279話 研究発表
「こっちですこっちー!」
ぶんぶん手を振りレイ君が呼んでいるので、そっちの方にみんなして向かう。
さっきの発言といい、ちょっと身構えてしまう。
「姫を呼びつけたからには、それなりの成果を見せてもらわないと……分かってますのよね?」
氷華様はそう凄むので、今度は違う意味で身構えるけど。
「そうですねー! これは姫様にも言っておくべきだと思うので!」
笑顔でそう言い放ち、ブリザードが全然通じてない彼はたまに、頭がお花畑なのかな? と思う。
まぁ、研究絡まなくても空気読まないけど……レイ君って、読めてるけどわざと読まないタイプだよね。
鋼の精神の持ち主よ。
それがリリちゃんには生きてるけど。
でもたまに油を注ぐこともあるし……って話がそれたね。
「それで、何がマズいの?」
2人に話させておくと、喧嘩になりかけることもあるので先を促す。
私の投げかけた疑問で、顔をこちらに向けた。
「ここ見て下さいよ、ここ!」
魔法陣を指差し、視線もそちらに一瞬移して訴えてくるので、そちらを上から覗き込む。
「……ごめん、よく分かんないよ! フィーちゃんわかる⁉︎」
「えっと……私の場合、もやが掛かって見えるので、普通の魔法陣じゃないのは分かるんですけど……」
「そっか! そうだよね!」
そもそも魔法陣が分からない私には!
なんの変哲もない魔法陣の模様に見える!
だからフィーちゃんに振ったけど、フィーちゃんだって魔法陣は知らないだろう。
その上闇魔法の影響で、魔法陣自体を純粋に見るのは、ちょっと難しいのかも。
でも、リリちゃんは少し違うみたいだ。
「これは……この前と違いますの?」
「さすが姫様ですねー! そうです! ここに描いてあるのは、場所指定の指示記号なんですけどね?」
険しい顔で覗き込むリリちゃんに、レイ君はそっちを見て、あっけらかんと言ってのける。
「これ」
そして、その続きは魔法陣を見ながら……どこか悪い笑みを浮かべながら言った。
「指示記号、この建物に……闘技場になってます」
「えっ」
思わず声が漏れた。後ろでも、息を飲む音がする。
それ、どういう事……?
よくない予感がするの、気のせいかな?
「もっと具体的に言いなさいレイナー。どこが悪いのかはっきりと」
テンパってる私と違ってリリちゃんは、冷静に凛としてそう言ってのける。さすがお姫様は違うよ……。
それにちょっと苦笑して、説明が入る。
「手厳しいですねー! まぁ多分お分かりだと思うんですけど、前回はドラゴンの力を奪うのが、逆向きに……与える方になってたじゃないですか?」
うん……まぁそこまではついていける。
でも今回は、そこだけじゃないんだよね?
「あれはあのままだと不完全でした。だって与える対象が決まってましたけど、与えるためのその魔力どこから集めるのか……詳しく指定がなかったですから」
「まぁ、見逃した可能性もありますけど」と、付け足す。でもあれだけ食い入るように見てたし、それはなさそうだけどね。
「それでもあの魔法陣も光っていたでしょう? あれは魔法として発動している、何よりの証拠ですの」
リリちゃんはそう、不審がっている。
まぁ、確かにそうだね。
魔法陣は魔法が成り立っている時、発動している事が分かる様に……というか、魔力がその魔法陣を循環するから、光るんだよね。
「そうなんですよねー、あれは魔法陣に込められた魔力から吸い取ってたか……もしくは周りの余った魔力かな? って感じで、まぁだから、みんなに影響なかったんだと思うんですけど」
ん? ちょっと意味わかんない。
高度すぎる会話反対ですよ?
「周り……ですか。それは範囲が広すぎるのでは……?」
私と違って頭の良いフィーちゃんは、話についていけてるらしい。余った魔力とやらが、周りにあるのって普通なの?
私が眉をひそめていると、それに気付いたレイ君がちょっと笑った。
おうおう、笑うんじゃないわよ。
みんながみんな、そんな頭良いと思わないでよね!
そう睨んでみたけど、ふいっと目を離された。
「……聖女様の言う通りです。ちょっと補足しますと、魔力は空気中にもあると言われてるんですよ。これは精霊がいるからとか、生命の作り出す魔力が漏れてるからとか、色々言われてますけど」
へー、そうなんだ?
空気みたいなものなのかな……?
彼の説明はまだ続く。
「元来魔法陣は、発動してしまえばその魔力を補おうとしますから……周りの魔力……空気中や土地の魔力を、媒体にしていた可能性はあります」
あぁ、ここは学園だもんね……。
生命から魔力が漏れる、とか言うなら。
魔法使いの卵の集まるここは、絶好の場所。
それに土地にも、今までのドラゴンの魔力が、染み渡ってるらしいし?
うんうん、と頷いている私に、レイ君がチラッと目をよこして口元で笑う。
こういうとこは、良い先生になれそうなんだけどねぇ……。
「ただ、範囲が広すぎますから……影響がそれほどでなかったんだと思うんです。いつからあぁなってたのかは、想像できないですけど」
「でも未知の魔法陣でしたの」
その言葉にも、冷静に返す。
「魔法陣の魔法は、常に一定です。魔法陣の大きさで多少調節はできますけど……そこでしか調節できないですから。技量とか、関係ないですから。限界があります」
ほほーう。なるほどー。
私はコップとストローをイメージした。
コップからジュースを吸うのと。
プールからジュースを吸うのじゃ違うよね。
吸える量は同じだ。でも、影響は違うよね。
それは与えるのでも、同じことなんだろう。
通る道は同じ太さ……魔法陣は、ストローみたいなものだね。
「で、本題ですけど。この魔法陣の場合……範囲指定がちゃんと入ってるんですよね」
「え、それどこなの⁉︎」
場合によっては危ないよね⁉︎
ちゃんと話を理解した今、私は焦ってそう尋ねた。
しかしどこか面白そうに、レイ君は笑いながら言った。
「だから言ったじゃないですか、それがここ……闘技場ですよ」




