273話 斬新な戻り方
「つまり、場所は特定できてないという事ですの?」
痺れを切らしたリリちゃんが、腕を組みながら聞いてくる。この視線はは凍えるね……。
「まぁそうとも言えます!」
なのにこんなにノー天気に返す、強心臓のレイ君はなんかもう、呆れを通り越して尊敬の域だ。
「……でもレイナー。貴方魔力を辿るの、得意ですのよね?」
「得意っていうほどでもないですけどねー」
ペースを崩されっぱなしの彼女は、面倒そうに投げかけた。それを拾ってされた発言に、疑問を覚える。
「え? 辿るって?」
こちらを向いた視線は、そのままきらりと輝き離さずに、まってましたと言わんばかりに食いついた。レイ君……質問好きだね……。
「魔力の残滓を追うんですよ! ちょっとコツがいるんで、誰でもできるわけじゃないですけど……魔力の流れとか属性とか、そういうの見分けられるようになれば、割とできますよ!」
あぁ、レイ君は魔力属性とか読み取るの好きだもんね。ていうか、調べるのが好きだよね。
昔私とセツも、彼に調べてもらった事があった。あの時は手を合わせて、流れを読み取ってって感じだったけど……その応用、かな?
ただ、それが本当にホイホイできるかっていうと……。
「……残念ながら、そんな簡単でもないですの。お姉様、レイナーの言葉を鵜呑みにしてはいけませんのよ」
「あ、うん。大丈夫。予想ついてた」
顔はこちらに向けながら、眉を潜めて流し目を送られた。だから、それに肯いておいた。
レイ君みたいに属性読める人、私今のところ会ったことないからね。
「ゲンティアナ様はすごいんですね……!」
「フィリー。やめなさい、コレが図に乗りますの」
「ちょ、なんですかコレってー!」
素直なフィーちゃんの賞賛に、リリちゃんから苦言が入る。止めないけど、人を指さしちゃダメだよー。
そしてそれに、レイ君が不満な顔して文句を言ってるけど、まぁ流されるよね。
「ひとまず仕事は終わりましたの。お兄様が待っておりますし、明日のためにも一旦帰りましょう。レイナーの話は今度聞きますの」
「姫様って、オレの扱いぞんざいすぎません?」
気を取り直したリリちゃんの掛け声により、ひとまず帰ることとなった。レイ君の声は、もちろんその耳に入らない。
ひとつ言っていいなら。
レイ君の扱いはみんなぞんざいだと思うよ。
そう思ったけど、私はお口にチャックしておきました。今でさえ突き出してるレイ君の口が、さらに突き出しかねないからね!
「ではお姉様、お先に帰りますの!」
「え、あ、ちょっと⁉︎」
ぶつくさいってるレイ君を放置し、リリちゃんは端の方まで行くと。
そのままそのセリフを残してーー落ちた。
「あー! もー置いてかないで下さいよー!」
「え、いやいや! レイ君⁉︎」
そしてあろう事か、戸惑う私を前にして。
レイ君もその後を追うように走り……。
自分から、落ちた。
「この高さから落ちたら死ぬんですけどっ⁉︎」
「大丈夫ですよリスティちゃん」
「何がっ⁉︎」
私の焦りとは裏腹に、クロは動かないしフィーちゃんも落ち着いてる。
いやいや!
ここの高さ分かってる⁉︎
「クロ‼︎」
声をかけるも、クロさんこっちをチラッと振り返りながら、一応と言わんばかりに追いかけるだけ!
おいクロよ!
私の心共有してんじゃないの⁉︎
てかフィーちゃんも読めるんじゃないの⁉︎
「もっと急いでってばー!」
「なんで焦ってるんですか?」
「逆になんで焦ってないんですかっ⁉︎」
急かす私に、フィーちゃんは振り向きながら聞いてくる!
え、私おかしくないでしょ!
仲良い友達落ちたら焦るよね⁉︎
「リスティちゃん、いいですか?」
「何っ⁉︎」
この温度差に、苛立ちながら聞いてしまう。
それにフィーちゃんはゆっくりと答えた。
「リリチカ様達は風の魔力が強いので……怪我なんてしないと思います」
「へ?」
……その発言に、一瞬考えて固まった。
「途中で加速を使って、ゆっくり降りると思います」
今度は私に分かるように。
フィーちゃんは、こちらの目を見てそう言った。
「……あ、そっか」
気の抜けた声が、喉から漏れ出した。
私から見たら、自殺行為だったけど……。
ここは、魔法の世界。
魔法を使えばーー常識はいとも簡単に壊れる。
馴染んだようで、未だに馴染めていない私は、すっかり風魔法のことは頭から抜けて、考えていた。
通りでクロも追いかけないわけだよ。
同化はできるけど……クロはもう、ほんとに擬似魂があるんだろうね。
自分で考えて、危険がないって判断したんだろう。
考えてないのは私の方だ。
「……なんか疲れたし、私たちも戻ろう?」
げんなりした私の言葉に、フィーちゃんは少し笑って前を向いた。クロも「きゅるるる」と鳴くと、少しスピードを上げた。
やっぱり私、ダメダメだわ……。
突然の事態とかに弱い。
まぁ、何もなくてよかったけどね?
こんなんだから、常識がないとか言われちゃうのよね……まぁ、もう諦めたけどさ。
迷惑かけたくないだけなら。
1人になれば、いいんだし。
……あと、もうちょっとだし。
急に頭が冷えたと同時に、心も冷えた気がした。
「リスティちゃん」
「……ん?」
ちょっと落ち込んだ私に、優しく声をかけてくれる。前を向いたままだから、表情はわかんないけど。
「足りなければ、補ってもらえばいいと思いませんか?」
「え?」
柔らかな声音に、その言葉に、意図が読めずにいる。
「人は支え合うものです。だから、自分でどうにもならないことは、人に補って貰えばいいと思いませんか?」
続けられても、よくわからない。
首を捻っても、フィーちゃんには見えてないと思うけど。
「ふふっ……つまり殿下の隣なら問題ないと思います」
「それは問題ありまくりじゃないかな……」
何が問題ないのか。
私自体が、問題の塊みたいなもんだよね?
アルは確かに万能だけど……足引っ張りたいわけじゃ、ないんだけどな?
「違います。殿下もリスティちゃんに、助けられてるってことですよ」
心を読んだのか。
にしても、よくわからない解答を返された。
明るく澄んだ、弾む声で。
私の眉のシワは、深まるばかりだ。
「あ、殿下が待ってますよ!」
彼女の指差す方向に目を向けると、待機組が見えた……もちろん、リリちゃんたちもそこにいた。
やっぱり無事なのね……。
良かったと思いつつ。
焦った自分はなんだったのかと、今更少し恥ずかしくなりながら、迫る地面に身構えた。




