291話 勘違いお花畑
ワァァァアァァァァ‼︎
一瞬の間を置いて、夢が覚めた観客席から拍手が上がった。立ってる人もいる。もちろん……。
「うわぁぁぁ⁉︎ え、なんだったの今の⁉︎ フィーちゃんは妖精だった⁉︎ 人間と勝手に勘違いしてた⁉︎ 」
私もその1人だけどね!
「フィリー、考えましたのね……自分の使い方をよくわかってましたの」
「感慨深げだけど! すごい計算高いみたいな言い方‼︎」
そんな知っちゃいけない衝撃映像をみた! みたいな言い方しなくても!
リリちゃんにそう突っ込んだら、少し冷静になった。いやー、それにしてもすごかったー!
「というか、最初のなんだったの⁉︎ やっぱり精霊なの⁉︎」
「声は精霊でしたので……自分に聴こえている声を、私たちにウィスパーボイスで送った、と言ったところでしょうか」
「桁違いの考え……!」
アルの解説に、度肝を抜かれて口が開いたままになる。
いまだにウィスパーボイス手こずる私には、理解できませんね⁉︎
……それ以前に、全体にウィスパーボイスをかけるには、どれだけ魔力いるんだ? と思って、私は考えるのをやめた。
「フィリーは正式な聖女ではないですけれど……この大会の結果がどうであれ、もうほぼ公認の聖女になりましたの……」
「え、どういうこと?」
まだどこか険しい表情で話すリリちゃんに、話を促した。
「精霊の声は、わかる者にはわかりますの。でもそれを聞く者は少ないですのよ」
「? うん、そうだね」
それはわかるけどさ?
まだピンと来ない私に、真剣な目を向けて話を続ける。
「少なくともフィリーはそれが聴けて、その上で……あれだけの光魔法とそれ以外も上手く使いこなせると。公の場で示したんですの」
「……なるほど?」
たしかに、聖女様の話を聞く事はあっても。
その実力を目にした人は、少ないだろう。
あ、私たちはもちろん分かってるけど。
精霊の声が聞こえるのは、精霊に愛されている証。
精霊は魔力だけじゃなくて、清い心を好む。
つまりそれだけで、その魔力と人柄は保証されたようなもの。
なおかつあの黄金の輝きはーー治癒に使われてなくたって、印象付けた事だろう。
フィリアナ・ラナンキュラスは。
間違いなく神に祝福されし聖女だ、と。
「国の方が怒られそうなほどでしたね……」
「ええお兄様。お父様たちはこれから大変ですの……」
……王族って大変だな。
いくらすごくっても、なんかきっかけがないと称号は授与できない。
権力や称号には、それなりの手柄と等価交換だ。……さすがに、10年前とかの手柄を引っ張り出しては来れない。人間って面倒だね。
「それでも何故授与しないのかって、言う人は言うだろうからね……」
蚊帳の外の預言師は、すごすぎて頭を抱えている王子様とお姫様に同情した。
まぁそのうち、良い名目が立つ出来事があるーーいや、良くはないけど。
未来を知りつつも、それは伝えられない。
変わりすぎると私の手に負えなくなる。
コントロールできる範囲でいてくれないと。
あのイベントは、2人の立場を確実なものにする大事なイベント。
怪我なんて、今ならさほどしないだろうし……でも、『聖女』にする名目にはピッタリなハプニング、くらいになるはず。
今のまま、進めば。
「……って、今何言ってもダメそうだな……」
2人とも黙ったまま、石のようになってしまった。もしかしたら、ウィスパーボイスで話し合いとかしてるかもしれないけど。
邪魔しちゃ悪いので。
思い出したかのように、2つ先の席に座る弟の様子を伺おうとするけど……うーん、チラッとしか見えない!
しかもチラッと見えたその顔は……なんか照れ隠ししてる時の、仏頂面みたいな顔だったけど。
けれどいつも通り笑うブランと、笑顔で揶揄っているレイ君が見えた。だから大丈夫かなと思った。
「あの2人がいれば、もう私いなくても大丈夫なんだよなぁ……」
「なんの話ですか?」
図らずして漏れた心の声へ尋ねられて、なんとなくバツが悪くなる。思ったより、帰ってくるの早かったな……。
仕方ないので笑って誤魔化す。
「いや、いい人に恵まれたなーって話」
「そんな話でしたか?」
「そんな話だったよ」
嘘じゃない。
いい人に囲まれたから、姉として世話を焼く必要がなくなってるのだから。
「弟の姉離れを喜ぶべきか、悲しむべきか……」
「え、本当にそんな話でしたか?」
頬に手をそえて、演技っぽくオーバーに言ってみたら困惑された。
「リリちゃんもきっとそのうち、兄離れしちゃうんだよ……」
「そうでないと困りますけど……まぁリリーの場合は私より、ティアに依存してますし」
「まぁお兄様! 違いますの!」
ちょっと乗ってきてくれたアルに、復活したリリちゃんが元気よく否定した。
「私はお兄様とお姉様、両方に依存しておりますのよ……?」
「……それは自慢げに言うことかなぁ?」
春になり、雪が溶けて
その隙間から花が咲く。
そんな情景が浮かぶような、少し照れた表情で麗しい姫はそう言った。彼女じゃなきゃアウト案件である。
かろうじて作っているジト目だが、効力はなかったらしくそっと手を握られる。
そしてはにかむ笑顔がこちらに向き……。
「お姉様の事を、深くお慕いしておりますの……」
「はいアウトー‼︎ 色々な意味でアウトだから、そういう冗談やめようね⁉︎ 危ないからね⁉︎」
ほんと冗談にならないからね⁉︎
私が心を強く持ってないと!
うっかり頷きそうになるでしょ⁉︎
美しさとは恐ろしいもので、時に全てをどうでも良くさせてしまう!
お姫様を誑かす悪女はダメだよ⁉︎
悪役令嬢の上を行くダメさだよ⁉︎
誑かされてるのはこちらだけど、世間の目からはそう見えないんだから!
「そうですよ! ずるいですよ! 私も好きですから‼︎」
「そうじゃな……って、あ! お帰りフィーちゃん!」
背後から聞こえた鈴の鳴るような声に、振り向くと時の人がいた。
「ただいま戻りました! どうでした……」
「フィーちゃんは妖精だったのっ⁉︎」
先走る感想が、彼女の手を捕まえつつ述べられた。
妖精、捕まえとかないと、逃げる!
勢いに押されたらしい妖精さんは、きょとんとしたあと。
「えっと、ありがとうございます?」
と、首を傾げながら言った。
「……お姉様、フィリーが困惑しておりますのよ。仕方ないですの。積もる話もありますから……ローザの2人はそちらへもっと詰めるんですのよ!」
強引なお姫様の手腕により、妖精さんはながされるまま。私たちの真ん中に座った。
頭がお花畑の方のお花と、妖精さんでお花畑。
お花の種類はご想像にお任せします。
次の投稿は2時間後くらいになります。




