263話 人選
「ちょっとちょっとー! 抜け駆け禁止ですよー‼︎ 魔法陣、オレだって見たいんですよー‼︎」
そんな大きな声に、場の空気は崩される……こんなセリフ言うのは、1人しかいない。
い、今は助かったよレイ君!
「ま、待ってたじゃないの! 何言ってるのよ‼︎」
後ろから声がしたので、苦い顔をしているアルの手を掴む。
でも腰には手が回ったままだから、ダンスみたいに掴んだ手を主軸にして、くるっと半回転する。
よしよし! これで半分逃がれたようなもんよ‼︎
そこには案の定レイ君と、ヴィンスとブランがいた。3人で見回りしてたのかな?
「嘘ですよー! 姫様が戻れって言うから戻ってきましたけど、このままだと1人で出て行っちゃうって言われましたもん‼︎」
あ、リリちゃんがもう言ってたのね。
苦し紛れの言い訳は、事実を知ってるレイ君には効かなかった。普通に怒られる。
まぁ睨まれても。
レイ君のその怒り方だと怖くないけど。
むしろ、一定の需要がありそうよね。
「……だって、みんながついて来れないと思ったんだもん」
手を軽く上げて目を閉じて、降参のポーズで話す。事実だし。
「まずどこにあるか言ってくださいよ!」
「え、あ、ごめん……まぁ予想だけど」
ぷんぷん怒られて、とりあえず謝りながら天井を指差す。
「あそこ」
場所までは知らされてなかったのか、男性陣がびっくりしているのが分かる。
「天井ですか……たしかに、そこはまだ調べてないですね!」
まぁ1名は、明らかに喜んだ表情だけど。
君はいつでも楽しそうで良いね。
いや、嫌味じゃなくてね。
何かに夢中にな人って、輝いてるよね。
「じゃあ早く行きましょう‼︎」
「え、話聞いてた?」
「上に行けば確認できるんですよねっ⁉︎」
いやそうだけども。
そんなキラキラな笑顔で言われても……1つ、大事な事を言わなければならない。
「行ってもそもそも魔法陣、レイ君じゃ見えないかもよ?」
屋上の魔法が見えるようになったのは、フィーちゃんが闇魔法を解除してくれたからだ。
つまり……また隠されてたら。
ていうか私以外が光に気付いてない時点で。
ほぼ確定的に、隠されてるので……。
「えぇー⁉︎ やですよ‼︎ 俺も見たいんですーっ‼︎」
「でも見えるようにするには、フィーちゃんに解除してもらわないとだし……」
そして闇の魔力によって書き換えられたなら、フィーちゃんなら直せる可能性もなくはない……。
前回はまず確認をしよう! という事で、保留にしたらなくなっていたのだ。
今回は変わっていたら、確実に書き換えられてる。
というか、前回もフィーちゃんは、書き換えられてる所に「黒いモヤが見える」と、言っていたので……。
連れて行くなら、どう考えても。
断然フィーちゃんである。
「……布なら外せば?」
面倒くさそうに、セツが言ってくれる。
お、頭いい! と、思ったものの。
「ダメだよ。許可なしには外せない。第一、至る所に布への魔法陣もあるはずなんだ。それを1つずつ解かないと、天井の布は布に戻らないよ」
ブランがもっともな、そして悲しい事実を教えてくれた。
「……その様子では、未だかつて外された事がないのでは?」
「あ、ヴィンス君鋭いね。記録に残る範囲だと、外そうとして諦めた記録しかないよ」
「魔法陣の位置、記録に残ってないんだよね」と、呆れるヴィンスにブランが言った。
まぁ、張り直すのも時間も手間もかかるから、現実的ではないという事だね。松明ケチる学園には、非現実的だったようだ。
「という訳で、クロでちゃっと上に行ってくるから! これ定員2名までだから!」
だから、待ってなさいという視線を送るも、それくらいで諦める彼ではない。
「えぇー! いやいやクロ使うんですよね⁉︎ 行けますって!」
「どうやってよ……」
「クリスちゃんが考えてるより、大きい生き物にすれば行けますって!」
ちょっと何を言っているのか分からない。
空飛ぶ大きい生き物って、早々いないと思うけど?
しかも、クロは自分で見たものか、私が見たものじゃないと変身できないんだけど?
怖いが、一応聞いてみる。
「何を想定したのよ?」
「いや、ドラゴンとか……」
「ドラゴンは普通に暮らしてたら、見るものじゃないのよ‼︎」
「ちぇー」とレイ君が言うが、その口ぶりだと、本人は見た事あるのだろうか?
……ありそうだから、考えなかった事にしておく。これ以上問題は抱え込めない。
私、ハンターじゃなくて、ご令嬢なので。
「……仕方ないですの。私が氷で足場を作りますから、それで見に行けばいいですの。ただあまり頑丈に作ると、明日に響きますから、連れて行けるのレイナーだけですけれど」
「へ?」
「まぁ私も、ついて行かなくては行けなくなりますけれど……お姉様のためですし」
リリちゃんが、仕方なさそうに提案してくれるけど。
「それ、危なくない?」
顔を顰めて、そう尋ねる。
氷なんて滑りそうだし。
足滑らせて落ちたら……と思うと。
というか、お姫様にさせる事でもない。
「レイは水の魔法が使えますから、それでしたら私がやりますが……」
「というか、足場なら土魔法でもできますから……」
アルとブランも危ないと思ったらしく、代替案を出す。王子様が行くのも、違う気がするけど……。
しかしリリちゃん、首を振る。
「お兄様は明日へ力を、温存しておいて下さいませ。上に行く間にも、何度か足場が必要ですの。2人で力を合わせてやるより、私の方が繊細に足場を作れますの。とっさの判断もできますし」
アルに言い終わって、今度はブランにも言う。
「あと土魔法ですと、戻すのが面倒でしょう? 土魔法は基本的に、鉱物や植物などを媒体に扱う魔法。戻すときも魔法を使うでしょう? その点、氷であれば火も水も魔力。解けば終わりですの」
そう、理路整然と語ってのけた。
なるほど。確かに明日大会なのに、闘技場に痕跡が残ってたらマズい。そこまで考えての提案なのか……。でも。
「リリちゃんも大会でるのに、大丈夫?」
少し魔力を使うなら問題ないだろうが、複属性魔法は上級の上。かなり消費する。
あまりお勧めできないけど……。
心配で見つめると、リリちゃんは笑って言う。
「お姉様、私も『愛し子』ーー神に愛されし者ですのよ」
いつも閲覧、ブクマ等ありがとうございます。
仕事と体調的に本日と明日は
更新ストップします。
明後日は多分復活すると思いますが…。
いや本当に時間がなくて。
すみません。
明後日をお待ち下さい。




