268話 思い出はビターテイスト
「んー、こっちはこの前と同じですねー……じゃあ、あっちは……」
フィーちゃんの指差したところを、確認したレイ君が、顎に手を当て腕を組みながら言う。
あまりに大きいので、たまにレイ君は加速を応用して、少し飛び上がって魔法陣を見ていた。
滞空は難しいけど、このくらいならできるって事だね……まぁ、私にはどっちにしても、ビックリ人間ショー気分ですけど。
「そう考えると、やっぱり王族ってすごいのかなぁ……」
「なんの話ですの?」
私の呟きに、リリちゃんがこちらを見る。
「あ、いや。ちっちゃい頃にアルが空飛んでたの、思い出してね。あの時はビックリしたなー」
レイ君の確認には、もう少しかかるだろう。
だから笑いながら、話を続ける。
「いやぁ、私が迷子になってたのがいけないんだけどね? 黒いマントまで着てたから、誰かと思って……」
懐かしいなぁ。あの日は多分、どれだけ経っても忘れられないよね。
ヴィンスともフィーちゃんとも、初めて会った日だったし、女神様にも誘拐されたと思ったし……。
それに何より、あれ以来私とアルの距離感が変わったし。
あの時はまだ、敬語混じりだったんだよなぁ。今じゃ信じられないね。もう戻れないなぁ。
「いつもにこにこ、優しい王子様かと思ってたら、すっごい怖い顔してきたんだもん! もー怯えたよね」
苦笑いして話す私を、リリちゃんはまじまじと見ている。
あの時までは本当に、『アルバート王子』って感じだったんだよね。
いや、今だってアルが何か、変わったわけじゃないんだけど。
でもなんていうか……。
怒られて、照れてるところを見て、笑って。
彼が、目の前にいる1人の人間なんだなって。
身近に感じやすくなった、そういう出来事だった。
「いつの話ですの?」
興味があるのか、尋ねられた。
「10年前くらいの、海送りの時の話だよ。私がリリちゃんに会う前だね」
にっこり笑って答える。あの小さかったリリちゃんも、今ではこんなに美少女ですもんね。
あー。なんかすごい感傷的だわ。
あれか、終わりが近いからか。
学園生活が終わったら、私は……。
「え、それって、私が別れた後のことでしょうか……?」
もう記憶が戻ってる、フィーちゃんがおずおずと聞いてきた。フィーちゃん、誰かが探しに来てるって言ってたもんね。
「そーそー。あの後大変だったんだよー!」
まー自業自得なんですけどね!
正直アルより、その後の女神様の方が大変だったけど……。
「じゃああの、すれ違った影は殿下だったんですか……」
「え? なんの話?」
「私が屋台に帰る途中で、すごい勢いで走る小さい影とすれ違ったんです。リスティちゃん、愛されてますね?」
くすり、と笑って言われて面食らう。
「あ、愛っていうか……アルはお兄ちゃん気質だから、私のこと放って置けなかったんじゃないかな?」
まぁ、迷子が知り合いだったら、私も探しにいくしなぁ。
困ってそう答えたけど、リリちゃんから口を挟まれる。
「いいえ、お姉様。お兄様は典型的な『良い子』ですのよ。ヴィンセントとは違って」
「まぁ、アルは良い子だけど……その比較、ヴィンス泣くよ?」
「事実ですの」
あーあー、冷たく言われちゃって。
まぁ、今のヴィンスは計算高いけどね。
子供の時はそうでもなかったよ?
彼へ同情する私にはお構いなしに、リリちゃんはこちらを見つめて続ける。
「あんなに素晴らしいお兄様ですけれど、一度だけものすごく叱られましたの」
「え? アルでも怒られるんだ?」
「私の記憶では、多分その時のことですの」
その発言に、言葉が詰まる。
あ、あら? 私ヤバい事したの?
うん、したよね。
知ってたけど……知ってたけど!
「お兄様は私のような我儘は言いませんし……言いつけを守る『良い子』ですのよ。その時だって、自分で探しに行かないように、言われてたはずですの」
「うっ」
な、なんで古傷を抉られているんだ⁉︎
ダメージを受ける私に、リリちゃんが淡々と、畳みかけてくる。
「お兄様、あろうことか監視まで撒いたのですの。そんな事する人ではなかったのですけれど」
「うぅっ!」
それは私を探すためだね⁉︎
そりゃそうだよね‼︎
王子様が探しに来れるわけないよね‼︎
そんな私たちの様子を、フィーちゃんが見てるけど……なんでちょっと笑ってんの!
「しかも、そんな目立つような真似……あのマントには、目眩しの魔法がかかってましたけれど……後にも先にも、お兄様にそんなことをさせられるのは、お姉様だけですの」
これは褒められてないな!
立場の苦しい私は、歯を噛みしめながら反論する。
「いや……! リリちゃんのためならやるでしょ‼︎」
「それは私が妹だから当然ですの」
「すごい信頼だね⁉︎」
しれっと言ったよ! さすがブラコン‼︎
『学プリ』よりマシかなって思ってたけど!
実は結構、私の影に隠れてるだけだよね!
美しきロイヤルの兄妹愛に、感銘を受けつつ固まったら。
長い睫毛を伏せて、ひとつため息をついた後、こう言われた。
「お姉様がお兄様を変えたんですの。責任をとって下さらないと困りますのよ」
「それは……」
今度は私が視線を外して、戸惑う。
分かってる。
ある程度は物語を元に戻さないと。
それがアルの……幸せなんだよね?
変わることを怖がる、この気持ちに区切りをつけないと……。
「あの!」
そこに、フィーちゃんが思考を遮ってきた。
「リスティちゃんのそれ、多分勘違いですから!」
「……うん?」
ちょっとどういう意味か分からない。
でもかなり真剣な表情を向けられてるから、本気で言われているのは分かるけど……。
「みなさーん! ちょっとマズいことが分かりましたー‼︎」
そんな緊張感は、この発言で吹き飛ばされた。
いつも閲覧ありがとうございます!
全然更新できてなくてすみません!
でもブクマ等ありがとうございます‼︎
仕事が落ち着いたら!
絶対もっと頻度上げますー!
感謝祭もしたいですね!
でもまだ無理なので!
せめてこれ以上更新頻度はおとさないようにしますね!
楽しみを届けられる機会が減っておりますが……。
引き続き頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!




