできちゃう人しかいなかったから! うっかり! 忘れていたというか‼︎
「お姉様、言葉が違いますの」
「え?」
そんな申し訳なさでいっぱいの私に、リリちゃんが首を振りながら冷静に言った。
「ここは褒めるところ、ですの」
「!」
過ぎてしまったものは、戻らない。
そもそも私が謝ったって、フィーちゃんには届かないだろう。彼女は自分の力で、隣に立ちたかったのだから。
でもこの先仲良くいられるかは、私次第だ。
なら、言うことは一つ!
「一生ついて行きます聖女様ぁ‼︎」
「えぇ⁉︎」
「お姉様……?」
え、ちょ、なんでリリちゃん怒ってんの⁉︎
だってこんな可愛くて健気ないい子、ずっと仲良くして欲しいじゃないの‼︎
けれど感極まりすぎて、どうも言葉のチョイスを間違ったらしい事は……ひんやりとした感触で明らかだった。ごめんなさい氷華様……。




